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Wi SPA事件を振り返る:法律、警察、メディア、そしてフェミニスト…誰も女性達を守らなかった

海外同様、日本のTwitterでも連日トランスジェンダーとの軋轢を憂慮する女性達とLGBTアライ達の論戦が繰り広げられている。最近、この傍目には無間地獄のようなテンプレコピペ合戦に「Wi SPA事件」が降って湧いた。事件を時系列で振り返り総括するとともに日本のジェンダー界隈の反応も併せて紹介したい。


まず簡潔にまとめるとWi SPA事件とは:

LAにある韓国式スパ施設に訪れた女性が女性エリアにて男性器を露出した人物に遭遇→驚いて受付スタッフとやり取り→その内容がネットで大注目→被害女性らによる抗議デモとトランス擁護派のANTIFAらが衝突→各メディアは女性の訴えを「トランスフォビアによるやらせ」と一方的に断罪しフェイクニュースを拡散→2ヶ月以上の騒乱の後、被害女性の訴え通り問題の男は性犯罪歴のある自称トランス女性だった

というものである。以下、ソースを引用しつつ時系列でより深く事件を追う。


発端は今年6月24日、cubanangelというアカウントがInstagramに投稿した動画だった。LAにある韓国式スパ"Wi SPA"の女性専用エリア内で、女性を自称する人物が半勃起したペニスと睾丸を剥き出しで寛いでいたという。そのショッキングな光景に、幼い娘を同伴していた投稿者女性cubanangelは大慌てで受付に駆け寄り状況を説明する。しかしスタッフの返答は「『カリフォルニア州法第51条:性別、宗教、人種を問わず、いかなる差別もしてはならない』に則って営業している」というもの。さらに通りすがりの男性に「その人はトランスジェンダー女性だったんだろう」と宥めすかされ、女性は「なにがトランスジェンダーよ!ペニスも睾丸もぶら下げて、それはただの男よ!」と激怒。動画はその時の彼女と受付スタッフとのやり取りを収めたもので、瞬く間にTwitterなどで拡散された。わたしも6月27日に保守系メディア記者Ian Miles Cheong氏を引用しツイートしている。

“It’s okay for a man to go into the women’s section, show his penis around the other women, young little girls — underage — in your spa?”

「あなた方のスパでは、男性が女性や未成年の女子にペニスを見せつけながら女性エリアに入室することをOKとみなすの?」(動画内で投稿者女性がスパのスタッフに発した台詞)


ジェンダー問題に限らないが、思想の分断が進み全てが二極化した米国においてネット上の建設的議論など望むべくもない。すぐに『トランスジェンダー権利推進派(LGBTアライ、ANTIFA、BLM、進歩派リベラル、極左など)』と『女性専用スペースをトランス女性と共用することに反対派(フェミニスト、保守派、福音派など宗教保守、極右など)』の真っ二つに分かれ、激しい応酬が始まった。注意すべきはLGBTアライの中にもフェミニストが多く含まれていることである。彼女らは「トランス女性は女性」という認識のもと、身体が男性のまま(未手術)でも女性として女性スペースに包括されるべし、としている。欧米ではこういったトランス権利活動家をTRAと呼び、トランス女性との女性スペース共有に慎重・否定的なフェミニストをTERFと呼ぶが、現在ではTERFには「トランス嫌悪の差別主義者」という侮蔑的な意味が含まれている。

TRA=Trans Rights Activists(トランス権利活動家、一部フェミニストもいる)
TERF=Trans-Exclusionary Radical Feminist(トランス排除的ラディカルフェミニスト)


6月29日付で地元紙LA Magazineが記事を発信。Wi SPAは記事内で改めて「カリフォルニア州法第51条に基づいての措置」だと主張。「LAはトランスジェンダーの多い地域で、彼らの中にはスパを楽しみたい人達もいる。全ての顧客が満足できるよう善処したい」とコメント。同記事内では別のスパにもインタビューしているが、これが興味深いので引用する。

A rep for Century Day and Night Spa on Olympic Boulevard recalls a similar situation just before the pandemic shut them down in spring 2020 in which a trans woman (“with everything reflected female on her driver’s license”) caused an uproar among cis gender female clients by exposing male genitals in the female pools and lockers. “[She] wouldn’t really use the spas, [she] just sat at the corner of the pool with [her] feet in the water and [her] legs spread or took front-facing showers,” the rep recalls. “People began to feel uncomfortable. It became very disruptive.” When the spa finally confronted her, she was adamant that the spa should attempt to normalize young girls and women viewing male genitalia.

なんとこのCentury Day and Night Spaのスポークスパーソンは、「大抵のトランスジェンダーの人達は周囲に気を配ってくれるが」と前置きした上で、2020年春に女性用プールやロッカールーム内で男性器を露出したトランス女性と女性客達の間でトラブルがあったことを告白しているのである。「その彼女(トランス女性)はあまりスパエリアを利用せず、プールの角に足を広げて座ったり、前を見せる向きでシャワー浴びたりしていたので女性達の居心地が悪くなってしまったんです。とうとう我々が注意すると、『少女や女性達が男性器を目にすることが普通となるようスパ側が推進すべきだ』と言い張っていました。」それでもトランスジェンダーとスペースを共有しようという企業努力の好例、とリベラルなLA Magazineは言いたかったのだろうが、逆にWi SPAでの一件が余計リアルに感じられ、トランスアライへの援護射撃にはなっていない。


そしてWi SPAの利用客であった女性達とその賛同者達により、店舗前で抗議デモが決行される運びとなった。それに対抗しトランスアライやANTIFAらはカウンターデモを宣言。カウンターデモのチラシを見るとこの時点でトランスアライ達は「渦中の人物は、トランス女性であるのに男性とミスジェンダリングされ、ただそこに存在していただけで危険な目に遭わされた『被害者』であり、動画投稿者の女性は怒りに満ちトランス女性に因縁をつけた『加害者』であるばかりか、右翼勢力にトランスヘイトの餌を撒いた」と喧伝している。この口上は後に日本のトランスアライがTwitterで主張するものと同じだ。

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ちなみに欧米の左派団体はLGBTにしろANTIFAにしろBLMにしろ個々の情報拡散力が高い上、臨機応変に共同戦線を張り、政治家や企業、SNSやマスメディアを巧みに利用し積極的にロビー活動もする。プロパガンダ色の強い映像作成や編集技術にも長け、プロテストのたびに仲間を動員し動画を撮影、編集してネットに流す。マーケティング力もありグッズ販売などで支持層との繋がりも強化する。したがって高齢化著しい日本の斜陽サヨク団体やおままごとのようなANTIFA支部とは全くレベルが異なる。


7月3日抗議デモ当日、騒動の発端となった動画投稿者の女性が壇上に立ち、事件当日を振り返るとともに女性の安全と権利を訴えた。Romly氏が日本語字幕をつけて下さったのでここに引用する。

しかしWi SPA前へ抗議に現れた女性達をANTIFAらトランスアライが待ち構えていた。現場の映像をジャーナリストのAndy NgoやDrew Hernandes達がTwitter上で公開、「反トランス差別」というお題目の元にANTIFAら極左暴力団体が女性達に危害を加える様子が明らかになった。ひとりの女性を大勢で取り囲み恫喝別の女性を付け回し液体を浴びせかけスケートボードで殴る女性達への加勢に駆けつけた宣教師の男性を殴り地面に転がすなどの暴力行為にも警察が積極的に介入することはなく(進歩派リベラル政治下ならではの光景である)、女性達は恐怖にさらされた。また自作のプラカードを持ったヒスパニックのカップルも集団で囲まれ攻撃され、ANTIFAら極左団体の標榜する「有色人種の人権を守れ」がいかに空虚な嘘であるかがわかる。

こちらの動画では抗議者の一人である女性(紫のシャツ)が取り囲まれ罵声を浴び、水をかけられている。女性が反撃に出るとスケートボードでこづかれる。(ちなみにスケートボードや傘は攻撃と防御両用に使え、職務質問もパスできるANTIFA御用達の武器である。スケートボードはヘルメットの上からでも警官の頭蓋骨を割ることができ、傘は先を尖らせることで殺傷力を上げている。)

結局トランスアライを称するANTIFAら極左団体が現れたため、一般の人達にはとても恐ろしく近寄りがたいデモとなってしまった。またANTIFAに対抗せんとして数名のQアノン信者と見られる人物やプラウドボーイズと思われる右派集団もやってきた。この衝突により2名が負傷、後に加害者であるANTIFAメンバーは逮捕されている。


また同日カナダのフェミニストグループが、このカウンター・プロテストを呼びかけたのはPrecious Childというトランス女性歌手だとツイート。当人の画像や書き込みからANTIFAシンパで過激な人物ということが窺える。後日Andy Ngoもこの歌手の最新ミュージックビデオを紹介、Child本人が勃起したペニスをスパ内で女性達に見せつけるシーンがあり、Wi Spa事件を揶揄したのではと指摘した。ちなみにこのSNSで刃物をチラつかせるような胡散臭いPrecious Childなる活動家を、The Guardian紙が7月28日付の記事で「反トランス騒動を巻き起こしたスパ動画に果敢に立ち向かったヒーロー」扱いしていたのには失笑を禁じ得ない。リベラルメディアにジャーナリズムなど既になく、記者のフリをした活動家達がイデオロギーを垂れ流す場となっている。


デモの狂乱も冷めやらぬまま7月7日、Wi SPA騒動と同じ経験をし、過去に警察にも相談したという女性がフェミニスト記事サイト"4W"上で匿名インタビューに応じる。4Wもジェンダーブームにより女性の権利や安全が脅かされることに警鐘を鳴らしてきたフェミニストグループである。このインタビューは日本の有志の方が日本語で全訳を公開して下さっており、記事内のリンクから閲覧できる。

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記事によるとWi SPAでの「女性専用エリア内での男性器露出事件」は2018年にも起き、そして今回インタビューに応じたリンダさん(仮名)も2020年1月に経験している。ネット上では他にも多数の報告があるが、2018年の一事例については保守論客のMatt Walshが来店レビューを発掘しツイート、さらに日本の方がそれを日本語に訳しツイートして下さっている。


さてリンダさんは6歳の娘を連れて入店、女性エリアのジャグジーに浸かる。そこへ薄っすらと髭を生やした長髪の男性が女性2名を伴ってやってくる(この「活動家あるいは支援者と思しき風貌の女性陣を連れて来店」、というのは他の目撃事例でも散見される)。ペニスと睾丸は完全に露出していた。男性はジャグジーの縁に腰掛けリンダさんの娘がいる方向に向かって大きく足を広げたという。3人組の威圧的な雰囲気にリンダさんと他の女性達は不安を覚え、リンダさんの娘の視界を遮るようにしながら避難した。更衣室にいた別の女性客によれば、スタッフが男性にガウンの着用を求めたところ「自分は未手術のトランス女性である」と拒否されたそうだ。

リンダさんはその後受付に行きスタッフに説明を求める。しかし返事は「『カリフォルニア州法第51条:性別、宗教、人種を問わず、いかなる差別もしてはならない』に則って営業している」であった。そこでリンダさんはLA市警察署に苦情を訴えに出向く。しかし警察官の反応はリンダさんに母親としての責任を問う暴論に終始、リンダさんはひどく落胆し傷ついたまま帰宅した。

それから半年あまりが過ぎ、まるで自分の経験が再現されたかのようなWi SPAでのやりとりをリンダさんはネットで目にすることになる。7月3日に行われたWi SPA前での抗議デモに勇気づけられたリンダさんは、7月5日、短い動画(下に日本の有志の方が日本語字幕をつけて下さったものを引用)で一連の経験を語った。「『トランス嫌悪ではない、幼児の前で男性器を露出されることを懸念している』といくら説明してもANTIFAは我々を恫喝し、撮影したデモの動画を切り取って女性達の声を消しました。」

リンダさんはマスメディアの報道姿勢にも大きな不満を抱いた。例えば7月6日付けで大手リベラルメディアのWashington Post紙は抗議デモの様子を記事にした。しかしANTIFAや活動家達から嫌がらせや暴力を受けた女性達には一切触れず、強力なLGBT団体であるStonewallやトランス運動家へコメントを求め、「トランス差別」の空気があるとの論調を展開。あろうことかその場にいた少数の保守派の存在に焦点を当て、「抗議者は全員、極右・トランプ支持者・Qアノン・陰謀論者」と党派性を煽るレッテル貼りに終始した。

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後述するが、今回のWi SPA事件の発端となった自称トランス女性は性犯罪含む前科の多々ある危険人物であり、身体男性。過去に公然猥褻で二回有罪判決を受けており性犯罪者登録されているが、10月1日現在も逃走中。このことは9月2日付のLA市警による声明文で明らかになったのだが、WaPo紙はそれから一月たった現在も「(トランス嫌悪者による)ヤラセの可能性あり」とした注釈をトップに載せたままである。同紙のTRAイデオロギーありきの不誠実さはもはや日常となっている。


そして7月9日、進歩派リベラル誌(注:極左という表現は控えるがどのメディアバイアスチェックを見ても最左翼に位置付けされている)のSlateがこんな記事を発表する。

"Violence Over an Alleged Transphobic Hoax Shows the Danger of Underestimating Anti-Trans Hate—Police reportedly suspect the viral L.A. Wi Spa video is fake—but it still got two people stabbed"

「自作自演が疑われる反トランス動画から始まった暴力はトランスヘイト問題を軽視する危険性を表すもの
—警察はバズった例のWi Spa動画がやらせと睨んでいるようだがそれでも2名が刺される事態となった

Slate誌はLAのLGBTQメディアサイトLos Angels Bladeによる匿名ソースを引用し、LA市警がこの騒動を「でっち上げ」と訝しんでいると強調した。この、活動家団体と変わらないメディアサイトによる匿名ソース記事を一回り大きな全米規模の媒体が「〇〇の報道によると…」と箔を付けて引用し、さらに国際的なメディアが「全米紙のXXが伝えたところによると…」とロンダリングしていくのは昨今、お手軽ネットジャーナリズムの常套手段である。彼らの誰も裏取をせず、自身のイデオロギーに合致した情報をコピペ拡散するだけの仕事、まるでネットのbotと変わらない怠慢さと言えよう。

そしてこれら大手リベラルメディアが「Wi SPA事件はデマ」路線を明確に打ち出したことで日本のトランスアライもにわかに活気付き、これらの記事を翻訳・引用してTwitter上で情報拡散に勤しんだ。これは詳しく後述する。


7月17日、再びWi SPA前で女性らと保守派の個人・団体がデモ、そしてANTIFAらトランスアライによるカウンターデモ。さらに大規模で暴力性を増したANTIFA集団にLAPDも積極的に介入し反撃に出た様子。ゴム弾催涙ガスなどが乱れ飛ぶ非常に危険な現場となった。それにしても一人で果敢に抗議の声を上げる女性を集団で取り囲み暴言や暴力を浴びせるANTIFAが、スモーク銃を警官が構えただけで「規則違反だ!」「構えるな!」と大騒ぎである。

その後も時折BLMのトランスバンドやANTIFAなどが店舗前に現れデモンストレーションを繰り返していたが、次第にWi SPA事件の話題はちらほらと蒸し返される程度になり、新たなジェンダー議論のテンプレの一つと化してフェードアウトしていくかのように思われた。しかし夏が終わりAndy Ngoのスクープにより、事件は大きな転機を迎える。


9月2日、Andy NgoがNew York Post紙にてスクープ記事を発表。「LAPD、Wi Spa事件の公然猥褻罪の容疑者として自称トランス女性の連続性犯罪者ダレン・メラジャーをひっそりと起訴」というものである。匿名希望の関係者によると、「メラジャーが反勃起した男性器を女性専用エリアで露出していた」と4名の有色人種女性と1名の有色人種未成年女子により被害届が出されていた。メラジャーは本件に留まらず既に公然猥褻で二回有罪判決を受け、性犯罪者登録されていた身であり、性犯罪者登録不備のかどでも有罪を受けていた。discreetly(さりげなく、ひっそりと)とAndy Ngoが表現するのも無理はない。LAPDに限らず、ポートランドなどリベラル都市部の司法はANTIFAらが武装蜂起するのを恐れ、メンバーの逮捕や起訴を大々的に発表したがらず、それどころかサヨク弁護士や検察もポイポイ彼ら反社の危険因子を無罪放免・釈放してしまうのである。事実、これだけ世論を騒がせた事件にも関わらず、LAPDが公的な声明文を出し記事内容を全面的に認めたのはAndy Ngoのスクープ後であった。

記事によると、これまで捜査関係者にコメントを求めても「捜査中」の一点張りであったが、今週になりWi SPA公然猥褻重罪5件に関するメラジャーへの令状を発行。

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メラジャーはAndy Ngoの取材に対し「Wi SPAの件は嘘とデマばっかり。わたしはCA州では合法的に女。(被害女性は)わたしの裸なんか見てない。胸まで浴槽に浸かってたから。ましてや子供の前で裸体を晒したり勃起したりなんて。これはわたしに対するセクハラでトランスフォビア、被害者はわたし」とコメント。

52歳で住所不定(transient)のメラジャーの犯罪歴は多岐に渡り、強盗や脱走などを含め全部で重罪12件。公然猥褻は今件に限ったものではなく、2018年の公然猥褻6件でも係争中の身。この2018年の事件はウェスト・ハリウッド・パークのプールにて起きたもので、女性を自称したメラジャーが女子更衣室に入り、女性達と児童の前で下半身を露出したというもので、Wi SPA事件と類似している。またメラジャーは2002年と2003年に起こした性犯罪が元で性犯罪者登録されていたが、2006年に登録不備でまた有罪となっている。窓の向こう側から被害者の高齢女性に見えるようにしてマスターベーションにふけったという2003年の事件に関して、メラジャーは「確かにわたしがいるべき場所ではなかったかも知れないけれど、見せつけるつもりでやったわけではない」とNew York Post紙の取材に答えている。

またPost紙は警察が呼ばれたものの不起訴となった2018年6月の事件についても触れている。強盗罪で仮釈放中の身であったメラジャーが、フィッシュネットを着用しガソリンスタンドで小一時間ほど足を持ち上げては男性器を露出させていた、というものである。これは彼を通報した3名の顧客の内、誰も正式な被害届を出さなかったため不起訴となった。

しかしこれだけではない。同2018年12月、メラジャーはパーム・スプリングにある水泳センターで女子高生達のいた女子シャワー室を使用し陰部を露出。警察の事情聴取に対しメラジャーは「シャワーを浴びただけで自慰をしたり不用意に性器を触ったりはしていない。わたしの性自認は女性で、女性としてわたしが安心して利用できる施設を利用するよう医師にも言われている」と供述。そして無罪放免となったのである。

10月1日現在もメラジャーは逮捕されておらず、出頭の意向はないとコメント。彼の幾多の性犯罪歴は、社会の構造的なトランスヘイトの表れであると主張している。警察が彼の消息を追えないのは好都合だとして、「彼らがわたしを捕まえるのはわたしが出頭するときになるでしょう(They’ll find me when I turn myself in)」と締め括った。


世間の大半はWI SPA事件の当初から被害女性達の訴えを疑っていなかった。こうした性犯罪を働く一部のトランス女性と女性達のスペースをめぐる問題は常にあったからだ。また被害届を出した複数の女性達が子供まで巻き込み作り話をする理由もない。従ってこのWi SPA事件の真相が2ヶ月越しに明らかになっても特に驚きはなかった。しかしその2ヶ月の間、被害女性達を貶め、トランス擁護活動家の窓口よろしく偏向報道を続けてきた大手リベラルメディアは、どう反応したか。

「デマと戦うファクトチェッカー」を自称する記者達は女性の告白を嘘と断定したまま訂正も謝罪もせず。「トランスヘイトの標的となった哀れなトランス女性像」を押し売ってきたメディアは、犯人の表現を「トランス女性」から「人物(person)」に塗り替えた。また、犯人は「トランス女性を騙るシス男性」とする論調も出てきた。つまりトランスアライの手にかかると、女性スペースに入るトランス女性は全員善良かつ社会の差別に耐える可哀想な弱者であるが、ひとたび犯罪行為に手を染めると直ちにトランス女性ではなくなりただのシス男性、即ち抑圧・搾取の頂点に立つ強者に変身するのである。文字通りのトランスである。トランス女性は常に無罪なのだ。

一連の報道に関し大手リベラルメディアに共通した姿勢は以下である:

・告発女性の訴えを捜査も始まっていない段階で「虚偽」認定
・その根拠は全て匿名ソース(匿名スパスタッフ、匿名LA市警官など)
・中立性ゼロで「トランス差別が女性達にあった」ことが前提の論調
・LGBT団体やTRA(トランス権利活動家)の証言や意見のみを紹介
・当日現場におり後に被害届を出した当事者女性達の声は無視
・告発女性のSNSを漁り「キリスト教徒的内容がある」と宗教への偏見をあらわ
・それを無理矢理「宗教→宗教保守→トランプ支持者→極右」などと拡大解釈
・「極右→Qアノン→白人至上主義者」とするも告発者は黒人女性という現実剥離
・Wi SPAは”LGBTQフレンドリー”であると強調、「問題提起は差別」
・ANTIFAら極左団体の暴力性は徹底的に無視、対抗する極右団体を糾弾
・女性達の訴えはかき消され「トランスヘイト」vs「差別されるトランス女性」
・犯人は性犯罪歴のあるトランス女性と判明した後も訂正はほとんどないまま
・トランス女性の犯行とわかった途端「トランス女性を騙るシス男性」へ方針転換

重ねて言うが、これら報道がなされた時点で以前にも類似の事件がいくつもあったことは複数の証言者や過去の店舗レビューなどからも明らかであった。またこれまでにもトランス女性による女性への加害行為はトイレDVシェルターから刑務所まで、あらゆる場所で問題となっている。加えて、#MeTooムーヴメントの時などはとりもなおさず「被害女性の証言」を優先し、ましてやトランプ元大統領やカヴァノー現最高裁判事など保守派の男性がセクハラ疑惑をかけられようものなら「冤罪でも構うものか」という勢いで女性の告白を絶対正義としてきたリベラルメディア達が、トランス女性という被差別ヒエラルキーの最下層に身を置く(と主張している)人物の出現にくるりと掌を返し、女性達を総攻撃し人格批判にまで及んでいるのである。彼らにとって女性はもう社会的弱者ではないのだ。「トランス」と頭についただけで、ペニスがあろうが性自認が実はどうであろうが、もう盲目的にトランス女性に平伏して他の女性に石を投げつけるのである。

そしてこれに勝鬨をあげたのが日本の錚々たるLGBT活動家やTRAフェミニスト達である。「トランス女性による女性スペースへの侵害」の海外事例としてWi SPAが早くから日本のTwitterで拡散されていたところに、「極右のデマ」「トランス差別を助長するTERFの典型例」として海外大手メディアがお墨付きを与えた。もちろん、彼らは嬉々としてこれらの記事を和訳しTwitter上で拡散に勤しんだ。以下、数名の影響力あるアカウントを列挙する:

マサキチトセ氏(LGBT当事者でライター。各報道記事を日本語に翻訳)
堀あきこ氏(ジェンダー研究家でフェミニスト。関西大学他非常勤講師)
松岡宗嗣氏(一般社団法人fair代表理事。LGBT活動家)
遠藤まめた氏(一般社団法人にじーず代表)
清水晶子氏(フェミニズム・クィアスタディーズ研究。東大教授)
鈴木みのり氏(ジェンダー活動家、ライター)

など、いずれの人物も「極右が!極右が!」に終始し、建設的な意見は皆無である。鈴木みのり氏に至っては、とうに事件の全貌が明らかになり被害者女性達の訴えが事実であったことが認知された9月23日の時点ですら、自身の見解の誤ちを全く認めておらず、しつこく歪曲記事に誘導ツイートしている。

清水晶子氏などはもう、こちらが恥ずかしくなるほどの気概を持って7月3日連ツイートで、「前提としてこれは『ペニスのある男が自分は女性と主張して女性スペースに押し入った』話ではない」と豪語し熱弁を振るっているのだが、結果としてこれは「ペニスのある男が自分は女性と主張して女性スペースに押し入った」話だったわけである。未だに訂正も削除もしていないようだ。また、「タッカーカールソンにAndy NgoににQAnonにプラウドボーイズという流れを極右じゃないというならそこは理解の相違だけれど、入り込んできているのはそのあたり」と偏見丸出しで情報の信憑性にケチをつけようとしている。

タッカー・カールソンは全米一の視聴率を誇るアンカーであり、Andy Ngoは左派色の強いNewsweekやTIME誌などにも定期的に寄稿、ANTIFAの脅威について上下院の公聴会でも証言し、FBIや地元警察の捜査にも協力している。両者共に高層階のオフィスでネットを見て記事を書く大手リベラルメディア記者ではなく、現地密着取材や正面インタビューにこだわる正真正銘のジャーナリストである。彼らをQアノンなどと一緒くたにして「極右」とレッテル貼りをすることで情報価値を下げよういう手法は、一昔前なら成功したかもしれないが、今はTwitterに限らず誰でも海外の情報に手が届く。「誰」が発信したのかはもとより、「何」が発信されたのかを、人々は知ることができるのである。

加えて、事件の始まりから連日のデモの様子、被害者やLAPD、スパ関係者への取材、容疑者の特定に到るまでを誰よりつぶさに報道してきたのもAndy Ngoであるし、リベラルメディアが都合の悪い「真相」を放送したがらない中で、自番組で大々的に取り上げたのはタッカー・カールソンであった。清水氏はAndy Ngoを「極右」などと平気で貶めるが、彼はリバタリアン寄りの中道保守でアジア系ゲイである。氏のLGBTアライシップはどこへ行ったのだろう。結局、政治思想を違える者の人権などお構いなしということだろうか。


Wi SPA事件に対する清水晶子氏の偏った姿勢は当初から非難されていたようであるが、批判者や立場を異にするものはブロックしているため、耳に届かなかったようだ。彼女の見解はなぜか遥か遠い「英国」のトランス活動家の与太話を丸写しした「〇〇らしい」で終わるものである。例をあげれば「(Wi SPAは)ゲイに大人気だけどストレートの人でも大丈夫な場所らしい」というもの。全くの誤りで、この記事にもあるようにキッズエリアも完備された家族向けスパである。複数の被害女性達も育児マガジンに掲載された特集を見て子供を連れて行ったと証言している。それに対し清水氏は「トランスキッズにもフレンドリーということかも、わからないけれど」とあまりにもアクロバットな解釈でお茶を濁している。Wi SPAのウェブサイトを見ても、"Women’s floor, Men’s floor, The Family-Friendly JIMJILBANG"と明確に施設の割り振りについて書かれており、ごちゃごちゃとジェンダーやらLGBTやらを示唆する表現はない。

一から十までこうした手前勝手な解釈で盲目的にひたすら「トランス女性」を擁護し続ける清水氏への反論はしかし全く暖簾に腕押しで、Twitter上に諦めにも似た意見が散見された。メディアにしろTRAフェミニストやジェンダー活動家にしろ清水氏のような研究者にしろ、トランスジェンダーの話になると一様に論理的思考を欠き、お決まりの「極右が、宗教保守が」や「日々抑圧され差別され死んでいく(!)トランスの方々」マントラを唱えて彼らを崇め奉り、奇妙なダンスを踊る様は、まさに一部で揶揄されるジェンダーカルトのテイである。偏見と独断に基づいて誤情報をばら撒き、その後訂正も削除もなしとは不誠実極まりなく、性的マイノリティ当事者達のイメージダウンにもなりうる。襟を正していただきたい。


ここまでWi SPA事件を総括したが、この事件を通して日本人が注視すべき点がいくつかある:

海外メディアの強いリベラルバイアスや歪曲・誤報の多さ—これは現地で日常的に複数のメディアに触れていないと感じにくい。ファクトチェックなども当てにならないことが多々ある。いずれ機会があればnoteで掘り下げたい問題である。

LGBTアライ&TRAとANTIIFAの密接な関係—日本でも一部LGBT団体としばき隊などの仲良しぶりが顕著だが、欧米のそれは比べ物にならない。ANTIFAの武力行使に怯える企業や個人はことのほか多く、あらゆる異論は封殺され、議論ができない。特に地方メディア媒体が彼らに忖度するのは彼らの暴力的な恫喝行為に屈してのことだとAndy Ngoが自著で述べている。加えてジェンダー思想は共産主義など極左思想のトロイの木馬であることを日本人ははっきりと認識し、危機感を持つべきである。これもいずれnoteに記したい。

法整備はこっそりと施行される—スパに出向いた女性達はなぜ、ペニスのついたトランス女性の女性スペース共有を許す「カリフォルニア州法第51条」を知らなかったのだろう。地元邦人の苺畑カカシ氏がブログで、「数年前にこの話が出た時に、私も含め反対市民たちが署名運動などをして法律が通らないように活動したが、左翼政府の横暴で署名は無効とされた。そういう活動はメディアも取り上げないので、一般人は全くしらなかった」と仰っている。加えて法の拡大解釈、例えばトランス女性の定義は何かという問題点もある。何より「差別反対法」などの曖昧なネーミングに隠れてこうしたアジェンダがまかり通ってしまうのが危険なのである。現在、日本の野党が通そうと躍起になっている「LGBT法案」も実態はほぼ「性自認・セルフID法案」であるのに、「差別反対」のオブラートに包まれ大衆は危険を嗅ぎ取ることができない。

フェミニストが女性の味方とは限らない—上記3点の理由から、法律も、警察も、スパ施設も、メディアも、誰もWi SPA事件の被害者女性達を守らなかった。そして女性達の最後の駆け込み寺、フェミニストすら一部は彼女達を猛バッシングした。わたしには清水晶子氏のような自称フェミニストが全く理解できない。氏は被害女性がキリスト教信徒である可能性を示唆、「なぜ(LGBTフレンドリーとされる)スパに行ったのか」と非難する口調であった。それは女性達が最も嫌う、「なぜ男を誘うような服装をしていたのか理論」同様の侮蔑であり、憶測と誤情報に基づく独善的な難癖に心底呆れる。国内外問わず多くの著名なフェミニストがトランスアライと協調し、同胞女性達の犠牲を厭わずトランス女性のペニスの権利を守る様は悲しくも滑稽である。


こうしてWi SPA事件は一旦終幕を迎えたが、Twitter上のジェンダー議論においては非常に面白い出来事もあったのでここに紹介しておきたい。

発端はDJ Oasis氏のこのツイートであった。

オアシス氏の意図するところは「本来の姿、つまり生物学的な性という基本的な知識について教育をした上で」だったのだが(御本人に確認済み)、この「本来の姿」がとある個人アカウントの気に障った。一ファンとしてオアシス氏の仲間である宇多丸氏のラジオ番組に陳述メールを送ったところ、宇多丸氏の琴線に触れたようである。氏は2日間かけて丁寧にトランスジェンダー女性の女性スペース使用に賛成する見解を披露、Twitterトランスアライは歓喜の声を上げ、反対派は怒涛の反論を展開した。発言の中で宇多丸氏は、ジェンダー活動家の鈴木みのり氏に指南を受けたが自分もまだ不勉強の身であるとしつつ、オアシス氏を猛批判。ヒップホップ界のジェンダー論戦勃発にTwitterは沸いた。

オアシス氏は同じく友人であるKダブシャイン氏のYouTube番組に出演、改めて経緯を説明、重ねて「女性スペースを女性と自称トランス女性が共有すること」に懸念を示し、「女性と子供の安全も考えねばならない」と主張した。ちなみにKダブ氏は以前からジェンダーのあれこれに関心を持ち、わたしとも「トランスジェンダーと子供達の問題」について春日部市議会議員のLGBTサイトで対談して下さっているお兄さんである。


希望的観測ではあるが、この一連のヒップホップお兄さん方によるちょっとした騒動は、ギスギスドロドロしたTwitter上のジェンダー論議の転換期になりうる。活動家色が強く、横文字が並び排他的なジェンダー話に一般大衆は近寄り難さを感じているから、彼らのようなアーティストがもっとカジュアルに意見交換をしてくれるのは大変望ましい。いつもか弱い当事者女性達をターゲットにしているしばき隊のような極左暴力集団も、イカツイお兄さん方にはタジタジであろう。

宇多丸氏はラジオの発言内でこう仰っている:

「あれ? その性暴力をしているのは『男』なのでは?」っていう。「トランスジェンダー女性」には何の責任もないことですよね。女性に嫌がらせをしたいとか、性的に何かをしたいっていう意図で性別移行をする人って、いないと思うんですけども。だから、それをやるのは明らかに「男性」ですよね。おそらく、それは「シス男性」ですよね? なので、ちょっとそれは問題の論点が違うだろうと。

これはわたしが上述したトランスアライによる「トランス女性無罪論」と全く同じものである:

つまりトランスアライの手にかかると、女性スペースに入るトランス女性は全員善良かつ社会の差別に耐える可哀想な弱者であるが、ひとたび犯罪行為に手を染めると直ちにトランス女性ではなくなりただのシス男性、即ち抑圧・搾取の頂点に立つ強者に変身するのである。文字通りのトランスである。トランス女性は常に無罪なのだ。

氏への反論と、このヒップホップお兄さん達によるバトルは機会があればいずれまた記事にしたいと思う。今はただ、問題提起をしてくれた彼らに感謝と敬意を示したい。


最後に、この記事を書くにあたってTwitter上で大勢の方々の意見を参考にさせていただいた。普段は政治的スタンスが全く異なる方々からも非常に多くを学ばせていただき、資料集めや情報提供にご協力いただいたことに深く感謝を申し上げたい。皆様、どうもありがとうございました。


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