エピソード11 輪入道
11 輪入道(わにゅうどう)
妖怪絵師、鳥山石燕(とりやませきえん)は、
炎に包まれた牛車の車輪の中央に男の顔が付いた姿
を描いており、輪入道は都の大通りを走り抜ける時、
自分の姿を見た者の魂を抜いていくという
恐ろしい妖怪です。
見ただけで命を落すこの妖怪を避ける方法として
「此所勝母の里(ここはしょうぼのさと)」
と書いた紙を呪符(じゅふ)として家の戸に貼ると、
輪入道が近づくことができないと言われています。
これは、中国の儒家の始祖・孔子の弟子である
曾子(そうし)が「母に勝つ」の名を嫌って
勝母の里に足を踏み入れなかったという
逸話が由来とされています。
石燕による輪入道は「諸国百物語」に載っている、
京都や滋賀県に現れたという片輪車(かたわぐるま)
をモチーフに創られたのではないかと
いわれています。
片輪車は、炎に包まれた片輪の車輪で走り回り、
子供をさらっていく妖怪です。
輪入道は男性、片輪車は女性という違いが
ありますが、外見はとてもよく似ています。
11輪入道 オリジナルストーリー
佐吉は数日前に妻のゆうに先立たれ、
猫の玉と一人と一匹とで長屋に暮らしていた。
佐吉:
おいで玉、この家もお前と二人
...さびしくなっちまったな...
ニャー
佐吉:
大きなあきんどに嫁いでいった娘にも、
「おとっつあん一緒に暮らさないかい」
と言われているが、
俺にはあのお屋敷は身分不相応ってもんだ。
玉、お前と二人、暮らしていこうな...
ニャー
佐吉:
ところで先日のゆうの葬式との時、
お寺の和尚さんが気になることを言ってたんだよ、
和尚:
じつわな佐吉、このところ夜になると火のついた
大きな輪っかに恐ろしい男の顔がついた
「輪入道」とかいう妖怪が町の中を走り回っていて、
にらまれて目が合うと死んでしまうらしいのじゃ。
お前も気をつけるんじゃぞ。
佐吉:
リングの貞子か...
...それじゃあ何かいいお守りでもありませんか、
和尚さま。
和尚:
うむ、
じつわなこの「輪入道」によく効くというお札
を教えてもらったんじゃ、
これを家の前に貼れば妖怪も近寄ってこないらしい
どれ、お前ににもそのお札を書いてあげよう。
佐吉はさっそく家に帰ると家の戸口にお札を貼った。
あとは夜、外に出ないようにすれば大丈夫
...玉さえ出歩かなければ...
しかし、
この時期さかりのついた猫を家の中に閉じ込めて
おくのは至難の業、やはり予想通り、
玉は夜中に抜け出した。
佐吉:
玉、 玉、 やっぱり外に出てしまったか。
今晩あたりは嫌な予感がするから外に出たくはない
のだが、しかたあるまい
いまや俺の唯一の家族だ、探しに行こう!
そうだゆうの形見の品だがこれをお守り代わりに
もって行こう。
佐吉は家のまわりや長屋中を探した後、
大通りでやっと玉を見つけた。
佐吉:
玉、やっと見つけたぞ! さあ家に帰ろう...
玉が佐吉のもとに歩いて来た時、
通りの前の方から何やらすごい速さで燃える
車輪のようなものが近づいて来るのがわかった
佐吉:
あ~これが和尚さまの言っていた「輪入道」か!
目が合ったら死んでしまうんだった!
和尚さま、ゆう、俺たちを守ってくれ~
佐吉は玉を抱きしめ懐にしまっていた鏡を
せまってくる輪入道に向けてうずくまった!
輪入道は佐吉の目の前に迫ってきたが、
いよいよ目の前に来ると大きな叫び声をあげると
静かになった。
佐吉:
まさか本当にうまく行くとは、
昔聞いたことがあるんだ、ギリシャって所の
蛇の妖怪を鏡を使ってやっつけたって。
よかったな、玉~。
その後石になった輪入道は色々なところを渡り歩き、
今は鳥取県の水木しげるロードに
いるとか、いないとか。