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パリで行われた映画『若き見知らぬ者たち』のサウンドミックス。海外共同製作のリアルな裏側

日本・フランス・韓国・香港の共同製作である映画『若き見知らぬ者たち』。今回、最終的な音の調整をする「サウンドミックス」という工程をフランスで実施。訪仏自体がはじめてだという内山拓也監督に、現地での様子を伺った。

監督にとって、はじめての海外共同製作。

フランス自体がはじめてということですが?

内山拓也監督(以下、内山)
到着して最初は土日のおやすみをいただいて、まずは街に慣れようと思っていました。アパートメントやスタジオの近くをぶらぶら歩いて「こんな場所なんだな」と感じたり。飛行機も13時間寝ないで過ごしていたので、時差ぼけもなく、そんなに苦労もありませんでしたね。

左:内山拓也監督 右:宮前泰志プロデューサー

映画の製作にあたって、海外のクルーと組むのもはじめてだったのでしょうか?

内山
はい。日本から参加した僕とプロデューサーチームも、フランスの「ユーロズーム」という映画配給会社も、同じくフランスの「ベガ」というサウンドミックスのチームも、一緒に製作するということ自体がはじめてでした。

全員がはじめてだったので、みんなで一緒に何かを掴もうとしながら進める空気感が印象的でした。フランスでの実作業は約2週間。進めていく中でお互いにわかり合っていくことも増えた気がします。

監督から伝えるニュアンスは日本語での指示になりますよね。言葉の壁は感じなかったのでしょうか?

内山
フランス語も日本語もとても流暢な、黒川さんという通訳の方に入っていただいたのでスムーズでした。クロさんはフランス在住約50年の日本人で、もともとフランスで映画、ドラマのプロデューサーをしている方。だから、僕が話した言葉をそのままフランス語に訳すのではなく「ということは、こういう意味や別の可能性も含んだり、こういうニュアンスも伝えたいということですね?」と確認してから翻訳してくれました。言葉を伝えるよりも、クリエイティブを伝えようという感覚がとても楽しく、心強かったです。

一番左が黒川さん

サウンドミックスとなると、指示だけではなく作品自体のセリフも全て日本語かと思います。台本の翻訳版などを事前に渡していたのでしょうか?

内山
今回担当してくれたサウンドデザイナーのリオネルには、台本は常に英訳版を更新していたので、撮影稿や編集稿は渡していましたし、まだ完成版ではなかったものの同時進行で作っていた英語版とフランス語版の字幕を送っていました。でも、彼は字幕を出さずにやっていたんですよ。「字幕出さなくていいの?」と確認した瞬間もありましたが、「画を見たいし、見れば機微も気持ちもわかる。画を見て感じることが大切だから、僕は字幕はいらない」と言っていました。

左:リオネル・グノン氏 右:内山拓也監督

内山
画だけでわかると言ってくれたことは、素直に嬉しかったですね。もちろん、抽象的な部分で議論が生まれたところもありました。そういった場合はフランス語の字幕を出して確認し、ミックスしていった部分もあります。でも「言語だけではない、作品自体が持つパワーがあれば十分なんだ」という言語を越えた共通認識をもって作業出来たことは、結果的にはすごく良かったと思っています。

言語が違うからこそ気づける音のズレ

製作の過程で、普段との違いを感じることはありましたか?

内山
日本では、良くも悪くも監督が指示したことを忠実にやろう、という傾向があるように思います。指示を出すのは監督で、あとはみんなが見守るというか。でも、リオネルは「ここでの本質はなにか?」というのをワンショットごとに掴もうとしてくれました。

現地には音楽監督の石川さんも来てくれていたのですが、「どう感じる、みんな?」と確認する時間をとても長く取りました。ミニマムなチームだけれど、プロデューサー含めてみんなが集中して、全員が取りこぼさないように真剣に食らいついている、というような異様な集中力で。全員が「この瞬間を大切にしたい」と向き合っていた印象です。

内山
たとえば、僕が「ここ!」と言って映像を止めて、「ここに僅かなノイズがが入り込んでいる」「この1フレームでL(左)から出る音がR(右)から誤って出てしまっている」といったとても細かいことを伝えることが何度もありました。

音の波形を見ても問題ないと言われるのですが、リオネルは根気強くその違和感を信じてデータに潜り込んでいき「これはたしかに原因があったね」と付き合ってくれて。僕のそのような姿を見て、信頼してくれた感じはありました。「よく聴こえたね!よく感じたね!」と言われて「いや、リオネルが聴いてよ!」と真剣にやりながら冗談もたくさん言い合ったりする、ポジティブな関係性も築けたと思います。

リオネルさんからの指摘で印象に残っていることはありますか?

内山
面白いなと思ったのは、リップシンク(言葉と唇の動きが合うこと)の1フレームのズレに気づくことが多かったのがリオネルだったんです。言語が違う作業のはずで、なおかつ日本での編集工程ですでに合わせているはずなのに、微妙なズレに気がついてくれました。もしかしたら、字幕や先入観がなく、音と画に集中しているからこそ気づけることなのかもしれません。

僕たち日本人にとっては、日本語だから耳が勝手に解釈して、脳がわかりやすく補完してしまう可能性がある。だけど、わからない言語だからこそ「たぶんちょっと違う」と気づけたのでしょう。実は映画におけるリップシンクってすごく難しくて、同時録音なのでズレているわけではなく、少しだけ音をずらしたほうがより合って見える、ということがあって。そこに一番気づくのが、リオネルでした。

こういうことも含めて、作業をしながらひとりひとりの能力を確認したり、尊敬し合えた現場だったように思います。

今回、フランスでのサウンドミックスだからこそ得られた気づきなどもありましたか?

内山
フランスチームとの作業の中で、時間の流れ方や、一日に働く時間の短さなどに最初は慣れないなと思っていました。でも、だからこそ一人で散歩する時間を取ったり、街並みを堪能したりと、程良い疲労を感じながらリフレッシュも毎日きちんとして、オンオフを切り替えながら仕事ができたと思います。

『若き見知らぬ者たち』は日本を舞台にした日本的な映画ではあるけれど、僕自身がフランスに身を置くことで、いつもの日常を角度を変えて見ることができたと思います。おそらく、日本にいたらできなかったような「客観」を持ち合わせた見方ができました。

リオネルにも「今すごくいい空気が流れているから、ここで感じたことを、最終的にちゃんと作品に落とし込みたい」と伝えましたが、フランスでなければできなかった作り方ができたと思います。それが、一番充実した点だったかな、と。


取材/編集:山本梨央
写真:長野泰之

■映画『若き見知らぬ者たち』2024年10月11日(金)新宿ピカデリー他で全国公開
オフィシャルサイト:http://youngstrangers.jp
映画公式note:https://note.com/youngstrangers
映画公式X(旧Twitter):https://twitter.com/youngstrangers
映画公式Instagram:https://www.instagram.com/youngstrangers_movie/
原案・脚本・監督:内山拓也
出演:磯村勇斗岸井ゆきの福山翔大 他 
製作:「若き見知らぬ者たち」製作委員会
企画・製作:カラーバード
企画協力:ハッチ
配給:クロックワークス
©2024 The Young Strangers Film Partners


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