あの思い出の焼き鳥

お祝いと言えば、片田舎では小僧寿しとケーキと焼き鳥だった。

焼き鳥屋はたたきに焼き場だけある小さな個人商店。

我々は何故かねぎ間を5人家族で60本も注文する家族だった。ねぎは玉ねぎで、火が通り切ってなくて、食べていて涙が出てくる。 

でも、好きだった。町の人もみな足しげく通ってた。

いつの間にか親父さんが腰を壊したとかで店を開けることが少なくなったと聞いた。その時は中学生で、もう30年以上となる。

そのうち、店はたたみ、たたきは格子扉で閉まったままになった。

30年経った今もその閉じられた店はある。

今もその扉を開けると、親父さんが出て来るのではないかと思う。

だが、もう30年経ったという事実が、それを踏み留まらせる。

子供の頃を過ごした町にはそんなところがいっぱいある。

見えない中は代替わりしているか、埃のがらんどうか。

僕らは今を生きている。新しいところを開拓したくなるのは、昔の思い出がそこにないことをごまかすためか。

今日のお祝いの場に遅れた僕は、冷めたフライドチキンを食べながら、そんなことを思い出していた。

あの何でもなかった、玉ねぎの焼き鳥をまた食べたくなった。

今は遠くで生きている。
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#一口エッセイ