【事実か?フィクションか?】 今年、読んだ小説で一番面白い『ヒトラーの試写室』(松岡 圭祐・角川文庫)
戦前・戦中の特撮の神様「円谷英二」の愛弟子と、映画を最大のプロパガンダだと信じてやまないナチス・ゲッペルスの人生が次第にクロスしていき、ナチスの国家存亡をかけた大作映画へと集結していく・・・。
戦時中の円谷英二が特殊技術を担当した「ハワイ・マレー沖海戦」を観たことがあるかたなら、円谷特撮のクオリティの高さをご存じのはずである。
戦隊を組みながら飛ぶ爆撃機の一機一機が微妙にずれた動きをする臨場感。
日本海軍の大艦隊が、波を立てながら大海原を進み行く様。
山本嘉次郎が監督した東宝の戦意高揚映画「ハワイ・マレー沖海戦」は、戦後、GHQが「どのアングルから撮れば、このような真珠湾攻撃のドキュメンタリー映像を撮れたのか、まったく不可解」と首を傾げたように、実写と見紛う出来の良さ。GHQは長い間、この特撮部分を実写だと信じて疑わなかったという。
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時間は戦時中に戻る。
東宝が「ハワイ・マレー沖海戦」を完成させ、日本国民からも日本軍からも絶賛を浴びていたとき、ヒトラー率いるナチス・ドイツは、ひとつの悩みを抱えていた。
多額の予算をかけて制作していたプロパガンダ超大作映画「タイタニック」の最後の沈没シーンの撮影が頓挫していた。
このあたりネタバレになるので詳しく書けないのですが、ドイツの映画人たちが、何回、模型を使ってタイタニックの沈没シーンを撮影しても、オモチャがひっくり返って沈んでいくようにしか見えないのである。
あせる宣伝大臣ゲッペルス。そこへ、「とある理由(ネタバレ含むので詳細は伏せます)」から、「ハワイ・マレー沖海戦」の特撮シーンのみのフィルムか届く。
「ケッ!黄色いアジアの猿めが。このクソ忙しいときにつまらぬもんを送ってきやがって」と手も触れないゲッペルス。そこへ、戦況はかばかしくないので現場から逃げてきたヒトラーが突然訪問してくる。
「なんだ、このフォルムは?」
「さあ、日本から送られてきたのですが・・・」
「ふ〜む。ちょっと観てみようや」
このときヒトラー、戦況が悪くなる一方で、とにかく何かに逃避したかった。
で、ゲッペルスたちと「ハワイ・マレー沖海戦」の特撮シーンを観たヒトラーは興奮して思わず立ち上がる。
「なんという素晴らしい出来だ!本物と違わぬではないか!」
んなことで、暗礁にのりあがっていた「タイタニック」の沈没シーンを、日本から特撮マンを呼んで撮影させよう、なーに、シベリア鉄道を使えば一週間で来れるだろう、てなことになる。
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日本政府は、日本映画の至宝である円谷英二を危険なドイツへやるわけにはいかない。
というわけで、円谷英二の愛弟子の彰(アキラ)が、ドイツへ飛ばされるのだが・・・。
ドイツには、艦隊撮影にゼッタイに必要な「あるもの」がなかった。さて、どうするか?
その「あるもの」とは何か?
ここから先は皆さんの目で確かめてください。
ぜひ、映画化してほしい冒険小説である。