挨拶が苦手。

挨拶とは難しいものだ。

それは社交のスタート地点であり、ある種の儀式でもあり、印象操作の術であったりする。僕は、これが少し苦手だ。
挨拶が苦手と言うと、「とんだダメ人間だ!恥をしれぃ!!」と思う人もいるだろう。確かに挨拶とは、人見知りを盾に回避できるようなものではない。たった一言、「おはようございます」とか「こんにちは」と言えば達成されるからだ。例えその後に続く会話に致命的な欠陥があっても、「挨拶をちゃんとするから悪い人ではなさそう」という最低限の評価は得ることができる。故に、挨拶をしない人となると「感じ悪い奴」といった烙印を押されるのである。

挨拶について考える時、いつも頭に浮かぶのは、映画『トゥルーマン・ショー』のジム・キャリーだ。彼は誰に対しても満面の笑みを浮かべて挨拶をする。『おはよう!会えない時のためにこんにちは!こんばんは!おやすみなさい!!』。演技とは言え、彼の白い歯を見ると、「悪い人ではなさそう」という感想が自然と湧いてくる。


誤解の無いように言っておくが、僕はちゃんと挨拶をする。しかし、時折困ることがある。
それは、『目上の人以外の顔見知りと会った時』のあいさつだ。
例えば、知り合って間もないクラスメイト。(要するに、「やぁ」とか「よっ!」とか、「Hey!!」を持ち出すには少し時期尚早な関係性の人。)彼等に向けて「おはよう」と言うのはまだ自然だ。しかし、問題は「こんにちは」と「こんばんは」だ。これらはなかなか曲者で、少し格式張ったきらいがある。慇懃無礼とまではいかないが、そこに心理的な距離を見出してしまうのは僕だけではないはずだ。


「おはよう」という言葉と、「こんにちは」「こんばんは」の間には、決定的な違いがある。
それは、前者は「ございます」という、時と場合によって着脱可能な便利なアタッチメントに対応しているのに対し、後者は対応していないという点である。
これは非常に大きな問題だ。挨拶界隈で「おはよう」が幅を利かすのもこれが原因だろう。思い返せば、アルバイト先でもそうだった。昼だろうが夜だろうが、社員間の挨拶は一貫して「おはようございます」であった。現代日本において、これは静観して良い事態ではない。独占禁止法に則って、「ございます」の独占を禁ずる必要があるのではないだろうか!!
「ございます」が「こんにちは」「こんばんは」にも適用可能になれば、「おはよう」のように相手との関係性によって使い分けることが可能になる。僕のように、挨拶に対して苦手意識を持つ人もいなくなるはずだ。我ながら画期的な提案だ。
「こんにちはございます」「こんばんはございます」
……言いにくい上にお嬢様キャラみたいでダサい。こんな挨拶されたら会話する気も失せそうだ。却下。


挨拶とは難しいものだ。
20年と少しの歳月では、「こんにちは」と「こんばんは」に代わるような、丁度よく砕けた挨拶を見つけるのは困難であった。

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