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エピソード2-03 垢嘗(あかなめ)
2-03 垢嘗(あかなめ)
あかなめとは読んで字のごとく「垢」をなめる妖怪。江戸時代の妖怪画では足にかぎ爪をもつざんぎり頭の子供が風呂場のそばで長い舌を出した姿で描かれている。
人間の表皮からはげ落ちた皮脂や角質など、風呂場に蓄積したものを養分として嘗めとっていると考えられる。
また、垢には心の穢れや煩悩、余分なものという意味もあることから、風呂を清潔にすることをし忘れるほど、穢れを身にため込んではいけないという教訓も含まれているとの説もある。
2-03 垢嘗オリジナルストーリー
ここは江戸時代中期の江戸の町の中、少しさびれた風呂屋があった。この風呂屋の3代目の店主湯吉は夜空を見上げてつぶやいた。
湯吉:
いや~今日も一日終わった終わった。それにしても最近はお客さんかなり減ってきてしまったな~。
お上が出した「混浴禁止令」が効いちまってるんだな~。なんだかんだ言っても混浴は江戸の男女の出会いの場だったりしてたからな~。
湯吉はそういうと風呂の掃除もせず、酒を飲んで寝てしまった。そして、し~んと静まり返った丑三つ時、厠に起きた湯吉は妙な音を聞いた。
誰も残っていないはずの風呂場から何やらペチャペチャなめるような音が聞こえる。猫か何かが風呂場に忍び込んでたらいの水でもなめているのかと覗いてみた。
すると、風呂場には子供くらいの背丈のざんぎり頭の不気味なモノがその舌をなが~く伸ばして風呂桶をペチャペチャなめているのだった。
湯吉:
だ、誰だお前は!も、もしかしてオレが子供の頃爺さんに聞いた妖怪・垢嘗だな!なんでオレの風呂屋にやってきやがった?!
垢嘗:
おぉ、お前がこの風呂屋の主人か?はじめまして、アッシは垢嘗っていう妖怪でやんす。これからもよろしく付き合ってくれよ。
湯吉:
ホント、本当に垢嘗なのか?お前みたいな妖怪がいるからオレの店に人が来なくなるんだな。ぜんぶお前のせいか?!
垢嘗:
おっと、それはそれは訂正させてもらうよ。アッシがここに来るのはここの風呂場がちゃんと掃除しないから人の垢が溜まっているからだ。
そしてそれが客が減ってる理由だ。こんなに掃除もしてない風呂場じゃ誰も入りたがらねえだろう?特に若い奴らは他の風呂屋に行っちまう。
遠くの風呂屋に行くのがおっくうな年寄りだけがこの風呂屋に来てくれてるって訳さ。
本当はアッシだって毎日毎日ジジイとババアじゃなくて、10代20代の町娘の垢のほうが100倍美味いってもんだ。その辺わかってるのか、おい?
湯吉:
そうか!爺さんが言ってたのは妖怪が怖いって話じゃなくて、妖怪も来るような汚い風呂場にするなってことだったんだ!やっと目が覚めたよ!
垢嘗:
おはよう。え、寝てたんじゃない?そんなことはどうでもいい。もっとお前さんが風呂屋の営業が終わった後毎日きちんと風呂場を洗えって話だよ。
そうすれば、よそに行っちまってたお客さんもこの風呂屋に戻ってきてくれるはずだ。ん~でもそれには時間もかかるし前の通りって訳にもいかね~かな~。
湯吉:
え~そりゃ困る!これからは毎日きれいに風呂場掃除するからさ、お前もなんか知恵を貸してくれよ。
垢嘗:
そうだな~そうだいいこと思いついた!この殺風景な風呂場の壁に風景画を描いてもらうのよ!そうだな波と富士山なんてのはどうだい?
湯吉:
そりゃいい!絶対話題になるって。でもオレは絵描きなんて一人も知らねえしな~垢嘗お前は誰か心当たりないのか?
垢嘗:
フフフフ、実はな少し前にたまたま仲良くなった浮世絵師がいてな、今話題の怪談浮世絵のそいつのモデルになってやったんだ。
腕は確かだ、なんなら紹介してやってもいいぞ、どうだ?
こんな感じで話はとんとん拍子に進み湯吉は毎日毎日風呂場がピッカピカになるまで掃除し、垢嘗が紹介した絵師が壁一面に大波とその向こうに見える大きな山を描いてくれた。
湯吉:
いや~さすがです、当代きっての浮世絵師・葛飾北東斎先生の絵は見ているものを感動させますね~。これだと見入っちゃって湯船でのぼせちゃうかもしれませんね~。
でも北東斎先生、一つ聞いてもいいですか?あの富士山なんですが、ちょっと富士山ぽくないように感じるんですが、私の気のせいですか?
北東斎:
いや、あの山は富士山ではない。ワシはは水戸の出身だから富士山を近くで見たことがない、だからよく登った筑波山にしたんじゃ。
湯吉:
え、筑波山?ま、いっか、立派な絵だし。先生ありがとうございました。
こうして絵を描き終わった葛飾北東斎はわずかな手間賃だけを受け取って帰っていった。そしてこの噂が広まりあっという間に湯吉の風呂屋は以前以上の賑わいが戻ってきた。
湯吉:
いや~今日も一日終わった終わった。それにしても垢嘗のおかげで大繫盛だ。垢嘗にお礼言いたいのに最近出てこないな~。まあいい、掃除掃除と。
垢嘗:
アッシとしたことが、若い町娘が戻ってきた~って喜んでたが、考えてみたら湯吉が毎日ピッカピカに掃除しちまうから垢残らねえじゃねえか。
しょうがねえ、ほかの風呂屋を探すか…。
夜空は湯吉が洗った湯船のように星がキラキラ輝いていた。
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