料理男子はこう育つーー⑨つまらない、ああつまらない、放課後は
あーつまらない!
最近、コロナのせいで、放課後のスケートの練習がお母さんとの自主練ばっかりで、つまんない! いつものボクは、学校から帰ってきたら、図書室で借りてきた本を読んで、まんがを読んで、スケートの練習に行く前に大あわてで宿題をやって、それで練習に行くんだけど。
今はスケートクラブのみんなそろって練習するのは自粛になっているから、お母さんと行けるときに練習している。だからね、放課後、家に帰って来てからが長くて長くて……、つまんない!
お母さんに「なんか、つまんないんだよねー」って言ったら、「それは、ようの場合は、何かつくりたいってことなんじゃない?」と言われて。ああ、そうだ!
こないだ、お父さんとスーパーに行ったときに、「抹茶パウダー」を買ってもらったんだった。ボクは「抹茶プリン」を作ることにした。冷蔵庫に材料を探しに行くと、「牛乳がない…。卵も2こしかない…」。
ボクは、とてもがっくりした。冷蔵庫の扉を閉めて、首ががくんとなって、落ち込んだ。だけど、何かを作りたいっていう気持ちはすごくあった。もう一度、冷蔵庫を開けて、冷蔵庫の中とにらめっこをした。よく見えるように、踏み台に乗って。冷蔵庫の扉をずっと開けっぱなしにしていると、ピーッピーッピーッて鳴ってお母さんに怒られるから、急いで冷蔵庫の中のものたちをじーっと見つめた。
目に入ったのは、干ししいたけのだしが入った容器。「これだー!」。前の日曜日に干ししいたけを水につけておいたんだった。
ボクは、冷蔵庫を閉めて、踏み台からピョーンと下りて、本棚に急いだ。料理男子①で書いたボクの一番好きな料理本、はらゆうこ先生の「日本橋から伝える だしを味わう四季の料理」の本をペラペラめくる。今度は、食器棚の下にある「かんぶつ」のカゴを見に行く。
「よし、あったぞ!」
さて、ここでクイズだよ。ボクがかんぶつのカゴから見つけたものは何でしょう?
①マカロニ
②高野豆腐
③ひじき
正解は、②と③でしたー! 2年生だけど、マカロニじゃないんだ。和食だからね。ボクは、ひじき煮を作るか、高野豆腐の煮物を作るか、迷った。ひじき煮は26ページ、高野豆腐の煮物は44ページに書いてある。どっちにしようか、ページをいったりきたり。
迷った結果、高野豆腐に決めた。ゆうこ先生の本は、高野豆腐といんげんを煮るレシピなんだけど、ボクは大好きなにんじんにした。にんじんはボクが赤ちゃんのときに、初めてしゃべった言葉なんだって。「じんじん! じんじん!」って。それくらい、ずっと大好きな野菜なんだ。
まずは、じんじん、じゃなくって、にんじんの皮をピーラーでむく。そして小さく切る。次に高野豆腐。実は、高野豆腐を使うのは初めて。
パッケージをじっくり読む。「信州こうや豆腐」、「たんぱく質とカルシウム・鉄分がたっぷり含まれています」って書いてある。へえー。
開けてみると、カチカチにかたい。そして大きい。たて7センチ、よこ6センチくらいある。これは包丁では切れなさそうだ。どうしたらいいんだろう!?
またパッケージを読んでみる。「あらかじめお好みの大きさに切って調理する場合は、湯戻ししてから切って調理してください」って、書いてある。
湯戻しって、お湯でやわらかくするってことかな? じゃあ、お湯をわかそう。やかんでお湯をわかして、大きいボウルにお湯を入れて、高野豆腐を4つ入れた。ぷかぷか浮かんでいて、これでほんとにやわらかくなるのかなぁ?
そろそろいいかな? って手で高野豆腐を取ろうとしたら、お湯がまだ熱かったーーー!! ボクのウワーッて声にびっくりしたお母さんが、「だいじょぶ? 冷やしたら?」って心配して見にきたけど、料理人のボクはお母さんより熱さに強いんだ。へっちゃらだーい!
料理用のおはしで高野豆腐をボウルから取り出して、包丁で4つに切った。カチカチだったのが、ぼわんぼわんになっていた。でも切りにくかった。そして、干ししいたけのだしから、干ししいたけを取り出して、これも切った。
「そういえば!」とボクはまた冷蔵庫に行った。なんかもう一つ、だしっぽいものが冷蔵庫に見えたんだ。小さい容器にちょっとだけ、汁が入っていた。ボクは、「お父さんが何かで使った、こんぶのだしの残りかな?」と思った。だって、ゆうこ先生の本のレシピは、干ししいたけだしと、こんぶのだしの両方を使うことになっていたから。
その残っていた汁を、先に鍋に入れた。ツーンっとすっぱいにおいがした。なんだなんだ? お母さんを呼んだ。「ねぇーー、変なにおいするー!」。
それは、前の日の手巻きずしに使ったすし酢の残りだった。あぶない、あぶない。煮物がすっぱくなっちゃうところだった。あー、びっくりした!
鍋を洗って、心をととのえて。今度こそ、干ししいたけのだしを鍋に入れた。にんじんと高野豆腐と干ししいたけ、しょうゆ、塩、砂糖、みりんも入れた。ぐつぐつぐつぐつ……。おいしくできるかなぁ? そんなとき、ボクはおばけのアッチのまねをして、歌を歌うんだ。
あーじをー しみこめ!
あーじをー しみこめ!!
ちょっこちょっこ はーーいれっ!
何回か味見をして、(お母さんには何回も食べすぎって言われたけど)、にんじんがやわらかくなってから、火をとめた。そして、お風呂に入っている間に、もっと味がしみこむようにーって思った。
お風呂から出て、夕ご飯。高野豆腐は初めて使ったんだけど、とってもおいしくできたよ。
その日はお父さんがいなかったから、お父さん用に、煮物の残りをプラスチックの容器に入れておくことにした。お母さんが、「取っておくところまでやってごらん」と言ったので、ボクは自分で容器に煮物の残りを全部入れた。これでかんぺきだ! 「あ、まだフタしてなかった」と気がついて、フタはどれだろうと、このフタかな? ちがう! これかな? って試していたら・・・
あーーーー・・・
煮物を入れた容器をひっくり返しちゃった。お母さんと急いで片づけたんだけど。ボクはとても落ち込んじゃった。お母さんは、「まだ食べられるから大丈夫だよ」って言ってくれたけど、「失敗しちゃったから、ようはもう、料理が上手じゃないのかもしれない」って思って、どんどん悲しくなってきた。お母さんに抱きついた。そうしたら、お母さんが言った。「失敗は、なんの母なんだっけ?」。
せいこうの母!!!
ゆみちゃん(お父さんのお母さん)がプレゼントしてくれた「ドラえもんのことわざかるた」で覚えた言葉を思い出したよ! 次の料理も成功するようにがんばるね!
(参考文献)
はらゆうこ「日本橋から伝える だしを味わう四季の料理」マガジンランド社
ツルヤ「信州こうや豆腐」調理方法
角野栄子「小さなおばけシリーズ」ポプラ社
「読み上げCDつき ドラえもんのことわざかるた」小学館