エピソード６６ 小袖の手

66小袖の手

小袖の手（こそでのて）は、鳥山石燕の妖怪画集
「今昔百鬼拾遺」などの江戸時代の古書にある日
本の妖怪。
小袖の袖から、幽霊らしき女性の手が伸びたもの

「今昔百鬼拾遺」の解説文には遊女の死後、死者
の衣服を寺に収めた小袖を見て、友人たちがその
遊女の在りし日を偲んで悲しむ一方、当の遊女は
むしろ、誰から身請されずに死ぬまで不自由な生
活を強いられたことを悲しみ、身請の金を求める
あまり小袖から手が伸びているのであり、江戸時
代の吉原遊廓を風刺した創作と解釈されている。
また、遊女がこの小袖を着飾りたかった願いが叶
わず、その怨みによって小袖から手が伸びたもの
または小袖の持ち主だった女の生への執着心の妖
怪化、付喪神の一種などともいわれる。
妖怪を主題とした嘉永時代の狂歌本「狂歌百物語」
にも「小袖手（こそでのて）」と題して描かれて
おり、本来、死んだ人間の小袖は形見の品となっ
たり、寺に納められて供養されるはずが、高級な
小袖が売却され、成仏できない霊がその小袖に取
り憑いたものと解釈されている。

66小袖の手　オリジナルストーリー

昭和のとある劇場の舞台裏を若い女優の卵、良子
が歩いていた。
ふと何気なく横を見ると白くしなやかな腕が
「おいで」と呼んでいる。

良子はいざなわれるまま大道具部屋に入った。
すると部屋の奥の方に豪華な着物が掛けられてい
る、その着物に良子の目はくぎ付けになった。
大道具の親方が声をかけてきた。

親方：
どうした？その着物が気になるのか？その着物は
明治の中頃のこの劇団の看板女優がたった１度だ
け袖を通して舞台に立った着物だ。きれいだろう。

良子：
親方さん。
私、来月の舞台で「静御前」をやることになって
いるのですが、この着物着てもいいですか？
いえ、着させてください！

親方：
あぁ、いいが、みんなはこの着物には何かが付い
てるって言って誰も着たがらないんだが、
お前さん大丈夫か？

良子：
ありがとう、親方さん！
この着物が私を呼んでくれた気がするの。
絶対に私に悪いことなんてしないわ。

次の日の晩、良子はみんなとの稽古の後一人残っ
て稽古をしていた。その横には例の着物が壁に掛
けれれていた。
と、稽古している部屋の陰からすごく綺麗な女性
が現れた。

謎の女：ダメダメ、そんなんじゃお客様になにも
伝わらないわ！
舞台の上ではねえただ演じるんじゃないの、役に
なりきるの...いえ、役のその人の人生を演じ切
るのよ。

良子：
はい、すいません。
．．．ところであなたはどなたですか？
うちの劇団の方では無いですよね。

謎の女：
そんなことどうでもいいじゃない。
さあ、練習よもう時間がないんだから。　
もっと考えて静御前になりきるの義経様に出会っ
た喜び、引き離された怒りと悲しみ、そして遠く
離れた義経様を願う気持ちそのすべてをあなたの
人生として演じるの！

良子はその女性の言葉をすべて聞き入れ、必死に
稽古をした。
次の日もその次の日も例の女性が現れ良子を熱心
に指導した。
その指導に良子は何の疑問も持たずついてきた。

謎の女：
素晴らしい！この一週間んであなたは見違える
ように演技が上手になったわ！
そしてあなたの顔も自信に満ち溢れた女優の顔
になったわね。おめでとう。

次の日良子はなぜかずっと黙って話していなか
った例の女性のことを親方にたずねてみた。

親方：
まさか！！
その女の人はこの写真の人じゃないか！

親方は財布から大事にしていた写真をだして良
子に見せた。

この女性は須磨子、明治の名女優さ。
須磨子は不治の病にかかったのだが、無理を押
してこの着物を着て最後の舞台を演じたんだ、
「静御前」をな．．．

ただ、彼女は舞台の途中で倒れてしまい、その
まま病院に...結局彼女は舞台に戻れず、
彼女の集大成としていた「静御前」を演じきれ
ないまま旅立ってしまった。

次の日からいつもの女性は姿を見せなくなった
しかし良子はよりいっそうの稽古をし本番の
舞台にのぞんだ。

「静御前」の初日の舞台は満員、
そして前例がないほどのスタンディングオベ
ーション！感激して泣いているお客様もたく
さんいるエンディングであった。

カーテンコールに俳優たちが答える中、涙の
良子は観客席に手を振った後舞台の裾を見た。
白い手が拍手をしてくれていた。

良子の着ていた着物から心に声が聞こえてきた
「ありがとう、やっと私の夢が叶ったわ、
本当にありがとう」　
白い手は消えていた。

舞台の反対側の裾に大道具の親方が涙ぐんで
立っていた。

親方：
須磨子おばさん、おめでとうやっとおばさん
の願いが叶ったね。
でも人生ってのは不思議なもんだね、
須磨子おばさんとの結婚が叶わなかった恋人
の孫娘がおばさんの果たせなかった舞台を実
現させてくれるなんてね。
天国から見てるかい？本当におめでとう！