【エッセー】糠床と犬。

出発前に五分時間ができた。
糠床を混ぜた。

海外を飛び回っていた頃は、数週間、家を留守にすることもあって、とてもじゃないけど糠床を持つなんて考えたこともなかった。

だけど、今年の春から始めた糠床は今、既に僕の一部になっている。

もし興味があれば誰かにその面倒を託してもよかった。と、いいことを思い立ったのは、機内で自分の座席に座り込み、ひと息ついた時だった。

犬の散歩を「健康的だ」と言う人がいるなら、糠床の世話を「健康的だ」と言う人もきっといると思う。床は床でも“糠床上手”へのアコガレ。

混ぜただけでは二分で終わってしまった。
まだ時間はある。

そうだ、この容器もたまにはきれいにしよう。

糠床を別のタッパーに移し替え、もと入っていたホーロー容器を洗う。そういえば春から一度も洗ってなかったなと。それでも悪い菌は全然いそうになくて、いい菌がちゃんとぴりぴりと働いてくれている感じが気に入っている。

糠は『やめてくれ~』と言っている。犬と一緒だ。小屋の掃除を嫌がる犬。掃除機の音を嫌がる犬。

「少しの間だけね…」と言い聞かせ、ざざっと洗い、しっかり乾かしておくことにした。代理のタッパーにはしっかりラップ&蓋をして(臭いので)、冷蔵庫の定位置に戻す。

『ちっ』という声が聞こえる。「まぁまぁ、また帰ってきたら野菜を食べさせてあげるから」となだめ、扉を閉める。

相手が言葉が通じる相手かどうかなんて、いつもこっちが勝手に決めているわけで、犬だって「この子は私の言うことがわかるの」と言う人がいるように、糠だって同じことが起きて然り。会話ができると思い込むことが肝心で、思い込めなかったらずっと会話はできない。
それは相手がニンゲンでも然り。ずっと会話ができないニンゲンっています。いますよね?

機内の席で少しマスクを外し、自分の手を臭いをくんくんと嗅ぐ。

臭いのに何度も嗅いでしまう。

あの匂い。

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