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セメント質のランウェイ

苦しみの分だけ、美しくなる。
悲しみの分だけ、幸せになる。

そう、自分に言い聞かせた。
背筋を伸ばして、誰よりも美しく、このステージで主役を張るのはわたし。


薄らとファンデーションを頬に乗せて、伸ばし、隠していく。涙の跡も、努力の跡も。まるでまっさらな雪景色のように、全てをしっとりと覆い隠していく。陶器のように冷たく、大福のように甘い。私のキャンバス。誰のためでもない、私のための、白紙のキャンバス。

努力。
後悔。
悲しみ。

全部全部隠すように塗り重ねた美しいわたしの肌。
その上に私の色を描いていく。

誰のためでもない、私のための輝き。
私のための彩り。



鏡の中の私が微笑む。
まるでわたしの瞳に恋するように。



鏡の中の私と目が合う。
どこまでも深く、深く、吸い込まれるような深淵の黒。見つめれば見つめるほどに、瞳孔が開いて、見蕩れていく。見惚れていく。蕩けて溶けていくように、私はその瞳に、恋に落ちる。

落ちる。


おちる。


深淵に。



髪に熱を通す。
私の視線と同じくらい強く、絹のようにやわらかい。艶やかに艶やかに、輝いている漆黒のシルク。
燃えるようにあつく、弾むように軽やか。

シルクは踊る。
私の顔の周りを、美しく舞う。

優美に、舞う。




これは祝福だ。





私が私に恋をする、どこまでも純情な想いへの、祝福。



そうして私は主役になれる。



これは私の初恋だった。




悲しんだ分だけ、笑顔になれる。
傷付いた分だけ、熱くなれる。

苦しんだ分だけ、私はわたしに恋をする。


そうして一歩踏み出した世界は、眩しいくらいに鮮やかな色彩で、目をめいっぱい見開いても足りないくらい、美しい絵画のようであった。

ヒールの分だけ背伸びして、どこまでもどこまでも背筋は伸びる。
そうして明日も幸福に浸れることを祈って、私はベッドに沈むのだ。

温かな愛の香りは、わたしを静かに包み込んでくれる。
いつまでも、どんな時でも。




誰かが言った。

「焦がれることは愚かである。」と。


それでも私は、焦がれている。
私に、私の未来に、栄光に、成功に。

恋焦がれている。


温かく想うことが愛ならば、激しく求めるこの気持ちは紛れもなく恋そのものであると言えるだろう。激しく燃え上がる。湧き上がる。腹の底が熱くなるような、喉の奥がひりつくような、いてもたってもいられないこの欲望。
醜いものであろうか?
醜くても良いのだ。
醜くても、それが人であり、それがわたしであるから。


その醜さが、私の美しさだから。




照りつける朝日は、ボロボロになった私に光を当てる。戦うための鎧は、もうズタボロで、よれよれで、それでも私は凛としてここに立っている。
背筋を伸ばして、誰よりも美しく。髪の毛を揺らし、優美に、歩く。あるく。在るく。

このステージの主役を張るのは、わたし。


この物語の主人公は、わたし。



世界を輝かすのも、わたし。





愁。

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