久保勇貴

宇宙工学の研究をする。宇宙とか宇宙じゃないエッセイを書く。noteは勢い。 太田出版『ワンルームから宇宙をのぞく』 https://www.ohtabooks.com/publish/2023/03/22162235.html Twitter: @astro_kuboy

久保勇貴

宇宙工学の研究をする。宇宙とか宇宙じゃないエッセイを書く。noteは勢い。 太田出版『ワンルームから宇宙をのぞく』 https://www.ohtabooks.com/publish/2023/03/22162235.html Twitter: @astro_kuboy

マガジン

  • THE VOYAGE 2023・掲載記事

    • 63本

    宇宙メルマガTHE VOYAGE 2023掲載記事

  • Space Seedlings

    • 74本

    【Space Seedlings】は、大学で宇宙に関する研究開発をされている博士課程の方々を中心に、宇宙分野で今後ますます活躍されることが期待される天文系・建築・構造系・医学系など専門分野について学ぶ学生に集まって頂き、それぞれの分野についてご寄稿頂くだけでなく、学生目線でお届けする宇宙開発・ビジネスについて各企業や団体等にインタビュー取材をオンラインで行いご寄稿頂いています。 学生の取り組みをはじめ、学生が取材する機会を通して読者目線に立った質問を率直に投げかけて頂き、読者に分かりやすくご紹介していきます。

最近の記事

2024/10/31(虚)

 短歌を作った。作っているうちに日は暮れて、どこにも向かえないならどこに行こう、と小田急線町田駅の脇の方の改札口から出てすぐの出口、百貨店のエレベーターに吸い込まれそうになるのを堪えてようやく出ることができるその出口に立ってみる。五七が歩いてきて、八九の音がする。七八、七六、七七、言葉を文字数に分割する態度がどこまで誠実な行いなのか、分からないでいる。文字を区切っているのは自分で、だったら、とその時坂道に斜めに立った警備員が警棒を落として、手首に紐をかけていなかったから、坂道

    • 3刷に寄せて『ワンルームから宇宙をのぞく』

       三連休の終わりの夜12時、ふと、この世界に僕は一体何を残せるのだろうかなんて布団の中で考え始めてしまって、何を残せても残せなくても、自分のこの意識があと数十年後に永遠に途絶えてしまうのは確かなのだと思った。のれんをくぐるぐらいの軽快さで、蓋をしていた意識がふわっとめくれて、ああ、まただ、と思う。背中を丸めて、毛布を首元に手繰り寄せて、温かくて、けれどめくれた意識は元に戻らず、表紙のめくれた本があっという間に風に攫われていくように、意識が死の方へ裏返っていった。僕は今でも、死

      • 2024/07/16

        1.個をないがしろにせずに普遍的でもあれるか、ということを考えている。普遍を普遍のままで扱うことは空虚だから、必ず個に根差す必要があるけれど、だからと言って特定の個に固執しないような物語のあり方をしたい。物語は個であって、それが単に個の人生の紹介に留まっていないことからも、きっとできるのだと思う。簡単ではない。 2.科学を文学に従属させない、ということに取り組んでいる。科学は態度であって、決して記号論に終始するものではない、ということを軸足にしたい。宇宙を比喩として使わない

        • 2024/07/04

          1.風景を書くことは難しく、そこに作家性が表れるというようなことを保坂和志さんが言っていて、確かにそうだと思う。風景を書こうとし始めても、自然と目線はそこを歩く人間だとか、奇妙な物体だとか、そういうものに移ってしまう。受動的に反応だけしていたいんだと思う。 風景を書くには、能動的に対象を見る必要がある。そして、それを描写するには意識的に無意識である必要がある。見ようとして見たのではなく、無意識下で体が反応して選び取ってしまった、ということに意識的である必要がある。これが非常

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        記事

          2024/07/02

          1.音楽も小説も一次元的な情報であるということをこの前書いたが、そもそも小説の起源が語りであることを考えると、それが一次元的な情報の流れで紙に定着されたのは自然なような気もする(自然に受け入れられる土壌が物理的に存在していた、という意味)。 2.身体性のある描写について、表面的な意味をとらえて「その登場人物の身体の動きが透けて見えるような描写」として書いてみたが、自分の言葉であるような感じがしない。もっと根本的に、「小説モード」でない体から出てきたものでよいような気がする。

          2024/07/01(虚)

           気まぐれに植えたバジルが根を張り始めて、世界のモデル化は恐ろしいとも思った。この純粋な驚きもなく、子供は植物が根を張ることを知っているのだ。長い間種のまま放置されていても、途中でちょん切られても、土に入れて水をかければ命が動き出すなんて、こんな驚きは他にない。と思いながら大きな車体のワゴンが行き過ぎて、価値というものの実態がなんだか分からなくなる。自分が尊いと思うものに、世界は価値を置いていないと思う。それは、誰もがそう思うのだろうか。モデルの偉大さも愚かさも分かっているか

          2024/07/01(虚)

          2024/06/22

          音が1次元情報であるということに驚く。バンドの豊かな演奏も、渋谷の雑踏も、全て共通して空気の疎密という1次元情報で表現されていることに。そういう意味で音と小説は似ている。文章というのも、1次元的な文字の羅列で成り立っている。空気の疎密が鼓膜を震わせるのが音だと言うなら、描写の疎密が感情を震わせるのが小説だと言える。 希望でもある。表現にバラエティを与えるのに、必ずしも情報の多次元性は必要ないということでもある。映画やVRが、表現として小説に勝るとも限らないということでもある

          2024/06/14

          1.誤解のないように書く、ということと、解釈を制限する、ということが大きく違うということに気づかされた。これまで意識できていなかったことだ。描写の身体性、と言っているものも、体験の豊かさとも相関があるのかもしれない。読者が感じ、体験する余白があることで初めてそれは生きた心地になるようにも思う。 2.高校生の頃、音楽を聴きたいというよりも、面白い音を聴きたいと思っていた。友人の影響で洋楽をよく聞いていたのが大きい。書くことにも、面白いものを入れたい。音や言葉で遊ぶということ、

          2024/06/08

          1.積読だった「みどりいせき」を読んだ。良い作品だった。本当に前評判通り、前半の取っつきにくい感じを乗り越える勢いのある後半だった。トリッキーな作品というイメージを勝手に持っていたけれど、むしろ挑戦に対して真摯に取り組んでいる、真っすぐな文学作品だと思う。こういう作品が然るべき評価を受けられることは、救いだと思う。 2.時制を主観との距離に置き換える、ということを考えている。書くという行為の、そして語るという行為の自意識の扱いの問題でもある。現在形という時制は、描写としては

          2024/06/02

          1.フィクションをノンフィクションと同じ感覚で書くと身体性が乏しくなる、ということを先日は書いた。より広く捉えると、「読者がその世界を信じる気になるかどうか」が重要なのだと思う。全く同じストーリーの創作と私小説があったとしたら、私小説の方が読者の関心を引きやすい。それは、現実世界との繋がりが明らかであるからで、その世界をわざわざ信じてやるに足る理由が備わっているからだと思う。ノンフィクションにおいては、「誠実に書く」ということである程度それを果たすことができていた。しかしフィ

          2024/05/25

          1.小説を書いた。意外に書ける、と思ったのが最初で、全く書けていないと思ったのがその次、そして書き終わった今、もっと書けたはずだと思っている。つまり、書けなかったことがたくさんある。紙にインクを染みつかせてみて、ようやく分かった。 2.エッセイ以外の表現方法を模索し始めたのは、「自分の生活に近すぎる」というエッセイ特有の限界と、「自分自身の人生を書きたいわけではなくなった」という個人的事情からだった。新しい表現への試みを今やれて良かったと思う。機会を与えてくれ、かつ粘り強く

          2024/02/18

          1: 「え、何の話?」 と、自分が書いた文章にコメントが付いていた。ある文芸誌に寄稿した作品をそのままWeb転載したものだったので、文脈を理解していない人が読むと確かに怪文書に見えたかもしれない。が、あまりに直接的すぎて笑った。笑った後で、渦巻いている。こんなにも主人公として見ている世界の主人公は、自分ではない。そんな恐ろしい事実に、笑っている場合なのだろうか。 2: 人の脳みそに情報を流し込むようなもので、作家という仕事は、だから、情報を流し込まれたいと思われるような人間

          なんの気力もない 何も書きたくない 何も見たくない 文字が一つ足りない いつも足りない

          なんの気力もない 何も書きたくない 何も見たくない 文字が一つ足りない いつも足りない

          2023/03/29 目の前で本が売れなかった

          店頭で僕の本を立ち読みしている人がいた。後ろのベンチに座って、こっそり観察してみた。 高校生か大学生ぐらいの女の子だった。真剣な表情で、じっと脇を閉じて、「はじめに」を読んでいた。小さかった。それは、脇をぎゅっと閉じていたからかもしれないし、僕より身長が低かったからかもしれない。黒くてツルっとしたタイトなズボンを穿いていて、やけに細身に見えたからかもしれない。ただ、とにかく小さく見えた。小さな女の子が、僕の本を真剣に読んでいた。 僕はベンチで小さく縮こまって、その子のこと

          2023/03/29 目の前で本が売れなかった

          2023/03/24 となりのロット

          同級生にあんな子いたな~と思ってボーッと見ていたら、本当にその同級生の子だった。新刊のサイン会の知らせを見て、足を運んでくれたそうだ。中学生以来だったから、十数年ぶりだった。この十数年間、一度も連絡したこともないような仲だったけれど、それだけに自分の意志で会いに来てくれたことがとても嬉しかった。 人間関係というのは、別にこだわらなくてもいいようなものに、それでもこだわることだ。たまたま同じ期間に同じ地域に住んでいたというだけで一つの教室に同居させられて、別に仲良くする義理な

          2023/03/24 となりのロット

          宇宙工学者の僕が、なんでエッセイなんか書くのか [久保勇貴]

          野球は10年間も続けたけれど、別に好きではなかった。惰性で生きるのが得意だ。 はじめは、兄ちゃんの野球の試合に付いていって友達と遊ぶのが好きだったのだけれど、そのうちその友達が試合に来なくなって暇になったので、とりあえず「野球やりた~い」と父ちゃん母ちゃんに頼んだのだった。野球がやりたかったというか、単純にヒマだったんだと思う。そうしてそのまま、高校3年の最後の夏まで惰性で10年間続けた。 グローブにもバットにもスパイクにもたくさんお金をかけてもらったけれど、もちろん一生

          宇宙工学者の僕が、なんでエッセイなんか書くのか [久保勇貴]