見出し画像

かるがも団地『三ノ輪の三姉妹』

かるがも団地『三ノ輪の三姉妹』

観賞後の満足度がここ最近で一番だった。
小学生の感想文みたいだけど、「心に残ったこと」を記録してみる。

かるがも団地の持ち味とストーリーのこと

まず、かるがも団地の過去公演よりも広い空間での上演なので、団体としての歩みを感じて感慨深かった(古参でもなんでもないのに)。

序盤はアウェイでお客さんが乗り切らないかなと思う部分もあったけど、そんなことはお構いなしに愉快さを畳み掛け、積み上げていくことで、だんだんお客さんを巻き込んでくる。そうなったらもう強い。どんどん客席を味方につけて、時間とともにお客さんがこの物語の世界を愛せるようになってきてる実感がした。

家族の物語は、誰もにとって全くの他人事ではないから、受け手に自分の家庭のことを顧みさせるのが常套的なドラマツルギーになると思うんだけど、そこに押し付けは感じられず。

脚本で総じて良かったのは、物語に仕立てるためのドラマティカルな展開ではなく、市井の人たちの人生の悲喜こもごもが積み重なっていることだと思いました。これは今作に限らず、かるがも団地そのものに言えることかもしれませんが。

コミカルさと切実さ(ただしこれ見よがしではなく無理に聞かせる言葉を捩じ込む訳でもなく)の両面で、「よくあることだけれども当人たちにとっては一喜一憂してしまうこと」をひとつずつ織り成しているから、しっかり心に響いてくるのではないかと思いました。

(個人的に、最近お涙頂戴的にヒロインが病気で死ぬ系の漫画を読んで辟易していたのもある)

そもそも、人の人生なんて普通にしてたって紆余曲折で、想像だにしないことが起きるんだから、見せかけの事件とか山場とかを作ろうとしなくても生きていることに目を凝らして耳を傾ければそれは"劇"だと思う。

魅力的なキャスト陣

何と言ってもキャストが本当に魅力的。かるがも団地常連の顔ぶれの安定感たるや。

みなさん、演劇を心から楽しんでいるのが伝わってくる。楽しさよりいかに追い込むか、みたいなストイシズムも別の場所においては魅力的なことはあるんだけど、このピースフルな空間ではそこにいることを楽しんでいるかとか作品を愛しているかが一番物を言うのだと思う。

ぱちぱちでも大活躍の奧山樹生くんは、天性の器用さでメインのキャラクターもそれ以外の小ネタもしっかり面白くて、愛すべき存在。

岡本セキユさんも、持ち前の振り切った演技で美味しいところを掻っ攫う。すごくキャラクタリスティックなのに、セキユさんがやると説得力があるからすごい。

はぎわら水雨子さんの、包容力と言うと凡庸すぎるかもしれないんだけど、あの「人の親であるが故のしなやかな強さ」の滲むような佇まいが……MVPです。

個人的には、中島梓織さんがめちゃくちゃ良かった。私が持ってたご本人のイメージと結構遠くて、ぶっきらぼうで不器用なキャラクターに驚き。
でもすごく魅力的なキャラクターになるのはご本人のお人柄?

かるがも団地のお三方が出演されてた(声の出演含め)のもなんだか感慨深く。
藤田さんのお父さん姿が妙に似合ってて素敵。そんなお父さんが実は……というのも個人的には萌える。設定としてね! 実在するああいう人への評価じゃないです。

その他、印象深い要素

ラストシーンの前のわいわいしてるところが可愛い。この雰囲気を好ましく思えるのは物語が積み上がってきたから。

場面転換も印象的でした。音楽が意外にかっこよくてメリハリがついててダレないし、ブル転が綺麗に見える。

あと、舞台美術も良かった。具象と抽象の塩梅がちょうどよくて、心地よく観られました。

最後に

もっといろいろ素敵なところはいっぱいあったんだけど、きっとそういうのは今後ふと思い出すんだと思う。ふと思い出すときにこそ、またこの作品を観た意味が醸成されるんだと思う。そのために演劇を観ている。記憶の宝物集め。この作品はきっとそのひとつになる。

演劇が好きです。観て、考えて、書いて、読んでもらう。演劇はその場で消えてなくなってしまうけど、私たちが何度も思い出すことで永遠になるなんて、素敵だと思いませんか。 いただいたサポートは、演劇ソムリエとして生きて行くために使わせていただきます。