【エッセイ】私はアゲman.
真面目な話~
那覇の壺屋やちむん通り(陶器街)を歩いた。今年の1月にも訪れていたので、見覚えある陶器屋ばかり。その中にひとつ、以前はなかったような気のする一軒を見つけた。
通りに面したそのお店は、陶器屋という割にはスッキリしていて、ギャラリー兼カフェのような様子。扉は大きく開いているのでwelcome感はあるよう。
ふらっと入ってみると、奥のカフェスペースで女性がひとり準備をし、手前で男性がちょうどリュックを担ぎ、出ていくところだった。
「こんにちは」と僕が言うと、二人が「いらっしゃいませ」と返してくれた。
男性の方が「あ!ちょっと僕、出てしまうのですが・・・ここは12月26日にオープン予定の新しいお店なんです。この先に本店があり、裏には工房もあります。工房の見学は今はできませんが、のぞくくらいできますからもしよかったら!では、お先にすいません。まだ物は少ないですが…どうぞごゆっくり!」と手短に、しかし丁寧に説明をしてくれた。
きっと急いでいるんだろうと、僕も「ありがとうございます」とだけ御礼を言い、彼は去っていった。
確かに物は少なかったけど、パッと見だけでも、これまで見てきた「やちむん」(沖縄で「焼き物」のこと)とは第一印象が全く違う。
しかしひとつひとつ手にとってみると、そのぷっくらしたフォルムや、優しさと力強さを兼ね備えたような釉薬の使い方などは、やっぱり「やちむん」。ここは壺屋だなと感じさせてくれた。
器のいくつかには「先約済」のシールが貼ってあり、ああ、本当にプレオープン中なんだな。まだ品物が少ないんだな、と。いくつか気になる物もあったけど、とりあえず通りを奥まで行ってから考えようと、女性に挨拶し一旦その場を去った。
別のとある陶器屋。ここは、以前来た時に器を買い、今も愛用している。またこの日も数点を購入し、そういえば以前も見学したそこの工房を思い出し、裏通りにまわってみる。
犬がいて、ああそうそう、前も軒先にわんこがいたなと思い出しながら少し覗いてみると、職人さんらが以前と変わらず作業に励んでいる。職人さんのこうした黙々と清々しい背中を見ると、自分もそんな姿を誰かに見せられているかなと、いちモノ作りの端くれとして我が行いを省みる。
こうしてぐるっと陶器街を一周し、再びあのプレオープンのお店に帰ってきた。
すると、さっきのお兄さんが、カフェスペースにある大きな赤いソファにどかっとリュックを置き、ちょうど戻って来ていた。
そして僕の手提げ袋を見て、
「あれ!?本店で買ってきてくださったんですか!?」
僕は薄々そうかな〜と思っていたし、実は既に、ちょっとわくわくしていた。
「はい。実は以前も買わせて頂いたことあって。気に入って使ってますよ、カラカラ!(やちむんの酒器のこと)」
彼は大喜びをしていた。
通りには大小50軒くらいの焼物屋が軒を連ねているというのに、僕が特に気に入ったのはこの2軒で、しかも姉妹店だった。
僕らは少し話をした。さっき感じた第一印象。お兄さんがここの窯元の息子さんで、女性は奥さん。そして彼は京都・園部の陶芸学校で学んでいたこと。京焼とやちむんの違い。そしてこの二号店にかける想い・・・
なんかほんの五分くらいの出来事だったけど、その何十倍にも感じた。
そして彼が「やっと『作りたいもの』が見えてきたんです。だから、本店とは違うカタチで、この店をオープンしようと決意しました」と言った。
おそらく僕と歳も近いかもしれない。30代中盤くらいだろうか。
物事に遅いも早いもないと思う。彼の言う『作りたいもの』が見えた時が、本当の吉日。
彼自身の手によって作られた、この世に誕生してまだほやほやの作品。そこに僕が瞬時に反応したことは、お互いにとってとてもいいインスピレーションになった。
ポーッとしていたら、お互い、名前さえ名乗るのも忘れていた。
「あの、まだ名刺もなくて・・・。次来られたら誰かに『長男いますか?』って言ってください!僕が、ぜひ工房を案内しますから!」
彼がそう慌てて言ったのが少し可笑しかった。そんな焦らなくても、僕は逃げもしませんよ?
それにしても長男とは。なんともざっくりな情報を!(笑)
でも、それでいい。名刺もSNSもいらない。
僕も「吉本と申します。自分の店を持たない人間ですが、屋号だけ覚えておいて頂ければ結構です」と言った。
「吉本さん」と彼は自身の脳に刻むように、僕の屋号を言ってくれた。
もう少し、彼に触れたくなった。
彼の触れた器は、今ここにある。