見出し画像

大手メーカー研究職から独立起業、東大理系を卒業した加藤志穂さんのキャリア

#YourChoiceProjectでは、地方女子高校生に対してキャリアのロールモデルの多様性を示すために、東大OGをはじめとする社会人の話を聞くキャリア講座なども行っています。本記事も同様に、卒業生のキャリアについての話から、彼女たちがどういった進路を辿り、どのような思いでその道に進んだのかなどを知ることで、「こんなキャリア設計もあったのか」と感じてもらえるきっかけとなれば嬉しいです。今回は、2024年に子どものためのヘルスケアブランド「GROWNIQUE(グロウニーク)」を立ち上げた加藤志穂さん(2008年卒)に話を聞きました。

高校までは男女差を意識しない環境にいた


ーー加藤さんは、東大の教養課程では理科Ⅱ類のクラスで、 東京大学大学院でも化学を専攻していました。ずっと理系の道を進んでいたわけですが、「理系に女性が少ない」と言われる中、理系に進むことに対して抵抗などはなかったですか?

私の父は転勤族だったため、中学校進学まで大阪や名古屋など日本各地を転々としていました。そして、中学〜高校時代はスペインに渡り、イギリス系のインターナショナルスクールで過ごしたんです。実験の授業が多く、それが楽しかったということもありますし、言語の壁があったので、文系に進むことのハードルもありました。また、1学年あたりの人数自体が20人程度と少なかったので、男女比については意識しないでいられる環境にいたのもすんなり理系に選んだ背景にあったかもしれません。

ーーそういった男女差を感じない環境にいたところから、東大の理学部に進学して、違いは感じましたか?

進学した理科Ⅱ類のスペイン語クラスでは、40人いた中で女性は8人でした。少ないなとは思ったものの、理系の中でも工学部はもっと女性が少ないと聞いていたので、そこまでではないかなという感覚でした。8人はみんな個性的で、お互いのありのままを受け止めるタイプだったので居心地はよかったですね。ただ、社会人になってから女性とのコミュニケーションが増えたときに、もっと女性と関わっていればよかったかなとは思いました。処世術というような意味合いで、自分はそういうものを経験してこなかったので。

化粧品開発の限界を感じて起業を決意


ーー修士課程修了後は大手国内消費財・化粧品メーカーに研究員として就職したということですが、就活の進路はいつごろ決めたんでしょうか? 

それは内定をもらってからやっと決めたという感じです。修士課程まで進んでいたので、このまま研究の道に進むのかなということも漠然と考えていたくらいです。ただ、やっぱり自分の原点を棚卸ししたときに、「実験が好き」という気持ちがあって、さらにその実験を通して「人の生活を豊かにしたい」という気持ちがありました。

ーーその後、大手外資系化粧品メーカーに転職し、30歳のときには独立・起業してご自身のスキンケアブランドを立ち上げました。もともと起業したいという気持ちはあったんですか?

学生の頃は全然考えていなかったですね。きっかけになったのは、趣味で参加していた社会人のダンスレッスン。自分より年上の人が多いコミュニティで、そこには起業している人もいました。そこで様々なキャリアの人に出会い、直接アドバイスももらったりしたことが大きかったです。

ただ、もともと頭の片隅には自分でやりたいという気持ちはあったかもしれません。メーカーにいるときも、研究室でつくった製品そのものが世の中に出る難しさに葛藤を感じることがありました。転職した外資系メーカーでは商品の中身の処方に関わるようになったのですが、研究室で性能が高いものができてもそのまま売り場に出すことはできないんです。よく「化粧品は原価率が低い」と言われますが、性能が高い物を世に出したいと思うと、ビジネスモデル自体を変えなければいけないと考えるようになりました。

また私自身、学生時代に肌荒れに悩まされた経験から、悩んでいる人をちゃんと救える製品を作りたいという気持ちもありました。とくに乾燥する季節は肌がカサカサになり、大学時代は授業の合間にクリームを塗っては鏡を見るのを繰り返していた苦い思い出があります。思い返せば、スペインにいたとき、自分の母親も自分達に合う化粧品・日用品雑貨を探すのに苦労していたのを覚えています。同じように悩んでいる人たちの「生活を豊かにする」ためにも、もっと性能の高い製品を届けたいと思うようになりました。

ーー実際に大企業から離れてからの起業は大変でしたか?

最初は兼業から始めたんですが、サラリーマンとは本当に全然違いますね。しかも私は研究職からの起業だったので、営業や総務・経理などどちらかというと、これまで全然やってこなかった仕事も全部自分でこなさなければならないのが本当に大変でした。スポーツで言うと、野球とサッカーくらいの違いじゃないでしょうか。同じ分野での起業でも、延長線上にはまったくない感じですね。

化粧品ブランド立ち上げにあたって、実際に日本全国の産地に足を運んで素材を選び抜き、何度も実験を重ねて製品を開発しました。そうしてつくりあげられた製品を手に取ったお客様から「この化粧品に救われた」という言葉をいただいたときは、この道を選んでよかったと心の底から思いました。

リアルな情報にたくさん触れてほしい


ーー今はさらに違う会社も設立されて、子ども向けのヘルスケアブランドも立ち上げられましたね。子ども向け事業を始めようと思ったきっかけは?

大学の先輩の伝手で、専門職大学の客員教授をするようになり、大学生に接する機会が増えたことがきっかけかもしれません。それまでは、キャリア形成においては大学時代に決まるものだと思っていたんですが、実は大学に至るまでの成長期の過ごし方が大学以上にその後の人生の進路選択や職業選択に影響を与えているんじゃないかと感じるようになったんです。

また、夫が子ども向けの運動スクールを経営していて、そこで保護者の方たちから子どもの成長に関する悩みを直接たくさん聞いたことも開発につながりました。

こうした子どもの成長に関して「生活を豊かにする」ために、自分のバックグラウンドで活かせるものがあるとしたら、健康面で成長をサポートすることだと考えました。(詳しい開発ストーリーについてはこちら

ーーこれからキャリアを選択する高校生や大学生に伝えたいことはありますか。

学生の皆さんはきっと勉強をたくさん頑張っていると思うのですが、世の中には勉強以外のものさしがたくさんあることをぜひ知っておいてもらいたいです。私自身、東大を出てから感じたことですが、社会に出た途端、勉強以外のものさしで測られることが増えるんです。当たり前のことですが、勉強がいくらできても幸せになれるとは限りません。キャリアもその一つですが、自分にとっての幸せを実現するためには、どのものさしが必要なのか考えてバランスよく揃えていくことが大事だと思います。

また、実際に社会で働いているリアルな大人に会ってほしいと思います。今って、SNSなど便利な情報がたくさんありすぎて逆にわかったつもりになってしまうことが多いですよね。でも、インターネットだけでは出てこない情報もあるので、ぜひ機会があれば、いろいろな大人の生の声を聞いてみてほしいと思います。

いいなと思ったら応援しよう!