なぜ男子校出身の人間が地方女子のジェンダーギャップ問題に取り組んでいるのか?
1 はじめに
この記事の書き出しとして、まずは簡単に自己紹介から入ろうと思います。「なぜ?」という感じもしますが、今回の記事にも関わる部分です。
私は早稲田高校という有名な(自分で言うものではないですが)男子校の中高一貫校を卒業し、東京大学理科一類に合格しました。そして入学後、東大に存在するジェンダーギャップを解消する役に立ちたいと思い、2023年の7月から#YourChoiceProjectに参加しています。
さて、このように、私は男性メンバーとしてジェンダーギャップの解消に向けた取り組みに参加しているのですが、そのことを他の誰かに話すと、よく
「男性がジェンダーバイアスについて話すのを見たことがない」
といったように、驚かれることがあります。大抵の場合、その驚きは「感動した」とか「女性が話題にすることが多いから嬉しい」のような、私にとっては励ましになるものなのですが、「男性がジェンダー問題語ってもなんの説得力ないよ」という、心無いことを言われたこともあります。
と、「驚き」の内容にプラスマイナスがあることがわかったのですが、ここで重要なのは、私の周りの人は「男性がジェンダーギャップを話題にすることが珍しい」から驚いていると言うことです。
ここで、この記事の中で私が主張したいことを示したいと思うのですが、それは「ジェンダーギャップへの取り組みは女性が多く関わるものと思われがちだが、男性こそそれに関心を持つべきである」ということです。
この記事では、なぜ男性側がジェンダーギャップについて考えなければならないのか、それについて他の方の著書などを参照しつつ、まとめていきたいと思います。
2 東大においては、女性の声だけでは足りない
東大の非常に偏った男女比を是正するために、女性が声をあげたり、活動をしていたりするとしましょう。ただし、一旦「男性がジェンダーギャップを話題にすることが珍しい」という先ほど私が受けた言葉通りに、男性は声をあげず、活動もしないという仮定を置いてみます。
すると東大の「女性学生2割・女性教員1割」という環境では、たとえ東大の女性全員が声をあげたとしても、それに理解のない(という仮定をしてある)大多数を占める男性によってその声は揉み消されてしまう、ということが容易に想像されると思います。実際に、先日公開された記事「女子が少なすぎる!東大工学部で感じたマイノリティの苦悩」の一部を参照してみましょう。
“私の所属するサークルでも、「運営のトップは男性」、「二番手は女性」という伝統が非明示的に受け継がれています。ついこの前、同じサークルの留学生に「どうしてこの団体はいつもトップが男性なの?」と疑問を投げかけられ、答えに窮してしまいました。
ここでさらに問題なのが、東大は、このジェンダー分業的な慣習に違和感を覚えても主張しづらい環境であることです。ある友人は、「ちょっとおかしくないかな」と男子学生に言ったところ、直接揶揄されたこともあったそうです。私自身も、サークル内でこの違和感を共有できないと感じ、結局声に出すことを諦めてしまいました。”
こんな風に、東大は女性が圧倒的に少ない環境なので、女性だけがジェンダーギャップについて声をあげても、それがちゃんと拾われることはないのです。これでは現状は変わりませんね。
では、東大のジェンダーギャップを是正するためには、どうすれば良いのか。先ほどの仮定「男性はジェンダーギャップについて一切声をあげない」ではうまく行きませんでしたから、「男性もジェンダーギャップに関心をもち、声をあげる」ことが必要不可欠になることが、これでわかると思います。これが、「男性こそジェンダーギャップに関心を持つべきである」という今回の主張を支えるいちばんの根拠です。
そもそも、冷静に考えてみてください。今のような男性優位の社会を東大の中で作り上げてきたのは、当然男性です。この状態を変革していくのに、どうして女性の方が声をあげなければならないのでしょう。男性がこの状況を作っておいて、それを変革しなければならないとなったときに、他ならぬ男性が見て見ぬ振りをするというのは許されない、と私は思います。
3 男性は男性でも…
ここまでは、「男性こそジェンダーギャップに関心を持つべきである」という主張を8:2という東大の圧倒的な男女比の偏りから説明しました。ところが、この8:2という数字の裏には、もう少し複雑な事情が存在します。その側面からも、今回の私の主張を支えてみようと思います。
この表を見てください。これは東大の現副学長である矢口祐人先生が集英社オンラインにて公開した「なぜ東大生の8割は男性なのか?「男女比の偏りが慢性的な差別的発言を生んでいる」という女性学生の危機意識」という記事(✳︎1)から引用した、東大合格者の出身高校の内訳を示した表です。
これからわかるように、東大の「8:2」という男女比は全国からこの割合で男性と女性が集まっているというわけではなく、ある特定の、少数の高校から主に集まっているのです。特に注目すべきは、その「少数の高校」の半分が男子校ということだと思います(私の出身校である早稲田高校や、埼玉の有名な進学校である県立浦和高校も男子校ですが、この表には載っていないですね。多数の東大合格者を輩出する男子校はこの表にあるものだけではありません)。つまり、東大生の圧倒的マジョリティを占める男子の中でも、高校という枠組みでさらに同じバックグラウンドを持つ人間が集中しているのが東大の現状です。
先ほどにも出たように、東大の構成員の変革を考えるには、まずはそのマジョリティを占める人間に課題意識を持ってもらうことが必要不可欠になります。となると、いちばんこの問題を意識しなければならないのは、こうしたトップ進学校出身の人間(特に男子校出身の人間)ではないでしょうか。
2019年東大入学式の、上野千鶴子先生による有名な祝辞(✳︎2)を引用しますが、こうした(超)進学校出身の人間(特に男性)は、「周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれ」るような人たちです。彼らに対し上野先生は、「恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください」と諭します。同じように、圧倒的に有利な受験環境で東大に合格した男性こそが主体となり、東大において女性がマイノリティになっている問題を考える責任があるのではと思います。
4 男性に向けた“エンパワーメント”
最後に、男性#YourChoiceProjectメンバーとして、(特に東大に関わる)男性がジェンダーギャップに関心を持ってもらい、そして行動を起こしてもらうために、ある意味での「エンパワーメント」となるようなメッセージを書いて、この記事の締めくくりにしようと思います。
このグラフを見てください。これは、2016年に東大新聞がオンライン上で行ったアンケートの質問「東大のジェンダー問題は深刻だと思うか」(✳︎3)に対する男女別の回答の内訳を示したものです(n=135、 男性86人 女性49人)。この通り、「東大のジェンダー問題」を「深刻」と捉える男性はわずか2割に留まります。さらに「分からない、関心がない」と回答した男性は3割を超えます(個人的にはこの課題は東大の構成員全員が自覚くらいはしておいてほしいものだと思っているので、「関心がない」人がここまで多いのも問題だと思うのですが…)。このデータがオンライン上で収集されたこと、母数がn=135とやや少ないことには留意が必要ですが、女性側のアンケート結果と比べると有意に差があることから、やはり意味のある調査結果だと思います。
さて、このように男性の多くがジェンダー問題にさして課題意識がない状況で、この問題に関心を持ち、さらには「行動を起こす」ところまで行くと、かなり目立つことになります(もちろんそのことを隠したりしていれば話は別ですけどね)。それを象徴するのが冒頭に記した、私に宛てられた反応集のなかで、「男性がジェンダーバイアスについてスピーチをしているのは見たことがなかった」といったものでしょう(注:筆者はこの話題を用いてスピーチをしたことがあります)。
その分、男性側によるジェンダーギャップの是正を求めるメッセージは、強い力を持つと言えます。例の反応集の中から、特にそれがわかるようなもの(原文ママ)を紹介します。
「ジェンダー系の問題ってやっぱり女性がスピーカーのことが多いから取り上げてくれたのが嬉しかったです」
「ジェンダーギャップという問題を知り(中略)、行動に移せるのはすごいことだと思います(特に男子校出身で)(都内の)」
ちょっと現金な言い方になりますが、私がこのように「男性として」ジェンダーギャップの課題に取り組むときーー特に表舞台に立ってそれを語るときーーは、「自分の行動が社会を変える駆動力になっているんだ」と、なかなかの達成感を感じることがあります。何かに課題意識を持って、行動にして取り組むということは素晴らしいことだと、#YCPでの活動を通じてよく思います。
男性の皆さんも、ぜひ日本社会のジェンダーギャップを変える第一線に立ってみてほしいと思います。
引用・参考
集英社オンライン「なぜ東大生の8割は男性なのか?「男女比の偏りが慢性的な差別的発言を生んでいる」という女性学生の危機意識(矢口祐人 著)
https://shueisha.online/articles/-/250106 2024/6/20アクセス
東京大学「平成31年度東京大学学部入学式 祝辞」
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/bmessage3103.html 2024/6/20アクセス
東大新聞オンライン「東大のジェンダー問題で東大生にアンケート 「問題は深刻か」の回答に男女差」
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