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夏の出来事

誰もいない午前の部屋。
エアコンは相変わらず忙しそうな音。床の上の扇風機は
首を振るたび同じ所で、ギィとひと鳴きする。もう何年
たつだろうか、買った年から鳴いてたなと記憶している。

それにしても家族はみんな何処へ行ったのだろう。
キッチンのシンクには朝ごはんに使った食器が足の踏み
場もないほど詰め込まれ、洗ってほしいと叫んでいるよ
うで、実はそういう感じを醸し出すような積み上げ方を
妻はわざとしていたに違いないと思わないことはないが、
やっぱりそそられて洗ってしまった。

洗い始めてすぐに気付いたのは、一番上に積み上げられ
ていた食器が今朝僕が使ったものだったという、解けな
さそうなミステリー。
でも細かいことはどうでもいいやと思考を止める。

それより大事なのはこういう状況の時、帰って来た妻が
「あれっ、私洗ったかな」なんてつぶやくのを聞き逃さ
ないように今から耳を澄ましておく事。

洗った食器の重ね方には個性が出る。
妻と僕とは全く違うから、見れば自分の仕事ではないと
すぐに分かるのに妻は、洗って積み上げられた食器より、
食器がなくなったシンクを先に見るから、そんなふざけ
た自問自答をした後でやっと気付いて「洗ってくれたん
だ、ありがとう」っていうまでを聞き逃さないように。

結局、食器が洗ってほしいと叫んでるんじゃなくて、褒
めてもらいたい僕が食器に話しかけてるんだと気付いた
時、扇風機がギィと鳴いた。

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