歴史研究者によるYouTube配信についての覚え書き

普段交流のある沖縄の若手歴史研究者が、YouTube配信を利用してドラマ「テンペスト」について語り合うという企画を行っている。私もチャット機能を利用しリアルタイムでコメントを入れながら参加した。 この配信を視聴するなかで、チャットにてリアルタイムに参加する視聴者も企画「進行者」の一員であるということを痛感した。内容がなんであれ、YouTube配信そのものが紛れもない「エンターテイメント」であることを忘れてはならないと感じたのだ。
http://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/90000/436319.html

視聴者からのコメントに目をくれないというコンセプトならともかく、コメントをもとに視聴者と「対話」することを求める開催である場合、発せられたコメントは主催者の進行に大きく影響を与えることになる。同時に、コメントをする視聴者同士もそれぞれの言動に配慮するようになり、進行者と一体化しての進行を意識するようになる。こうした様子は、後日アーカイブとなった際に、アーカイブ視聴者によって一連の「エンターテイメント」として視聴されることになる。この点は、進行者はもちろん、リアルタイムでコメントを入れる視聴者も心得ておかねばならないだろう。

また、本企画は「歴史研究者が」歴史ドラマである「テンペスト」について語り合うという企画である。したがって、内容としては必然的にドラマの設定や内容に「ツッコミ」が入ることになる。そして時には、史実なのか否かについての「考証」が行われることになる。「歴史学者が」主体となっている企画ということで、これらの点はもはや「予定調和」、視聴者の側も当然それを期待して本企画を視聴するのであろう。なので、劇中所作や唄い方やジェンダーなどの点に触れても良いとは思うが、むしろこうした論点から「歴史」に引き付けた話を展開しようとする方が良いであろう。 どうしても言及する必要があるのであれば、チャットでコメントを発している視聴者に事前に民俗学者や演劇研究者を招いておけば良いのである。

本企画を通して最も気を付けねばならないこととして学んだのは、歴史を考証していくのは良いが、ドラマの設定や内容が史実に合わないため「間違っている」と指摘してはいけないということである。「間違っている」がための批判も行ってはならない。なぜならこれをやることで、ドラマそれ自体の、さらに言えば「エンターテイメント」そのものに対する批判になってしまうからである。

歴史研究者が行うべきは、こうした「エンターテイメント」批判ではなく、あくまで設定や内容に関する考証や解説である。作品が持つエンターテイメント性を前提にしつつ、設定や場面に言及する際に「ドラマではこう描かれているが、史実はもっと…なんだ。多分この場面は~という想定でこう描いたんだろうけど、史実はもっと奇なりで実はーなんですよ。」といったように、一旦ドラマの設定や場面に乗っかったうえで、それを敷衍させつつ史実について言及していくというやり方を取るべきなのであろう。これはもはや進行のしかたや、言ってしまえば「話術」のレベルのはなしとなってくるが、あんがい歴史研究者側でその辺を十分に認識しておかないと、歴史研究者ではない視聴者の反感を買うこととなるのだろう。従来の「テンペスト批判」はこの辺が留意されて来なかったのである。歴史を映像化するという「洒落」を、歴史研究者は理解すべきなのだろう。

コロナ禍で一般化したZOOMやYouTubeを用いての学術交流は、隔たった地域同士の距離を越えた交流が可能となっただけではなく、従来ままならなかった研究者と研究者以外の人々との交流の垣根をも越えつつある。そうした意味で、本企画のような歴史研究者から「エンターテイメント」を介して一般に歩み寄ろうという試みは、重要であるということを越えて、もはや時代の要請であるといっても過言ではないだろう。 このような企画を行うことの必要性はもはや問うまでもない。あとは、YouTube配信という「エンターテイメント」を研究者たちがどのように使いこなしていくかだけである。 誤った歴史認識を「正す」ためには、「間違い」を端的に指摘してはいけない。そうではなくて、「エンターテイメント」という「洒落」を歴史研究者側が理解し、そこで扱われた内容に乗じ、その内容の意義を拡大させながら解説していく過程のなかで、さりげなく、かつ強調しつつ史実を織り込んで行くべきなのであろう。

困難なように聞こえはするが、こうした試みが一般化してくることで、「若手」たちはこの手法に次第に順応していくことだろう。そして気がついた時には、(歴史)研究者とそれ以外の人々との学術認識はそう大差のないものになっているかもしれない。 楽観的なのかもしれないが、本企画のようなものを目の当たりにしているとそんな期待をせずにはいられないのだ。

ご興味のある方は是非ご視聴ください。⇒【WEB沖縄歴史講座】「テンペスト」放送直後に若手歴史研究者がドラマの感想をダラダラと話すだけの配信①
https://www.youtube.com/watch?v=4g-u1_ppiqk

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