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エピソード79 たんころりん
79たんころりん
タンコロリンは宮城県仙台市に伝わる柿の木の妖怪。
老いた柿の木が化けた妖怪で、柿の実を採らずに放置
しておくと現れるという。
姿は僧侶のような姿で、柿の精霊の化身という説もあ
る。
ある言い伝えでは、沢山の実がなった柿の木のある家
から夕暮れ時にタンコロリンが現れ、服の袂の中に柿
の実を大量に入れて町の中を歩きつつ、柿の種を撒き
散らすために実をポトポトと落として行き、町を一回
りした末に、もとの家の前で姿を消したという。
79たんころりん オリジナルストーリー
ここは昭和初めの頃の東北の片田舎の町である、正太
は近所の空地で空を見上げため息をついた。
正太:
あぁ~明日はクリスマス・イブか~、いいよな~金持
ちの奴らは明日クリスマスケーキって言うのを食べる
って言ってた。
俺んち貧乏だし、たぶん父ちゃんも母ちゃんもクリス
マスってものさえ知らないよな~。
いいな~
ぼんやり空を眺めている正太の横を同級生のいじめ
っ子・長介が通りかかり正太に声をかけてきた。
長介:
お、正太じゃねえか。なに空を見てぼーっとしてんだ
よ。おおかた貧乏な僕の家にサンタさんケーキ持って
きてくださいとでもお願いしてたんだろう。
ダメだ、ダメだ。サンタさんは金持ちでいい子にして
いる僕の様な子供の家にしか来ないんだよ!お前の家
なんか絶対来るもんか。ハハハハハ。
長介は笑いながら行ってしまった。
正太:
コノヤロー! 正太は長介に向けて小石を蹴ったが、
ぜんぜん違う方向に飛んで行ってしまった。
正太:
頭にくるけど、本当の事だよな...。
正太は肩を落とした。
またしばらく正太が空を見上げていると、どこから
ともなく何かが落ちる音が聞こえた、しかもそれが
だんだんと近づいてきた。
みると2mはあろうかという大男が袖から柿をいく
つも、いくつも落としている。なぜか正太は怖がら
ずに落とした柿を拾って大男に差し出した。
正太:
ねえねえおじさん、柿こんなに落としましたよ。
大きくて美味しそうな柿なのにもったいないですよ
大男:
おぉ坊主ありがとうな。
うっかり落としてしまった。
ん...ところで坊主は何か困っているのか?
ワシでよければ聞いてやるぞ。
正太:
おじさんありがとう。でもおじさんに相談してもな
大男:
そう言わず話すだけでも話してみろ。
大男は強面の顔をすこしにこやかにして聞いてきた
正太:
そうだね、聞いてもらえば少し気持ちも楽になるか
もね。
じつは俺一度でいいからクリスマスケーキってもの
を食べてみたいんだ。
おじさん食べたことある?
大男:
なんだそれは?西洋の菓子か?どんなもんなんだ?
正太:
友達から聞いた話なんだけどふかふかのパンみたい
な生地の上に甘ーい白いものがいっ~ぱいのってい
るんだよ。
俺も見てないからハッキリとはわからないんだ。
大男:
よし、わかった。
色形はそのままとはいかないが、甘ーくてほっぺた
の落っこちそうなお菓子を用意してやる。
明日の晩楽しみに待っていろ。
男はいつの間にか消えていた。
次の日の夕方、正太は昨日と同じ近所の空地で約束
した大男を待っていた。
日も落ちて、大男はもう来ないのかなと思って帰ろ
うとすると...。
暗闇の中遠くから赤い着物を着た大男が
ノッシノッシと歩いてきた。
大男は手に大きな木箱を持っていた。
大男:
待たせたな。ワシもそんなに器用ではないのでな。
それに今日は赤い着物じゃないとダメだと聞いたの
だが、このカッコだと明るいと少し恥ずかしいから
な。
正太:
わぁ、約束通り本当に来てくれたんだね。
ありがとう。
それにこんなに大きな箱、お願い見せて見せて!
大男は木箱を置いて、木箱の蓋を取った。
中に入っていたのは大きなどら焼きの上に甘ーい柿
の実ペーストが塗られており、さらにその上に干し
柿がトッピングされていた。
正太:
え、思っていたのと違うけど、
でもすごくおいしそうだ。
本当に俺にくれるのかい?
すごくうれしいよ、ありがとう。
大男は強面の顔だが精一杯の笑顔になった。
正太はあらためてお菓子を見ているうちに、大男は
来た闇の中に歩いて行ってしまった。
正太はもう一度お礼を言おうとお慌てて大男を追い
かけた。
正太が追いつく前に大男は闇の中に消えてしまった
正太はがっかりしてトボトボそのまま進んで行った
すると...目の前にあったのは月明かりに照らされ
た柿をたわわに実らせた大きな柿の木!
正太の大好きだったおじいちゃんが大事にしていた
柿の木だった。
正太:
じいちゃん......。