バックパッカー旅 ジョージア編 vol.3
数日バトゥミで過ごした後、長距離バスで首都のトビリシまで移動した。バトゥミはもっと長く滞在できる町ではあったが、トビリシでは知人の知人に会う予定があり、その人がもうすぐ日本に帰国するので急いで出る必要があった。
バトゥミとは異なり、地理的に内陸部にあるトビリシは比較的湿度が低く快適な気候だった。紹介いただいた方と会う場所へは宿から歩いて30分ほどかかる。快適ではあるものの、さすがに長距離を歩くには辛い暑さなので、電動キックボードを借りて向かうことにした。
付属されているQRコードをスマホで読み取り、電動キックボードを起動させて走らせる。乾いた風が心地よく肌を過ぎていく。しかし突如、機体ががたがたと大きく振動し始めた。よくみると道路がレンガで舗装されており、それらの隙間が大きいため滑らかに走行ができなくなっていた。揺れるたびに視界が大きくぐらつく。全ての道路がそのような舗装ではないので、なるべく走行しやすい道を選んで目的地へと向かった。
僕らはレストランで合流した。紹介いただいた方はあやかさんという方で、恋人のゆうたさんを連れていた。2人ともジョージアには1年ほど住んでいる。
まずはビールで乾杯をした。僕はバックパッカーをしている人ということで紹介されているので、旅の動機だったり今後の大まかなルート、現在の心境などについて話した。あやかさんとゆうたさんも、学生団体活動の一環で海外に出たり、個人でバックパッカーをしていたので、旅人がよく陥るであろう心境について共感しながら話していた。
テーブルにはシュクメルリ、オーストリなどの郷土料理が並び、僕らはワインと一緒に愉しんでいた。
「実はもう僕、日本に帰りたいんですよね」と赤裸々な気持ちを吐露すると、「私もずっとそう思いながら旅をしていたよ」と語っていた。
旅に対するモチベーションは人それぞれだが、同じベクトルの感情を抱きながら旅をしていた人に初めて出会えた。場所や人に対する好奇心、ホームシック、知人・自身に対する意地、これらの感情が同居しながら僕は旅をしている。
2軒目はローカルな立ち飲み屋に連れて行ってくれた。プラスチックのコップに注がれたビールで乾杯をした。外だが日陰なのでちょうど汗ばまない程度の気温だ。ここでは現地の人が入れ替わり立ち替わり店に寄ってはお酒を飲み、別の場所に移動していた。すでに酔いが回っていたせいか、気づいたら現地の人と言葉を交わすようになっていた。ジョージアではグルジア語かロシア語が話されるが、僕らは話せないのでGoogle翻訳を使って会話をしていた。
途中、1人の老人が他の3人組を指差しながら「彼らはユダヤ人だから僕は彼らと仲良くできない」という話をしていた。今までの旅でいくつかの小さな差別を見てきたが、ここまで大きな拒絶を目の当たりにしたのは初めてだ。
しかし僕らはかなり飲んでいたので、まともに取り合うことができない。一方的に嫌がっている中、無理やり乾杯させたら普通に会話をし始めていた。
当時の本心では彼は嫌がっていたかもしれない。しかし面と向かって差別の感情を表に出せる人は一体どれくらいいるのだろうか。距離があるから、顔を突き合わせていないから、生まれてしまう差別の方が多いような気がした。
あやかさんとゆうたさんは今日の夜のフライトで日本へ帰国する。荷物が家にあるので、僕もついていくことにした。
家具・家電などがマンションに付属しており、日本の都内で暮らすには十分すぎる広さと清潔感があった。
日本には持っていくことのできないお酒や食材が余っていたので、僕にそれらを振る舞ってくれた。フライトの2時間前まで僕らは飲んでいたのだが、何を話していたのか記憶がない。
翌朝起きると、帰路で転んだであろう腰の痛みを感じる。携帯を見ると「財布をジョージアで無くした」という連絡があやかさんから来ていた。