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クリーンフレグランスが難しい理由 [BoF 2021年4月21日]
BoF(The Business of Fashion)の記事を翻訳しています。
今回の記事も、ずっと気になっていたテーマで、誰も書いていなければ自分で書こう思っていた内容です。やはり、注目している人はいるものですね。
最後の化学者の方の言葉が胸に滲みます。
こんなことを言ってはビジネスなんてできないとも思うのですが、私はこの考えに強く共感しています。毎年1000近くの新製品が出て、5年以上残るものは数えられるほどだけ。しかも多くの香水は以前に流行したもののremixや twist、cut&pasteが多く、似たような香りで溢れています。
だから私は、自分の商品は持たないと決めています。つくったとしても、それは「作品」として、かなり少ない数での数量限定。通常は、オーダーメードやワークショップで一つしかないものをつくることにこだわっています。
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[BoF Professional 会員限定記事]
BY EMILY JENSEN
2021年4月21日 09:49
クリーンフレグランスが難しい理由
サステナブルな香水を販売するのは簡単だ。しかし実際に環境に優しい製品をつくるのは、はるかに複雑なことである。
1884年に発表されたウビガン社の「フゼア・ロワイヤル」は、1820年にトンカビーンから合成されたバニラのような香りの化合物であるクマリンを、香水界で初めて使用した香水である。クマリンにラベンダーやオークマスをブレンドすることで、現在も香水のベースとして使用されている「フゼア」というフレグランスファミリーが誕生した。1921年に発売されたシャネルNo.5は、アルデヒドを初めて使用した香水ではないのだが、馴染みのあるフローラルノートに合成化学物質を過剰に使用することで、自然界にはない香りを生み出した。
100年後、香水のトレンドは逆になった。シャネルNo.5はいまだにトップセラーではあるが、消費者は天然原料を使った新しい香りを強く求めている。ブランド各社はエッセンシャルオイルやサトウキビのアルコールなど、植物由来の成分を謳っている。有害とされる化学物質を含まない「クリーン」な香水を断言するブランドもある。また、環境への影響を最小限に抑えてつくられていることをアピールするブランドもある。
このトレンドは、激しい技術競争を刺激することとなった。フレグランス・フレーバー界大手のフィルメニッヒは、生分解性のあるサンダルウッドの代替品である「ドリームウッド」を2020年に発売した。コティは、先月ランザテック社と提携し、排出炭素からエタノールを開発することを発表した。2023年までに自社の香水の大半をカーボンニュートラルなアルコールでつくることを目標としている。また、フィルメニッヒのライバル企業であるジボダンは、4月に輸送用コンテナを再利用した移動式ラボ「ブロッサムラボ」を立ち上げ、天然原料をその場で加工することを可能にした。
クリーンでグリーンなブランドが氾濫していることは、消費者に混乱を招く恐れがある。クリーンブランドの「フリーフロム」リストに掲載されている化学物質の多くは、有害であるという主張を裏付ける科学的エビデンスがほとんどない。また、合成成分から天然成分への切り替えは、トレードオフの関係にある。
化粧品化学者のペリー・ロマノフスキは、「1ポンドのローズオイルを得るためには、1万ポンドのバラの花びらが必要になる... 化学合成すれば、半ガロンのオイルを使って、半ガロンのローズオイルをつくることができる。持続可能性については別の話だ。だから、どちらを選ぶかは人それぞれ。」と話す。
より安全で、より環境にやさしい香水をつくることは、単に自然回帰することよりもはるかに複雑だ。しかし、消費者が化粧品の環境への影響に関心を持つようになった今、ブランド各社は自社の製品を可能な限りサステナブルに、あるいはサステナブルに見えるようにするために躍起になっている。
異なる名前のバラ
香りの世界では、エッセンシャルオイル(精油)をめぐって自然派と合成派の戦いが繰り広げられている。エッセンシャルオイルは、ベルガモットやローズなどの天然の植物からコールドプレスや水蒸気蒸留法などのさまざまな抽出方法で得られる化合物である。多くの合成成分とは異なり、石油化学製品ではなく再生可能な資源を原料としている。エッセンシャルオイルは、化学的なものよりもニュアンスや複雑性に富み、伝統的な香水製造方法とのつながりもあると考えられている。
自然派香水ブランド、ヘレティックの創業者であるダグラス・リトル氏は、「合成香料ではなく、エッセンシャルオイルや純粋な植物原料を使うことで、ダイナミックな香りが生まれ、身につける人と植物や産地との間に信頼性が生まれる。エッセンシャルオイルには、水彩画のような柔らかさがある。」とメールの中で語っている。
しかし、香りをつかさどる分子は、エッセンシャルオイルから抽出されたものでも研究室で合成されたものでも化学構造は同じであると、ヴィーガン香水ブランド、Rookの創業者ナディーム・クロウ氏は話す。
クロウ氏はさらにこう続けた。「ダマスクローズのエッセンシャルオイルを使ったと言えば、それはとてもポジティブなことだと受け止められる。しかし、ベータダマスコン、シトロネロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコールを使ったというと、『触りたくない』と言われてしまう。実際その4つがバラの香りを構成する成分であるのにだ。」
消費者は、自分がを買っている香水にどんな香料が使われているかわからないことがある。アメリカでは、製品の香り成分を表示することが義務付けられておらず、EUでは、特定のアレルゲンのみをラベルに表示するよう義務付けられているだけなのだ。
By Rosie JaneやHenry Roseなどのクリーンブランドは、ウェブサイトに全成分を掲載している。消費者は、自分で選んだ使用禁止化学物質リストと照合することができる。これらのラベルでも、各ボトルに含まれる成分の量は記載されていない。アメリカやEUでは、香水の処方に著作権が認められていないため、透明性を高めすぎるとブランドが模倣されてしまうからだ。
モルトンブラウンやペンハリガンなどの香水を開発しているCPL Aromas社のテクニカルディレクターのシャーロット・パーセル氏は、「そんなことをしたら、私たちの知的財産全てがラベルに掲載されてしまうことになる」と語る。
仮面をかぶった香り
フレグランスの環境への影響をもっと明確に示すことはできる可能性はあるが、必ずしもできるとは限らない。
香水は、麝香鹿やサンダルウッドなど、特定の動植物を絶滅させる原因となっている。多くの香料メーカーは、これらの人気のある香りの代替品として合成香料を使う。(ヘレティック社の新製品「Bergamusk」のムスクの香りにも合成香料が使用されている)
ジュリアン・ベデルが、2010年にアルゼンチンで「フエギア 1833」を設立した際に天然香料を使用したのは、高いインフレ率と輸入規制により、海外から合成香料を調達することが困難であったためだ。
製造拠点をイタリアに移したベデル氏は、合成香料と天然香料を発酵などの持続可能な技術で開発することを提唱している。同社のフレグランス「Muskara Phero J」には、ムスクではなくシトロネラから作られるシベトンが使われている。しかし、代替品は安くはない。シベトンは1キロあたり7,000ユーロと高い。
「グリーンソースやバイオテックから生まれた合成物質があり、それはとても素晴らしい。動物由来の香料の代替としてそれを多く使用している。例えばムスクの場合、Muskara Phero Jにはシベトンが含まれているが、これはシトロネラを原料として製造されている。しかし、このような製品は安くはない。Muskara Phero Jの小売価格は、100mlボトルで346ドルになる。」とベデル氏は話す。
ベデル氏は、より持続可能で安全な素材を生み出す方法として、二酸化炭素を回収する超臨界二酸化炭素抽出法を挙げている。超臨界二酸化炭素抽出法は、二酸化炭素を圧縮して液体にし、それを溶媒として、バニラやローズなどの植物から香りの成分を抽出する方法を指す。他の抽出方法とは異なり、溶剤が残らず、高い熱量を必要としないのが特徴だ。
香水の香りを構成する成分は全体の中で比較的少なく、その大半(濃度によっては60%以上)を占めるのがアルコールだ。コティ社はランザテック社のと共同で、二酸化炭素を回収する原理をアルコールの化学名であるエタノールに応用した。このパートナーシップにより、グッチやラコステなどのブランドを含むコティ社の大半の香水を、産業排出物を再利用して作られたエタノールで製造することを目指している。
しかしブランド側にとって、最も環境的に持続可能なアクションは、最も経済的に実行可能なものというわけではない。
化学者のロマノフスキは、次のように語る。「もしブランド各社が本当にサステナビリティに関心を持っていたら、こんなに新商品を次々と発表していないはずだ。商品はたくさんあるが、どれも違いはない。世の中にはたくさんの商品があり、新しいブランドが出てくるたびに問題を大きくしているのだから。」
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画像:The Business of Fashion