見出し画像

なぜかウミウシが異常に好きだった

今となったらただの承認欲求のようにも思う。


小学校の1分間スピーチで毎日誰かが教卓の前で話さなければならない。

とても辛いことである。
人前は緊張するし、みんな何を考えてるかわからないし、失敗すれば笑われて、無視されて、この世から消えちゃう。
それでもいつかは自分の番がきて話さなければならない。
自分の書いた文章を一語一句覚えられないし、紙に書いても見ちゃダメと言われるし、単語を覚えればいいとかもできないし、ずっと話せなかったし、何の目的かも誰も教えてくれないし、恥をかくだけだった。

小学生における憂鬱であることは間違いない。


いつもは面白かった本の話などをしてた。
でも、さっぱりみんなの反応が良くないし、質問を必ず3人くらいに当てるのだが、なかなか質問も出ない。
みんな私を嫌いなんだなと思っていた。


あるとき、本屋でウミウシの本を見つけた。
次の時にそれを紹介しようと思った。

凄く鮮やかで美しく、
それでいて気持ち悪い本体。
見た目はナメクジなのに、名前はウミウシ。
全部がちぐはぐで綺麗だと思った。


別にただの一話題のつもりだった。

それをただ紹介するだけでは、またみんなに嫌われてしまうし、こんな長い説明覚えられない。
そう考えて、クイズ形式にした。
長くてもクイズだから、これを言わないことには始まらないし。
すると、みんな興味をもって考えてくれたし、自分も長い文を覚えずに済んだ。

そのおかげで最後の質問の時間がなくなるほどだった。

その後、ずっとクイズ形式でのウミウシの紹介しかしなくなった。
それが一番間がもつし、嫌われない。

みんなが認めてくれるからという薄い理由だけで好きになるものがあるというのは、本当に不純だとは思うけど、それが全てだった。

未だに綺麗だとは思うけど、別に格段に好きな訳ではない。


———それから、12年後。

小学校の教育実習で朝の会に参加した。
朝の会では例の如く、スピーチが行われる。

一人の男の子が教卓の前に立つ。
何も言わずに時が流れ、男の子は泣き出し、朝の会終了のチャイムが鳴る。

これが4日くらい繰り返された。

どういう方針かはわからないが、先生は呆れてため息をつき、「もう戻っていいよ。明日はちゃんと練習してできるようにしてください。」と言っていた。


私は痛いほど、その子の気持ちがわかった。
なおかつ、先生側の心理も今になってやっとわかった。


おそらくその子はみんなに見られている緊張感から話せなくなり、話さないとまた怒られるという恐怖感で泣き出してしまうのだと思った。

先生側は、これからたくさん皆の前に立って話さなければならない状況があるから、今から慣れておかなければならないという心情である。


どっちもわかる。
確かにそうなんだよ。
ここに折衷案はない。

強いて言うなら、
その子の話を目一杯聞いてあげること。
そして、一緒に内容を考えて、練習して、褒めて、自信をつけてあげること。
もしくは、スピーチをつくり、話す手順を明確化してあげること。
本番では、絶対に手助けしないこと。


子どもが自力で頑張って乗り越えることも必要だけど、できないなら補助輪をつけてあげないといけない。
急に自転車に乗れるようになる訳ないじゃん。


たまには谷底に落とさないと心身ともに弱い子になってしまうという言い分もわかる。
しかし、全く話を聞かず、褒めず、ただ谷底に落とすのはお門違いだと思う。


何年も経ってから同じ感情になるとは思わなかった。

あの子も嫌なことをやらない為の抜け道を何か見つけられてたらいいんだけど。


#エッセイ #教育 #ウミウシ #小学校 #小学生 #1分間スピーチ

お金よりもスキしてくれるとスキ