木根川橋
片側一車線の木根川橋は、荒川と綾瀬川にかかり墨田区と葛飾区を繋ぐ。つまり木根川にかかる橋というわけではないらしい。そもそも木根川という川が存在するのだろうか。あのさだまさしさんの曲としても有名だが、歌詞にその所在は示されていない。
そんなことを考えながら渡る、制限速度が許された深夜3時半を過ぎた頃。出勤時のように後ろから煽る車もいない。と、何やら軽自動車が対向車線の向こうから近づいてくる。それに気づくのが遅れたのは、その車が無灯火だったからだ。
週末の深夜とはいえ、なんだか嫌だなぁと思った次の瞬間、ふらふらっとこちらへ寄ってくるではないか。
気のせいかとも思ったが、咄嗟にブレーキを踏んだ私の車は荒川の真上でほとんど停車する。しかし確かにぐんぐん迫ってくる。ついにオレンジのセンターラインを越える。これはまずいと今度はクラクションで警告する。あわや正面衝突、というところで向こうはハンドルを切って元の車線に戻った。
若い女性に見えた相手のドライバーは、少し驚いた表情でこちらを見ながら私の右側を通過していった。
驚いたのはこちらの方だ。なにせ時速40キロで正面から突っ込んでくる鋼塊の恐ろしさたるや。眠気など吹っ飛んでしまう。
これを書いている今も手の震えが止まらない。
「ーあの頃何やら覚えているのは
あの娘の笑顔の冷たさと
不思議な胸のどよめきと
あっけらかんとあっけらかんとー」
(木根川橋/作詞:さだまさし/2004年より)
荒川ではなく、綾瀬川でもなく、そして木根川でもない。あれが丑三つ時だったなら、或いは三途の川を渡っていたのかもしれない。そう考えると、それはそれは胸のどよめきと、あっけらかんとあっけらかんと。
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