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エピソード52 桂男
52 桂男
桂男は江戸時代の奇談集「絵本百物語」にも描かれて
おり「月の中に隅あり。俗に桂男という。久しく見る
時は、手を出して見る物を招く。
招かるる者、命ちぢまるといい伝う。」などとあり、
「見るたびに 延びぬ年こそ うたてけり 人のいのち
を月はかかねど」という歌があるとして紹介している
和歌山県の桂男の伝承では。
満月ではないときに月を長く見ていると、桂男に招か
れて命を落とすことにもなりかねないという。
桂男は月の兎と同様に、もとはインドの説話が中国を
経て伝わったものだともいわれるが、日本神話では月
の神である月読が保食神(うけもちのかみ)を殺害し
たといわれることから、月の神に死のイメージが伴っ
ている。
桂男に招かれて寿命が縮まるという説は、そのような
伝説・神話が重なって付与されたのではないかと考え
られている。
52 桂男 オリジナルストーリー
中秋の名月を二人の男、満(みつる)と望(のぞむ)
が眺めながら酒を飲んでいた。
満:
それにしても今夜の月は本当にきれいだな~望。
吸い込まれそうだ。
望:
そうだな~満。
ところでお前、聞いたことあるか?
あの月には桂男という妖怪が住んでいるらしい。
そして、たまにこっちから見ている人間に手招きする
らしいんだ。
それで手招きされた人間は魂を命を吸い取られてしま
い、見入っていると死んでしまうという話だ。
満:
いやいや、俺の髪の毛はちゃんと地肌から生えている
けっして何かかぶってたりしてないぞ!
そう言って望を見ると、望は月を見ながらボーっと立
ち上がった。
そして目の焦点も定まらない顔でずっと空を見上げて
いる。
満も望の目線の先の月を見ると、月の模様がふにゃふ
にゃ動いて男の形になり、その男がニコリとほほ笑ん
でこちらに向かって手招きしてきた。
望の顔は痩せこけてきて髪の毛も白髪になってきた。
しかし、満は顔こそ痩せこけてきたが髪の毛は黒々と
したままだった。
月に映る妖怪は満を見るとさっきまでのほほ笑みをや
めて、満をにらみつけ両手で力強く手招きしていた
気絶しそうになった満の髪の毛が頭からヅレ落ちた!
ツルツルの頭が出て鏡のように月を照らし出した。
妖怪がその頭を見つめると急に唸り声を挙げた霧のよ
うに消えて行った。
満、望、二人とも我に返った
満:
大丈夫か望?
よかったあのまま命を吸い取られお前は死んでしまう
かと思ったよ。 よかった~。
望:
助かったよ満。
きっとお前の頭に映った自分に桂男は精気を取られ、
自分で自分を呪い倒したんだろう。
ところで、話は変わるが満お前その頭はいつから...
満はあわてて髪の毛を拾い上げ頭にかぶせた
満:
なにを言っているんだ?俺たちは酒に酔って幻を見て
いたんだよ!そうだ、そうに違いない。
二人はそれ以上髪の毛の話題には触れず、月が沈む
まで酒を飲み続けた。
満の秘密を知るのは望とあの晩の月だけだった。...
...って次の日、望がみんなにバラしとるわ!