エピソード54 隠れ里
54 隠れ里
隠れ里(かくれざと)とは日本の民話、伝説にみられ
る一種の仙郷で、山奥や洞窟を抜けた先などにあると
考えられた。「隠れ世」などの呼称もある。
猟師が深い山中に迷い込み、偶然たどり着いたとか、
山中で機織りや米をつく音が聞こえた、川上から箸や
お椀が流れ着いたなどという話が見られる。
外部からの訪問者は親切な歓待を受けて心地よい日々
を過ごすが、もう一度訪ねようと思っても、二度と訪
ねることはできないとされる。
こういった伝承の背景には平家の落人が隠れ住んだと
される集落の存在が挙げられ、実際に平家谷、平家の
隠れ里と伝えられる集落が存在している。
また、仏教の浄土思想渡来以前の、素朴な山岳信仰、
理想郷の観念が影響していると推測できる。
隠れ里は奥深い山中や塚穴の中、また川のはるか上
流や淵の底にあると想像されている別天地である。
隠田百姓村(おんでんひゃくしょうむら)とも言われ
るが、隠れ里は何の憂いもなく平和な世界であり、
しかも人間の世界とは違う時の流れがある。
普通の人はそこに行けないが、善良な者にはその世界
を垣間見る機会が与えられることがある。
いずれにせよ庶民の求める理想郷への思いが込められ
ている。
54 隠れ里 オリジナルストーリー
ここは岩手の山の中、
猟師の長治郎は鹿を追って山の奥深くに来ていた。
鹿は森の奥の岩場の所に長治郎に追いつめれ、こちら
を見つめていた。
長治郎が弓に矢をつがえ鹿に向け矢を放とうとした時
横から別の鹿が飛び出してきて長治郎に体当たりをし
た。
鹿に不意を突かれた長治郎は鹿とともに谷底に落ちて
いった。
どれくらいたったであろう?長治郎は女の声に呼ばれ
目を覚ました。
霧:
大丈夫ですか?しっかりしてください大丈夫ですか?
長治郎:
はい、大丈夫です。 あなたは?
霧:
私は霧と申します。
とりあえず左足をケガしてらっしゃるようです、一緒
にこの先の私の里にまいりましょう、手当しないと。
こうして長治郎は霧と山の中の里に行き、足の手当て
をした。里の人々はあたたかく長治郎を迎えてくれ、
薬や食べ物を持って来てくれた。
長治郎:
霧さん本当にありがとう。
あのまま倒れていたら私は死んでいたかもしれない、
あなたに命を救われた思いだ。
ところで霧さん、変なことを一つ聞いていいか?
実はあなたが余りにも10年前に亡くなった妻にそっ
くりなんだ。
霧:
あら、そんなに似ていますか? 世の中には似ている
人が二人いるって言いますから、私はそのうちの一人
なんでしょうか、 フフフ。
一月が過ぎ長治郎の足も治ったが、この里の居ごごち
も良く、そして何より霧と一緒にいることに幸せを感
じこのままこの里で暮らすことにしていた。
そして数年が過ぎた。
ある日の夕方、長次郎は里の長老からけして入っては
ならないと言われていた蔵に興味本位で入ってしまっ
た。そして蔵の中の棚のある本が目に入った。
それは10年前のある村が戦乱に巻き込まれた事、
そしてその村に住む菊という女が夫をかばい矢を受け
亡くなったこと、、、、、
そしてこの里に蘇ったことが書かれていた。
霧:
見てしまったのですね。
そう私はあなたの妻の菊です。
知られてしまってはしょうがない、もうお別れです。
これは里を守るためのおきてなのです。
長次郎さん、わずかな時間でしたが私は幸せでした。
これで私も悔いなく本当のあちらの世界に行くことが
出来ます。
ありがとう。
そう言うと霧は鈴を三度鳴らし、長治郎に持たせた。
長治郎は鈴の音を聞きながら気を失った......
長治郎が気が付くと谷底の滝の近くに倒れていた。
そして、すぐ横には長治郎と一緒に落ちたと思った
鹿が立っていた。
長治郎が立ち上がると、ついてこいというように首
を横に振った。
長治郎は鹿にいざなわれるまま山の出口まで来た。
長治郎:
ありがとう。
ふりかえったがもうあの鹿の姿は消えていた。
長治郎の右手には鈴が握りしめられていた。
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