
【産学連携シンポジウムレポート】東京大学、資生堂などのDE&I担当者たちと考えるジェンダーギャップ解消への道
教育分野のジェンダーギャップ解消に取り組んでいる特定非営利活動法人 #YourChoiceProject は、2024年11月25日に、都内で、大学のジェンダーギャップ解消に向けた産学連携シンポジウムを開催。東京大学ほか、早稲田大学、東京科学大学、エーザイ、三井住友トラスト・アセットマネジメント、資生堂など産学それぞれの立場でDE&Iに取り組まれてきたゲストが登壇し、これまでの歩みを振り返りました。また、日本の有名大学の女子学生比率の低さを始めとしたダイバーシティの問題に今後どのように取り組んでいくべきかについて議論を交わしました。
早稲田では女性法曹の輩出に注力
オープニングでは、早稲田大学ダイバーシティ推進室室長の石田京子氏が登壇。早稲田大学でのダイバーシティの取り組みについて、ご紹介いただきました。早稲田大学では2032年の創立150周年に向けて中長期計画「Waseda Vision 150」を策定しており、その中でダイバーシティ・男女共同参画の推進を達成すべき課題として位置づけています。
「新たなVisionを実現するためには、性別、障がい、性的指向・性自認、国籍、エスニシティ、信条、年齢などにかかわらず、本学の構成員の誰もが、尊厳と多様な価値観や生き方を尊重され、各自の個性と能力を十分に発揮できる環境が必要です。また、早稲田大学の創設者である大隈重信は、かねてから女子教育を重視し、日本女子大学の創設にも関わっていました。その際『男女複本位』でなければ社会の進歩、文化の向上を望むことはできないという言葉も残しています」(石田氏)
その建学の精神はそのまま受け継がれ、現在も、学生・教職員の女性比率、外国人比率などの数値目標達成に向けて様々な取り組みが動いているということでした。一例として、早稲田大学大学院法務研究科(早大ロー)では、2015年から「女性法曹輩出促進プロジェクト(Female Lawyers Project、通称FLP)」と称して、女性法曹の輩出を促進するための活動を実施。講演会やメンター提供など多方面からの支援を行なっているということです。
目指すのは「男性の意識改革」
シンポジウム第1部では、「大学でのジェンダーギャップ、それに対する現場の取り組みについて語る」というテーマで、東京科学大学の副理事でありDE&I担当の桑田薫氏と東京大学の理事副学長、国際・D&I担当の林香里氏が登壇。各大学におけるジェンダーギャップ解消への取り組みについて、実際の課題も交えながら解説しました。
「東京科学大学(旧・東京工業大学)のジェンダー比率は、2000年代はずっと横ばいの12%。この間、何もしなかったのかと言われると決してそうではなくて、何をやっても伸びなかった。そこで22年に24年度からの女子枠の導入を決めたのですが、それが賛否両論で大炎上したのは皆さんの記憶にも新しいかと思います」(桑田氏)
「東京大学では、ジェンダーという観点からだけではなく、いろんな意味での均質化が進んでいる状況です。最近では、『なぜ東大は男だらけなのか/矢口 祐人』という新書も話題になりました。この本でも書かれているのが、東大の合格者のうちトップの20校が全合格者の42%、トップ5校のうち男子校は4校、トップ10校のうち男子校は6校というデータ。日本の全高校に占める男子校の割合は2%しかないですから、本当に偏った高校からしか学生が入ってこないわけです。私たちはこの状況に非常に危機感を抱いています」(林氏)
東京大学では1.大学全体の構成員の意識改革、2.メンタリングなど女性への支援、3.女性の数を変えることをD&I施策の3つの柱として位置付けていると強調。とくに1つめの意識改革を重要視しており、2024年から #WeChangeUTokyo というプロジェクトを発足、5月には「言葉の逆風キャンペーン」として、ポスターやパンフレットなどによる啓発を実施したことを紹介しました。
ダイバーシティが経営にもたらすインパクト
第2部では、「産業界のダイバーシティ推進の取り組みを語る」というテーマで、エーザイ サステナビリティ部ディレクターの中野今日子氏と資生堂 DE&I戦略推進部長の山本真希氏が登壇。モデレーターを務めた三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社シニアスチュワードシップオフィサーの高口伸一氏は冒頭に企業経営におけるダイバーシティの重要性について述べました。
「私たち機関投資家は投資先企業に対して、持続的な企業価値向上を促していていますが、環境、社会、ガバナンスといったESG活動に積極的に取り組んでいくよう経営層とお話ししています。中でも、ダイバーシティ推進は非常に重要なテーマです。ダイバーシティはイノベーションにとって非常に重要な要素であり、企業活動における経営リスクもダイバーシティ推進によって回避できることが多いと考えているからです」(高口氏)
2024年には国内グループで女性管理職比率40%をすでに達成している資生堂。2010年時点で15%だった数字がここまで飛躍した背景として、「育児と両立しながら仕事が続けられる」というステージから 「育児や介護などを抱えている社員もキャリアアップできる」へ移行した、いわゆる「資生堂ショック」と言われる「美容職の働き方改革」があったことを振り返りました。
また、資生堂DE&Iラボの研究として、東京大学の山口慎太郎教授と行ったジェンダーバイアスについての調査結果を紹介。
「意識的な男女平等度、アンコンシャスバイアスともに、女性の方が男性よりも、スコアが高く出ました。女性は男性よりもジェンダー平等を強く意識している一方で、『女性らしさ、男性らしさ』という固定観念に強く縛られていると解釈できます。この無意識の刷り込みにより女性は自らのキャリアの可能性を縛ってしまいがちであるとも考えられます」(山本氏)
一方、エーザイでは、多様性に取り組む背景として「世界中の人々に必要な薬を届けたい」という企業理念を紹介。売り上げよりも、社会善を優先しているという姿勢が表れているのが、中野氏がプロジェクトリーダーを務めるマイセトーマ治療薬の開発です。マイセトーマは、スーダンなどの途上国で見られる「世界で最も顧みられない熱帯病」とも言われる疾病で、どこにどれだけの患者がいるかという情報も乏しく、治療ガイドラインも整備されていない病気です。
「当社が重視しているのは、多様な人材を確保することと、多様な能力が有機的に融合して社業に生かされること。企業活動はつねに新しいものを生み出さねばならず、同じような人々ばかりが集まって、新しいアイデアが生まれないような環境では企業は生き残っていけません。私たちの経営理念を実現するためには、今までになかった薬を生み出さなければなりません。一方でリスク管理の必要もあります。そのため多様性が不可欠となってくるのです」(中野氏)
大学と企業が連携して、ダイバーシティを推進するために
第3部では、「産学連携でダイバーシティ推進について考える」というテーマで、桑田氏と林氏、高口氏と山本氏が登壇。#YCPの川崎がモデレーターを務めました。セッションでは、大学と企業が連携してダイバーシティのためにできることとして様々なアイデアが交わされました。
「高校生にとって、自分の将来のロールモデルが見つからないというのは、学校と企業との接点が就活しかないことが一因ではないか。#YCPが行っているキャリア講座のようなものを大学単位でやっていって、大学のその先のキャリアのロールモデルが提示できれば、東大に入りたいという女子学生も増えるかもしれません。上智大学では、『国連職員と話そう』という学生とのミーティングを定期的に実施しているそうです。学生からのどんな小さい質問にも、国連の方が真摯に答えていて、これは国連に入りたい学生が増えるだろうなと感じました。企業もぜひ同じ試みをしてほしい」(高口氏)
「もっと柔軟に学生が企業や社会について知る機会があってもいいのではないかと思います。例えば、学生が就活目的でないインターンに腰を据えて取り組んだり、あるいは社会人が、学生と一緒に大学で教養を学び直したり。企業と大学側の人材交流がもっと進めば、お互いの価値観も交わり、得るものがあるのではと思います」(山本氏)
各校、各社ともダイバーシティへの取り組みには、一筋縄では解決しない課題や苦労もあった様子。だからこそ、各々の経験やノウハウを持ち寄ることで、様々なアイデアが生まれ、議論も盛り上がりました。今回出たアイデア実現のためにも、大学や企業の壁を超えた横断的な連携が期待されます。