テニスコートのある広々とした会社の喫煙所で10分の間に2服するのが私のお決まりだった。
バージニアの1mm。色んなタバコを吸ってきたけど、細いタバコが可愛いから。
タバコなんて吸いそうにないねと何回も言われてきた。
反抗期を拗らせてきている私には「似合わないことしてるよね」としか
届かない。何を基準に「らしくない」とか決めてるんだよ。
初めてタバコを吸ったのは大学への入学が決まって田舎から福岡へ出てきた日。
一人暮らしの家から心配する父と母を見送った後、私は自販機でタバコを買った。
マイルドセブンのソフト。それをデビューしたての宇多田ヒカルのアルバムを聴きながら
ベランダで吸った。吸った?ふかしてただけ。
「私は自由だ・・・・」
その開放感と未来への期待で心溢れて旗を振り上げたジャンヌダルクのようだった。
あの時の夕日は今でも忘れない。
私はなぜあの時、タバコを吸ったのだろう。
多分だけど、私は息をしている、自分が自分の意思で生きていることを
吐く煙で証明したかったのかもしれない。
私は自由になったことをタバコを吸うことで実感したかった。
私は私の意思で決めることができるようになったと。
あれから二十数年。今はタバコは吸っていない。
なぜかって?自由はいつもそばにあることを知ったからだ。
いつもすぐ隣にいる。近すぎて見え無くなることもあるけど。
何を自由として感じるかは全て私だけでよかった。
今でも宇多田ヒカルを耳にすると思い出す。
夕日と宇多田ヒカルとマイルドセブン。