バックパッカー旅 ジョージア編 vol.1
トルコとジョージアの国境に着いた時は昼だった。バスを降りると、国境を跨いだ人を迎えるためのタクシーやバスで道が埋め尽くされている。
イミグレーションを行うための、それだけにしては大きい気もする建物に入っていく。国境付近は両国にとっても田舎なはずだが、建物自体は新しく清潔感があった。スロープ状のエスカレーターを乗って2階へ上がり、少し歩くとトルコから出国するための審査をするカウンターに辿り着く。カウンターは3つほどあり、それぞれ20人ほど並んでいたがすぐに出国手続きは済んだ。
少し歩くと今度はジョージアへの入国審査の列に並ぶ。2種類あるのだがどちらに並べば良いか分からず、困り果てていた。よく見ていると一方には人が少なかったが、同じような顔立ちの人が並んでいる。どうやら国籍がジョージアの人とそうでない人で、入国審査の内容が違うようだ。僕はもう一方の列に並んでみたが、問題なく入国することができた。
イミグレーション用の建物を出ると、やはり入国者向けのタクシーやバスが道路を埋め尽くしていた。近くの街、バトゥミへのバスに乗ろうか考えたが、昨日の夜から何も食べていないので、腹ごしらえをすることにした。
売店が何ヶ所かあるので、それぞれを見てみる。どれも似たような商品が売られていて、日本のキオスクに近い品揃えだ。トルコでは見なかった形状のパンがいくつか売られていたので、そのなかで直径にして15センチほどの円形のパンを購入した。
売店の前にある席に座り、1人で食べるには大きいパンを食べる。口にした瞬間、チーズの風味が口に広がる。味がないものと思っていたが、これなら難なく食べれそうだ。
席の側の地面には、誰かの食べかけのパンが放置されていた。鳩がそれを突いていたが、パンが硬いので食べれていない。結局諦めてどこかへ飛んでいってしまった。
パンを食べ終わったので、バスを探すことにした。
ジョージアのバスは日本のバスとは違い、マルシュートカと呼ばれるバンの形状をした車で移動をする。片道の金額は共通で2GELほどだ。日本円にすると100円もしない金額なので良心的な分、車内は古く、エアコンが搭載されていない。
国境付近への街、バトゥミ行きのバスは満員に近く、夏場というのもあって過酷な移動であった。日本人とは違い、ジョージア人はパーソナルスペースが狭い。どんなに暑くても肌が触れ合うほどに席を詰めてくる。
何か気を紛らわそうと思い、携帯を手に取るが、電波がないことに気がついた。自分が契約していたキャリアだと、ジョージアは対応していないのだ。困ったことに地図が使えないので、どこがバトゥミなのかも分からない。多くの乗客が降りたタイミングで僕も降りればきっとバトゥミだろうと考え、静かにその時を待つことにした。
トルコから再びヨーロッパに入ったのだが、それでも西に位置するヨーロッパとは大きく異なり、むしろトルコに近い雰囲気を感じる。しかし建物はトルコと比べても古いものが多く、町はずれだからか、寂れているように見える。スーパーマーケットのようなものはなく、八百屋のような露店がポツポツと並んでいた。
街に近づくと先ほどの雰囲気とは変わり、少しずつ都会の様相を示すようになってきた。海沿いの街なので別荘あるいはホテル用の高層ビルがならんでいる。スーパーマーケットや観光者向けのアミューズメント施設も揃っていた。
多くの乗客が降りたので、僕もバスを降りることにした。予測は当たっており、どうやらバトゥミの中心で降りることができたようだ。海の近くに宿があることは知っていたので、ひとまず海の方へ歩いていく。
道中にあったカフェでWi-Fiに接続し、別のeSIMをインストールした。これでジョージアでもネットが繋がる。地図を確認すると近くに宿があることがわかったので、チェックインすることにした。
建物と建物の間にある、暗い階段を登り、木製のドアを開けると宿に入ることができた。背の低いおばあちゃんが出迎えてくれる。片言の英語で宿の中を案内してくれた。男女別で部屋が設けられ、僕が案内された部屋は9人が入れるドミトリーだった。部屋の真ん中にシングルベッドが1台あり、それ以外は2段ベッドが4つある構成だ。エアコンはなく、2つの扇風機が強風で回っている。共有スペースはバルコニーを拡張したようなスペースになっていて、数人がくつろいでいた。トイレとバスルームはユニットバスの形状となっており、それが1つしかなかった。人数に対して1つしかないので、取り合いになるだろう。
一通りの説明が終わったので、自分に割り当てられたベッドで荷解きを行う。日没にはまだ少し時間があるので、外に出てみることにした。
海沿いに出ると、夕暮れ時にもかかわらずまだ海水浴を楽しんでいる人で賑わっていた。ビーチではあるが砂浜のような細かい砂ではなく、消しゴム程度の大きさの石で埋め尽くされていた。裸足で歩くには痛みが伴う。
ビーチは数kmにわたって続いており、テラスバーや遊園地にあるような小型のアトラクション、ゲームセンターやフットサルコートなど様々な娯楽が存在していた。
日が暮れてもなお、子供達が走り回って遊んでいる。もしかするとジョージアは日本よりも治安が良いのかもしれない。
次の日、目が覚めて、ベッドから起き上がる。寝ぼけ眼をこすっていると、それを見た女性が僕に話しかけてきた。どうやら彼女はこれからビーチへ行くらしく、一緒に行かないかと僕を誘っているらしい。
まだ一言も会話を交わしていない人をビーチに誘うのはジョージアの文化なのだろうか、日本にはない状況に戸惑いながらも、突如現れた偶然を見逃すのには気が引けた。
「もちろん、今から準備するよ」と僕は答えた。
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