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写真家 向後真孝×映画監督 内山拓也 映画『若き見知らぬ者たち』 俳優の心を切り取っていく映画写真の形とは(前編)

映画『若き見知らぬ者たち』にてスチールカメラマンを務めた、写真家・向後真孝と、監督・内山拓也による対談を実施。二人が今作で求めた映画スチールのあり方や、写真を活用した届け方の可能性について話を交わしました。

映画を撮る現場で写真を撮るということ

内山拓也(以下、内山)
僕は映画におけるスチールを、まず「はじめまして」の役割があるものだと捉えています。というのも、最初に観客のみなさんが出会うのは映像ではなくポスターの写真だったりする。だからこそ、すごく大切に考えていて。
『若き見知らぬ者たち』の写真を撮ってくださる方には、精神的にも、身体的にも俳優の表情や肉体を近くで切り取ってほしいと考えていました。
向後さんとは10年くらい前に友人を介して知り合ったのですが、ふと、最近どんな写真を撮っているのだろうと思って、何気なくインスタグラムとかホームページをのぞいてみました。そこには、単純な作業以上に被写体がちゃんと写っているように感じられる作品がたくさんあって、そういうスチールをこの作品で撮ってもらいたいなと思ってお願いしました。

向後真孝(以下、向後)
きちんと連絡をとるのも初めてでしたね。最初に喫茶店で打ち合わせをしたときに「映画におけるスチールが、現場ごとに求められる内容が異なっていて、場合によってはあまり重きを置かれていない現場すらあるかもしれない。でも、自分は映画本編と同じようにスチールを大切に考えています」という話をしてもらって。僕はこういった規模の映画のスチールははじめての経験ということもあったので内山組における具体的な撮り方について話し合いました。

内山
照明部、美術部などに協力を要請しながら、各シーンの映画本編の撮影が終わった後はスチールの時間を設けました。また、脚本で描かれている内容だけに縛られて撮る必要はなく、各シーンの前後の時間、あるいは描かれていないが存在したであろう時間を写して欲しいと伝えました。

向後
まずは脚本を読み込み、各シーンを想像して、どんな画を撮りたいかを文章で書き出しました。それを監督や演出部に共有し初日に臨みました。
「若き」はリハーサルなしで本番に臨むスタイルの現場でしたので、積極的に動かないと、限られた時間の中で狙っていたものを撮りこぼしてしまう、という焦りが先行した記憶があります。ただその中でも、あらかじめ頭の中に描いていた核となるであろう写真は絶対に撮ると決めていました。メインビジュアルもこの日に撮ったものが使われています。

映画「若き見知らぬ者たち」ポスタービジュアル

安全圏からでは良い写真は撮れない。

向後
撮影期間を通して僕が感じたのは「写真を撮るための現場での撮り方」と「映画を撮るための現場でのスチールの撮り方」は異なる命題がある、ということでした。写真家の数だけスタイルは存在すると思いますが、僕個人としては、物理的にも精神的にも、なるべく役者さんと近い距離で写真を撮りたいと考えています。場合によりけりですが、撮影監督や監督と同じくらいの距離感で撮ることもあります。現場には多くのスタッフがいますが、スチールを撮る上で無関係な部署はひとつもありません。各々プロとしての仕事を全うしている中、お芝居に影響のない間合いを探りながら撮ることは、自分にとって簡単なことではありませんでした。目的としては単純で、良いと思う写真を撮る。ということなのだけど、それを実行するには様々なことをクリアにする必要があった。

内山
たとえば、印象に残っている写真はある?

向後
彩人(磯村勇斗)と日向(岸井ゆきの)が向かい合って座っている写真かな。

内山
あの写真は、向かい合いながらも光と影が二人の関係性を象徴しているよね。

向後
あの部屋のセットは、カメラに映らない部分もきめ細やかにつくられていて、どこから切り取っても映画本編の世界観を損ねないという確信があった。なので光の良い角度を狙って、2人の座り位置を指定した。そこまでは良いとして、じゃあ2人はどんな表情で互いを見るのだろう。この写真の前後には何が起きているのだろう。という細かな部分の演出は、内山さんが少し後ろにいて、これだったら、画づくりが先行して大切な部分を逸脱していないよね、ということを確認しながら撮れたことで、自信を持って磯村さんと岸井さんと向き合えたかなと。

内山
スチールの時間で、向後さんがシャッターを切るときは必ず向後さんの少し後ろにいるようにしました。通常であれば、監督は次のシーンの準備に向かうことが多いと思うのですが、僕はスチールを撮る時間も映画の一部と思っているので、その空間を共有することは自然なことでした。

向後
今の話は「静」の時間を細やかに取り組んだシーンだったけれど、対照的だったのは、後楽園ホールでの撮影。あのシーンは目まぐるしくうねる熱気の中で撮る「動」の時間だった。映画撮影であることを忘れるような空間が広がっていて、本物の試合を撮影する写真家として臨みました。

内山
映画の中に存在する人物として、劇中で撮影してもらうことにしました。スチールカメラマンがふたつの世界で境目がなく存在し得るために、リアルなポジショニングや動きを考えて。

向後
動線は決めていたけれど、始まったら夢中で壮平(福山翔大)とファビオ(ファビオ・ハラダ)、そして日向を撮っていた。長回しの中、6×7の中判フィルム10枚でいかに最善を尽くすかそれだけでした。

深く関わろうという気概があれば、さらに一歩踏み込める

向後
「若き」での経験を通して学んだことは、もう一歩踏み込んで、作品に対して自分は何ができるだろう、と考えると、やれることがたくさんあるということでした。脚本は基本的に起きていく事実を書くものだから、その行間を読んで、監督と相談の上、劇中では描かれなかったが、その世界に確かに存在した時間を写真として残すことができる。そうして撮影された写真が、人々の心に少しでも響いてくれることがあるのなら、本望です。

内山
映画スチールというものの、豊かさと奥深さを改めて考えました。答えのない問いかもしれませんが、作品に応じて考え方を変えていく必要があるでしょうし、明確な何かを突き詰めることは必ずしも良いことではないと思います。同じ手法をなぞることはしたくない。確実に出来る範囲を少しずつ広げていきたいです。(続)

取材/編集 峰典子
撮影 向後真孝

■映画『若き見知らぬ者たち』2024年10月11日(金)新宿ピカデリー他で全国公開
オフィシャルサイト:http://youngstrangers.jp
映画公式note:https://note.com/youngstrangers
映画公式X(旧Twitter):https://twitter.com/youngstrangers
映画公式Instagram:https://www.instagram.com/youngstrangers_movie/
原案・脚本・監督:内山拓也
出演:磯村勇斗岸井ゆきの福山翔大 他 
製作:「若き見知らぬ者たち」製作委員会
企画・製作:カラーバード
企画協力:ハッチ
配給:クロックワークス
©2024 The Young Strangers Film Partners

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