【詩】 鮎
人を殺した。
うなじの美しい女だった。
金曜日の夜、池袋の駅で彼女を見かけた。
あのうなじに触れたい。そう思った。
西口から駐輪所まで行く間に、その方法をいくつか考えた。
しかしそのほとんどが僕には相応しくなかった。
高校時代のクラスメイトだったSあるいはRなら、スマートにやってのけたかもしれない。
ただ僕はSあるいはRではない。
だから僕は最も単純で効果的な方法を取ることにした。
砂浜を裸足で蹴ったことがある。
枯れ木を折って遊んだことも。
ほんの戯れに、蟻を潰したこともあった。
彼女の首に手を這わした時
突き上げるような鼓動を感じた。
僕の全体重をかけても抑え込むことができない力強い呻き。
生きているのだ。そう思った。
スマホと財布と干した牛乳パックと食品トレイ。
それらをエコバッグに押し込んで数分歩く。
スーパーまでの道のりが昨日よりも春だった。
僕も、季節も、そして彼女も同じ時を共有していて、その受け取り方が違うだけ。
そんなことを思った。
彼女はどのような暮らしをしていたのだろう。
僕と同じように夕飯の献立を考えながら夜道を歩いていたのだろうか。
仕事は何をしていたのだろうか?
恋人はいたのだろうか?
年齢は?
名前は?
僕は何も知らない。
彼女の美しいうなじは、僕が手を離した頃には青黒く変色して台無しになっていた。
スーパーから帰ると家の前に停めてあった車から男が2人出てきた
男たちは僕の名前を問うた。
何万回目かになるのだろうか。
僕は自分の名を唱えた。
『ミナトアユさんをご存知ですか?』
美しい名だと思った。
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