112.(56/365) 芸術の森へ。
昨日は、一日学校に行く予定だった。
というのも、3学期に取り組んできた「作家の時間」の出版に向けた印刷をするためだ。
しかし、金曜日に提出締め切りにしていた原稿がついにそろわず、催促のメッセージにも反応がないので(きっと見てない)、昨日の作業は断念せざるを得なかった。
思いがけず空白になった土曜の予定。
窓から外を見ると、天気がいい。
出かけたい欲がウズウズと自分の中でうごめき始めた。
妻に話をすると、「出かけよう」という話になり、「どこへ行こうか?」と考えることになった。
いつものようにgoogle mapを開いて、あてもなく地図をスクロールしていると、気になる場所を見つけた。
「室生山上公園芸術の森」
大好きな奈良にあるということもあり、即決定。
自宅からは車で1時間半弱といったところ。
日帰りの小旅行にはちょうどいい。
早速準備をして、お昼前に家を出た。
目的地へは、時間通りに到着した。
車を降りると、風が強く、一瞬来たことを後悔しそうになるぐらい寒かった。
そういえば、google mapで見た芸術の森の写真たちは、おそらく春から夏にかけてのものだったことを思い出す。
来る季節を間違えたと思った。
しかし、すぐに思い直す。
冬だからこそのよさもきっとある。
それにきっと来ている人が少ないはずだから、芸術の森を独り占めできる!
そう思いながら、受付へ進もうとして、入り口横の看板に目がいく。
「…令和5年2月28日(火)までは冬期休園とします。」
え…うそやろ…。
一瞬頭が真っ白になった。
でも、その横に、「ただし、土日祝日に限り、基本開園します。」の文字を見つけホッと胸をなでおろす。
受付で入園チケットを2枚買って中を進む。
カベにかかっていたパネルを見て、ここが世界的に有名な彫刻家ダニ・カラヴァン氏によってつくられたと知る。
建物を出て、短い坂道を上ると、一気に視界が開けた。
風が強かったこともあって、木々がざわざわと揺らめいていた。
それをじっと見ていると、まるで、細胞分裂を繰り返し、今まさに増殖してこちらに迫ってくるような迫力があって、しばし見入ってしまった。
木は確かに一本一本独立して木なのだけれど、全体を見ると、どうも見ても1つの生命としか言えないような存在感。
森の得体の知れない魅力に取り憑かれてしまったようだった。
静かで、あたりはぼくたちが出す音を吸い込んで無音にしてしまうような感じがあった。
木々は動かず、じっとそこにいるはずなのに、今にも何かが動き出しそうな、というか、見ているたった今も動いているけれど、その動きは捉えられないような不思議な感覚に襲われる。
木々の隙間からシシガミ様が出てきそう。
渦の通路を取り囲むように竹が植えられる。
ちょうど先日読んだ「間合い 生態学的現象学の探究」を思い出す。
流体同士の間合いのズレが渦を生む。
この渦の周りにはどんな流体がイメージされているのだろう。
竹が渦の螺旋のエネルギーで上へ上へ伸びていくように見えてくる。
曲線とその先の一本の木のバランスが美しくて、思わず妻に一枚撮ってもらった。
木からのエネルギーが流れ出して渦を描いているようにも、渦が生み出したエネルギーが木を育てているようにも見える。
いや、きっとどちらかではなくて、どちらもだ。
機械仕掛けでなくとも、大体の時刻を知ることはできる。
自然と人との共同作業で時間を見える化しているように思えた。
森の奥へ誘われているような拒まれているような、そのどちらとも取れる雰囲気がなんとも目が離せなかった。
説明によると、北緯34度32分の「太陽の道」を視覚化しているとのこと。
太陽が真上に来る正午ごろにきたら、道に落ちる影もまた違った形だったんだろうな。
また違う季節、違う時間帯に来てみたいと思った。
かなりの高さに足がすくむほどだった。
芸術の森が一望でき、また中が空洞になっていて、歩くたびに微かな振動を感じるのもこの場所自体を体感しているようで面白かった。
少し先は急な崖になっていた。
山や森への畏怖を喚起するような荒々しさを感じた。
芸術の森の1番奥にあったピラミッド型の四阿。
中は空洞になっていて音がかなり反響した。
瞑想に良さそうだなあと思っていたら、施設案内にそう書いてあった。
この建物の外観にずっと既視感を抱いていたのだけれど、ようやく思い出した。
映画「ミッドサマー」の中に登場する建物と似ているのだ。
でも、建物だけでなくて、この周囲の雰囲気もミッドサマーの映画全体から感じる雰囲気と似ているように感じた。
奇妙な、でもどこか惹かれてしまう、でも恐ろしいような、そんな感覚は、きっとぼくのミッドサマーを見た経験とも紐づいているんだろう。
寒かったこともあり、1時間半ほどで一周したのだが、季節が良くなったらまたゆっくり遊びに来て、今度は園内でご飯を食べてのんびりしてみたいなあと思った。
また1つ奈良に好きな場所が増えた。
奈良をまた好きになった。