エピソード75 じゃんじゃん火
75じゃんじゃん火
じゃんじゃん火は、奈良県各地に伝わる怪火。
鬼火の一種とされる。
宮崎県ではむさ火、高知県ではけち火ともいわれる。
「じゃんじゃん」と音を立てることが名の由来。
心中した者や武将などの死者の霊が火の玉に姿を変え
たものとする伝承が多い。
奈良市では二つの寺の墓地から出現する2つの火の玉
が、夫婦川で落ち合い、もつれ合い、やがてもとの墓
地へ帰って行く。
人がこの火を見ていると、その人のもとへ近寄ってく
るとされ、じゃんじゃん火に追いかけられた者が池の
中に逃げ込んだものの、火は池の上まで追って来たと
いう話もある。
正体は心中した男女であり、死後は別々の寺に葬られ
たことから、火の玉となって落ち合っているものと伝
えられている。
75じゃんじゃん火 オリジナルストーリー
ここは奈良のとある村、長者の屋敷に数人の者が呼ば
れて集まっていた。
長者:
みなさん、今日お集まりいただいたのは頼み事がござ
いまして。
みなさんも噂は聞いているかと思いますが、近ごろ大
川の橋の辺りに火の玉が二つ飛んできて、
ジャンジャンと音をたてて人々を怖がらせておるので
す。そこでみなさんにこの火の玉をなんとかして欲し
いのです、いかがでしょうか?
浪人:
おうおう、そんなことならこの俺がその噂のジャンジ
ャン火を退治してやろうじゃねえか、俺にかかれば火
の玉など切り刻んであっという間だ、ハハハハハ。
そう言うと浪人は大川の橋の上に向かった。
日が沈み橋の上で浪人が周りを見回していると、山寺
の方から赤い火が、小沼寺の方から青い火が上がり徐
々に橋に向かって近づいてきた。
橋近づくにつれてどんどん二つの火は炎の勢いが増し
てきた。
そして橋の上に差し掛かるとジャンジャンと音をたて
て踊るようにぐるぐる回り始めた。
浪人:
こ、この野郎!俺を驚かせようとしたってダメだぞ。
そ、そんなことじゃ俺は負けやしねえ、覚悟しろ。
浪人は刀を抜いて身構えた。
すると赤い火は大熊に、青い火は大蛇のような形とな
って浪人を追いかけてきた。
浪人は奇声を上げると刀を投げ捨てあわてて大川に飛
び込んだ。
浪人がやっとのことで大川の岸にたどり着くと、二つ
の火はもと来た寺の方に帰って行くところであった。
次の夕暮れ、昨日の長者の屋敷に来ていた旅の僧が大
川の橋の上に立っていた。
そして僧は橋の真ん中に護摩祈祷の小さな祭壇を作っ
ていた。
昨日と同じ時刻になると、また同じように山寺の方か
ら赤い火が、小沼寺の方から青い火が上がり徐々に橋
に向かって近づいてきた。
そしてまた同じように橋近づくにつれてどんどん二つ
の火は炎の勢いが増して、橋の上に差し掛かるとジャ
ンジャンと音をたてて踊るようにぐるぐる回り始めた
赤と青の火は僧の周りをぐるぐる回ると、時々炎を大
きくして僧を脅してきた。
僧:
そなたたちもそんなに荒ぶるな。
山寺と小沼寺にうかがいそなたたちが火の玉になった
いきさつは聞いてきた。
二人は両家に反対され夫婦になれずこの大川から身投
げし心中したのに、憎しみあった両家は二人をそれぞ
れの檀家の山寺と小沼寺に埋葬してしまった。
これに納得出来ない二人は火の玉となりこの橋で落ち
合うようになったと。
そこでどうじゃ、私も坊主のはしくれ。
私が用意したこの護摩祭壇で一緒になり成仏せぬか?
私も精一杯お経を唱えさせていただく、どうだろう?
僧の言葉にさとされたのか二つの火は護摩の木に燃え
移り、僧の念仏に合わせて紫色の炎となって人の背丈
の二倍ほどに燃え上がり、そして弾けて消えた。
僧はお経を読み終えると深く頭を下げた後、
天を見上げて微笑んだ。
次の日、この僧は長者の屋敷に来ており、昨晩の出来
事を話し二つの火は成仏したことを伝えた。
長者:
ありがとうございます。これで村の者達も安心し大川
の橋を渡れるでしょう。
......え、なんですと?何かしらの見返りが欲しいと
申されるか?
私はお願いしただけ、何の褒美の約束もしておりませ
んよ。
それどころか大川の橋を焼焦がした不始末、何かしら
の弁償をしていただかないとなりませんな。
みすぼらしい坊主殿。
長者の屋敷から火の手が上がった。
その屋敷からあの僧が出てきた。
僧の顔は冷たい笑みを浮かべており、僧の持つ錫杖の
上に巻きつけられていた昨晩の護摩壇の炭の切れ端か
ら煙が立ち上っていた。