【エッセイ】 クラゲ
眠気覚ましに煙草を吸っていたら喉を痛めた。
お手本のような不健康。
朝の4時。
3時間後には仕事が始まる。僕は今、神経過敏になっているので、3時間程度では寝付けない。
だから眠気覚ましに喫煙所巡りをしていた。僕のデスクは28階。階段を降りたり登ったりしながら局内を巡回する。
途中自販機で缶コーヒーを買ったり、コンビニでグミを買ったり、フリースペースで詩を書いたりしていた。どれも僕の生活に必要不可欠な要素だ。
歩くたびに眠気が遠のいていくのを感じる。一箇所に留まれば眠気が追いついてしまう気がして、足を動かし続けた。
初めて訪れた喫煙所で馴染みの煙草に火をつける。この3時間の間に、10回以上その動作を繰り返しているが、まだ退屈には至らない。
ただ、僕の身体はこのハイペースな営みに順応しきれなかったようで、5回を過ぎたあたりから吐き気と頭痛を催すようになった。
たった今取り入れた有害な空気を内臓ごと押し出そうとするような荒々しい吐き気に付き纏われながらも、10本目の煙草に火をつけた。
吐き気は眠気の対岸にあるから僕はまだ起きていられる。
たった数時間の睡眠の重要性は知っている。
知っているが、僕には睡眠以上に重要なことがある。
それは、「人から意識的に離れる」ということ。
僕は人に囲まれながら数時間眠って身体的な疲労を拭うことよりも、数時間だけ人の視線から逃れることで得られる精神的な安堵を優先しているだけなのだ。
『社会不適合者』という言葉を背負うほど僕は病的ではないが、『人付き合いが苦手』と自称するくらいは許してほしい。
僕は25になろうとしているが、未だに意識しないと人の目を見ることができない。
自分はつくづく愚図だと思う。
仕事の合間にある些細な交流も負荷になっている。
帰り道の足取りが重い。彼らが何となく放った言葉を追い出せずにいるから。
自分に向けられた言葉を何度も反芻してしまう。
刺さったナイフを押し込むのはいつも自分だ。人知れず傷を深くしている。
彼らの悩みと僕の悩みは、生活に食い込む角度が違いすぎて、相容れない。
僕は少数派だからいつも適当に会話を合わせている。
自分の深部を明かす機会は後にも先にも一度として無いだろう。
その会食を有意義なものにしたくて、帰り道で自問自答を繰り返す。
今すぐにでも1人になりたかった。
しかし、僕は別に彼らのことが嫌いなわけでは無いから、普段とは違う気の遣い方をする必要がある。
「ちょっとコンビニ寄るから先に帰ってて」
その一言がいつも喉に引っかかっている。
彼らは帰り道何を思っているのだろう。
少なくとも、こんな文章を書いたりはしていないだろうな。