「カワイイ」ものシグナリング。|俗なサピエンスの生態観察日記 #72
ハローキティの50回目の誕生日をお祝いするサーティワンとサンリオのコラボキャンペーン「HELLO! ICE CREAM」が11月1日(金)から販売開始となった。発売初日にはいつも行列を作るほどの人気のコラボだ。
だが、この手の「理解できない」行列にはかならず噛みつくやつがいる。;
(https://x.com/8zreee/status/1852934353732649471?s=46 より引用)
「絶対インスタなかったら買わねーだろ」
その通りだ。
サピエンスの消費行動の多くは〝みせびらかし消費〟なのだとジェフリー·ミラーは著書『Spent!』のなかで分析したが、「サーティワンでキティ狙いの爆買いJK大量発生」ははずれ(@8zreee)氏がいうようにまさにこのタイプの消費行動に当たる。
シグナリング(=他者の脳に情報を植え付ける)のための消費は、見物者がいなければ意味(=効用)がない。したがって「インスタが無かったら買わない」は言い過ぎだが、SNSの登場によって増幅されている行動なのは間違いないだろう。SNSがなければ周囲の2〜3人にしか見せびらかせないものが、インスタのストーリーズ機能によって100人200人というフォロワーに見せられるからだ。
(ハイブランド店がターミナル駅の駅前や百貨店の一階のような人通りの多い場所に店を構えたがるのも、そこに入店する姿を庶民に見せびらかしたい金持ち達の隠れた欲求を満たすためだ)
ところで、ハローキティのような〝かわいい〟ものをみせびらかすことにどんか意味があるのか? 高級ブランド品なら「わたしはこれを買うだけの財力がある」という経済的ドミナンスをとったマウントを他人に仕掛けられる効用があるわけだが、サーティワンのハローキティアイスクリームはスモールダブル660円、レギュラーダブル910円、豪華なアップルパイサンデーでも1350円と、(女子高生のお小遣い範囲では高価とはいえ)ファストフード店のセットメニューを買うのと大差ない価格だ。
「かわいい」ものをシグナリング消費する意味は、それを見た者の脳内に〈自分〉と〈かわいいもの〉の関連付け(条件付け)を生み出すことにある。
条件付け、という心理学用語を聞いたときに、みなさんの脳内で関連付けされていておもわず思い出される実験といえば〝パヴロフの犬〟だろう。19世紀のロシアの生理学者パヴロフはベルの音と食べ物を繰り返し組み合わせることで、イヌの脳内に〈ベル=食べ物〉の関連付けを生み出すことに成功した。
この結びつきを生みだす脳の能力を利用しているのが、CMなどの広告に代表される企業のマーケティング手法だ。日頃から特定の製品とたえず結びつけられる刺激(たとえばロゴやパッケージのデザインや美味しいという概念や安いという概念)があれば、ヒトの脳はそれを学習し、しだいに製品の感じ方に影響が与えられていく。NIKEはクールだ、とかマクドナルドは安い(他と比べ大して安くないのに)といった印象が連想によって形成されていく。
JKがハローキティの「かわいい」アイスクリームをInstagramにアップするのは、これと同様の自己マーケティング行動の一環と見ることができる。企業がやっていることを個人もやるのだ。
SNSに日頃から「かわいい」ものをアップしまくる子は、あるいは可愛いもの思いと自分の写真を交互に載せる子は、それを見ている者の脳内に〈○○ちゃん=かわいい〉の関連付けを生み出すことを狙っているのだ。
ヒトの脳は、たえず交互に連続してくりかえされるなどして"関連する"とみなされる概念のあいだにリンクを創ることで、世界についての意味的知識を整理するようにできている。この脳の連合アーキテクチャの設計を逆手にとるのがJKだ。
かわいいものの消費をみせびらかすことによって、〈わたし=かわいい〉のシナプスリンクを他個体の脳内にビルドし、次に自分を見かけた時に「○○ちゃんはかわいい子」の認識を抱かせる。
アタマ空っぽにみえるJKのシグナリング戦術はじつにかしこくワークしているのだ。