岸井ゆきの×内山拓也 丸裸になったわたしが『若き見知らぬ者たち』で見つけたもの(後編)
映画『若き見知らぬ者たち』で、磯村勇斗演じる主人公・彩人の恋人の日向役として、俳優・岸井ゆきのが切りひらいた真骨頂。後編では役の根底をどう捉えたのかを、よりディープに紐解いていきます。
二度と帰ってこない空気だと思って参加している
内山拓也 (以下、内山)
公式note内ですでに公開されている福山くんとの対談で、彼は自分が二重人格なんじゃないかと錯覚するぐらい、もしくは福山くんと演じた壮平が同一人物であると無意識に思うほど、役にのめりこんだと言っていて。撮影前の自分がどうやって生きてたいたのかをもう忘れてしまったって。
岸井ゆきの (以下、岸井)
そんなことを言ってたんですか。
内山
印象に残っているのが、計量シーンの撮影日。肉体を作るために増量をしながら撮影に臨み、本物のアスリートと同じようなスケジューリングを組んで撮影期間の終盤にある計量シーンのために減量をしていって、前日は撮影場所のホテルに泊まってもらい、実際に水抜きを行いました。あとは直前の筋力トレーニングをしたら撮影という時間に、僕だけで部屋を訪ねたんです。
彼は精神を研ぎ澄ますための時間に充てていたので見に行く予定は組んでいなかったのですが、何か直感的なものを感じて、部屋をノックしにいきました。そしたらいつもより数段低い声で「来てくれてありがとう」って言われました。
減量をしながら芝居をイメージする。ある種、格闘家と俳優を混ぜ合わせながら横断を繰り返す作業は並大抵なものではなかったと思います。本物の格闘家と同じような肉体とメンタリティを備えるために、役作りには一年間を要しました。
岸井
はい。わたしも『ケイコ 目を澄ませて』(2022年公開、監督/三宅唱)で、プロボクサーの役を演じるために、肉体的な役作りをしました。減量じゃなくて増量ですが。今の話を聞いていると、わたしと福山さんでは役作りのアプローチの仕方が全然違うのかもしれない。ただ、二重人格っていうのはわかる気がします。わたしはケイコだったし、ケイコは私だったって思っているから。あのものすごく過酷な三ヶ月のケイコを終えた自分は、もう絶対に過去の自分には戻れない。福山さんに、もっと話を聞いてみたいな。
内山
『ケイコ 目を澄ませて』はいつごろの撮影だったんですか。
岸井
2021年ですね。撮影からかなり日数が空いてから取材を受けたんです。だから冷静に話せていたと思う。そのせいか『若き見知らぬ者たち』の撮影は、昨秋ですけれど、ついこの間という気がしていて。もう昨日みたいな感覚です。映画の魅力を語らないといけないのに、日向のことを思い出すと胸がいっぱいで、取材を受けるたびに泣きそうになってしまうんです。
というのも、『ケイコ 目を澄ませて』の主演を経てわたしは、めちゃくちゃ強くなったって確信していたんです。ですけれど、今度は『若き見知らぬ者たち』を通して、わたしは弱くなったと思っていて。
内山
なるほど。
岸井
それは前編で話をしたとおり『若き見知らぬ者たち』で、日向と向き合うということは、今まで目を背け、蓋をしてきた箱を開け、自分の弱さを取り出す作業だったから。今まではうまいことテトリスみたいに収まっていたものが、溢れてしまって。一回出ちゃったら、二度と戻せないんだっていうことを今、感じていて。ちょっとボロボロになった主人公のような気持ちでいます。
こんなにも私は自分のことを見逃して生きてきたんだな。これからは逃げるのはやめて、弱さが溜まる前にひとつずつちゃんと見てあげたいな、と。だからこの二本の作品に続けて出演できたことは、自分の中ではすごく意味のある順番だったんですよね。
そしてもちろん、わたしだけでなく、関わった皆にとっても大切な作品です。多分もう二度と帰ってこない空気だと思って内山組に参加しているので、皆さんにはやっぱり映画を見てもらいたいですね。
取材・編集 峰典子
撮影 向後真孝
■映画『若き見知らぬ者たち』2024年10月11日（金）新宿ピカデリー他で全国公開
オフィシャルサイト：http://youngstrangers.jp
映画公式note：https://note.com/youngstrangers
映画公式X（旧Twitter）：https://twitter.com/youngstrangers
映画公式Instagram：https://www.instagram.com/youngstrangers_movie/
原案・脚本・監督：内山拓也
出演：磯村勇斗、岸井ゆきの、福山翔大 他
製作：「若き見知らぬ者たち」製作委員会
企画・製作：カラーバード
企画協力：ハッチ
配給：クロックワークス
©2024 The Young Strangers Film Partners