私、丈夫だから。とその人は微笑んだ
「私、丈夫だから」とその人はテレビの中で微笑んだ。
2021年1月。都内では重症コロナ患者数が減らずに、医療が逼迫していた。
コロナ患者受け入れ病院では、新型コロナの患者対応のために、看護師の数を増やさなければならない。
ニュース番組の中で、病院スタッフが、休職、引退などした看護師リストを前に「とにかく一人づつあたるしかありません」と話していた。
コロナ病棟の看護師さんといえばフェイスガード、マスク、防護服を着けた重装備で、細心の注意をはかりながら、感染者の看護にあたる姿を報道でお見かけする。
私からすれば、最大級の感謝しかない。
心ない一部の人に、いわれのない差別を受けたり、ご家族との接触を避けるなど、大変なご苦労をされていると聞く。
先程の病院からの復帰の呼びかけに応えて復帰した3人の看護師さんが、駆け足で画面に流れた。
その一人が冒頭の看護師さんだ。
マスクをしてフェイスガードというコロナ予防の装備をしているので、素顔は定かでないが、
「あ! タンポポさんだ」と思った。
白髪混じり、眼鏡をかけて、少し前かがみの姿勢。
「私、丈夫だから」
とこたえる声は、私が数年前に通っていた着付け教室の同じクラスにいた方に、とても良く似ている。
着付け教室は平均年齢が30代だったが、その方は一回り程、年上だった。
看護師さんをしていたとおっしゃっていて、静かな方だった。
教室の雑談で聞いた話。
着付け教室の生徒は、看護師さんと客室乗務員さんが多い。
どちらもお仕事で忙しくて、お給料を使う暇が無いのだそうだ。
時々、教室では着物の勉強会と称した、販売会がある。
そんな時には、気に入った着物や帯があれば躊躇なく買える。教室からすれば上得意のお客様。
本当かどうかは、わからないけれど。
ある日、その物静かな方が勉強会で購入された、春の野花が描かれた帯を、纏って来られたことがあった。
学院長が「良い帯やなー!」と大声で褒めていったので、勉強会で購入されたのだとわかった。
しかし、お世辞抜きで小柄で細身の優しい雰囲気がタンポポやスミレを描いた帯にお似合いだった。
なので、ここで「タンポポさん」と呼ばせてもらう。
そのタンポポさんがテレビでインタビュアーに「なぜコロナ病棟に復職されたのか」と聞かれて「私、丈夫だから」とこたえている。
過酷な最前線に復帰されて、さぞかし大変な毎日であろうことは想像に難くない。
細身で声も細いその方が、「丈夫」を理由に復職された。
どうぞ、お元気で、無理をなさらず、ご自身のお身体もご自愛いただきたい。
私には何もできないが、せめて、ご負担にならないよう、感染しないよう、毎日を送りたいと思っている。
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