エピソード92 ねぶとり
92ねぶとり
寝肥、寝惚堕(ねぶとり)は、江戸時代の奇談集
「絵本百物語」にある日本の妖怪の一種。
妖怪というよりは一種の病であったり、戒めであると
言った方が妥当。
「絵本百物語」の挿絵中にある文章によれば、夜に女
性が寝床につくと部屋に入りきらなくなるほどの巨体
となり、大きないびきをかいて寝るものを、寝肥とい
うとある。
また、「絵本百物語」の本文によれば、寝肥は女性の
病気の一つであり、寝坊を戒めた言葉ともされる。
奥州で寝肥となった女性が、家に布団が10枚あるとこ
ろをその女性は7枚、夫は3枚使って寝ていたという。
92ねぶとり オリジナルストーリー
三日月の下、桜の花びらが舞っている。
ここは陰陽師・安部暗明の屋敷である。
春雅:
実に美しい、そしてとても不思議に感じるのだ。
夕刻よりこの屋敷に来ていた笛の名手源春雅は
すのこの上に座して暗明と酒を飲んでいる。
暗明:
何を不思議に感じる。
春雅:
桜の花びらが散り、若葉が出て青葉になり、
それも枯れて落ち葉となって、雪が降り、
また桜の花が咲く。
これらを見ていると目には見えない時の流れを見てい
るように感じるんだ。
暗明:
すごいぞ春雅、お前が言っていることは陰陽道や仏法
の説くところと同じだ、それをお前はさらっと言った
のだ。
春雅:
やめだ、やめだ、またお前は話をややこしくしそうだ
ところで暗明、藤原道草殿の娘・玉子殿の話は聞いて
おるか?
暗明:
ああ、今晩私の所にその件で道草殿から迎えが来るこ
とになっている。
三月ほど前、藤原道草は新しく手に入れた土地に屋敷
を建て、そこに引っ越してきた。きちんとお祓いもし
た土地、特に何の怪異もおこらなかったが、ただこの
一月前から
道草の娘・玉子の体にじょじょに異変がおきはじめた
背も低く細身であった玉子がこの一月前からから毎日
毎日どんどんどんどん太ってきたのである。
今では自分では体を支えきれず、ずっと寝たまま。
食事を減らしているのにどんどん太ってしまい、自分
の部屋からもはみ出てしまうほどである。
暗明:
それで道草殿より私の所に何とかして欲しいと文が届
いたのだ。
春雅:
暗明、お前にはこの怪異がなぜおこったのかわかるの
か?
暗明:
ああ、ご先祖様の「陰陽師」の話読み込んでいるから
大体察しがつく。
どうだ春雅一緒に行かないか。
春雅:
俺も行ってもいいのか?
暗明:
問題あるまい、ゆこう。
春雅:
ゆこう。
そういうことになった。
暗明と春雅は玉子の部屋に来ており、玉子は弱々しく
寝息をたて横になっている。
暗明は用意したお札を玉子のおでこに貼った。
お札には「蛇」と書いてある。
暗明は右手の指をを口に当てると何やら呪文のような
ものを唱えた。
すると不思議、玉子は小さくなってゆき、あれよあれ
よという間に元の可愛らしい玉子の姿に戻っていた。
暗明:
道草様、どなたかに玉子殿が寝ていらっしゃたあたり
の床下を2尺ほど掘っていただけませんか?
道草は早速 家の者たちを床下に潜らせ玉子の寝てい
たあたりの土を掘った。
家の者:
道草様!土の中から変なものが出てきました。
こうして家の者たちが床下から持ってきたのは1尺は
あろうかというガマガエルの干からびたミイラだった
暗明:
たぶん、この家を建てた時この家の下に小さな沼があ
ってガマガエルが冬眠していたのでしょう、そして出
られないほどに埋められ死んでしまったガマガエルは
冬眠から目覚めて何でも捕らえて食らってしまう、
しかし死んだ身です食らっても食らっても腹が満たさ
れない。すべて幻想の世界、ただしその思いだけが
玉子殿に乗り移りどんどんその思いを受けて太ってし
まったのでしょう。
ガマガエルでも長い年月を生きるとこんな霊力を持つ
ことがあります。
道草様、このガマガエルを丁重に弔ってください。
暗明と春雅は道草家からの帰りの牛車の中にあった。
春雅:
暗明あれで大丈夫なのか?
暗明:
ああ、ご先祖様の「陰陽師」ではいつもこんな感じだ
ったはずだから大丈夫だ。
それより春雅帰って飲みなおそう。
平安京から見上げた空には三日月があり、
その下を桜の花びらが舞っていた。
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