奈月遥
わたしお手製の造語の『未言』を紹介します。
未だ言にあらず――それは、未だ言葉としてなかった物事に宛がわれた言葉の未だ。 それを『未言』という概念で産み出していったのが、未言屋店主です。 その未言屋店主の思い描いた未言のそのまま、源流を引き継いだ『未言屋宗主』は、未言を知らない人、未言を知ろうとする人、未言に疑問を抱く人、未言に寄り添いたいと思う人へ、未言の在り方を伝えていきます。
わたしや未言屋の方々が執筆している未言を扱った小説を紹介していきます。
飲み物に浮いた氷が器に触れて鳴らす音色。もしくはその氷。 ドアベルにテーブルチャイム、それに氷鈴、喫茶店は涼しい音があちこちに。
陽炎が出るような熱気から逃れるために冷房の効いた屋内で道草を食うこと。 雨宿りは雨が止めば去るけれど、陽炎宿りはいつになったら出ていくのかと。
太陽の暑熱をアスファルトとコンクリートが蓄え込み輻射熱として殺人的に高い気温に至った街並み。 人は自らを蒸し焼きにする窯を造り、日がそこに火を入れる。
水が通過や反射した光を、より眩しくすること。 水に研がれた夏の日射しは真っ直ぐにぼくらの瞳を貫くんだ。
雨で木々の幹まで濡れそぼち、辺りに樹木が香り立つこと。 どこか物悲しく、どこか懐かしく、どこか落ち着く香りに包まれてるひとときの癒しを。
カーテンを閉めて真夏の陽射しを遮り、灼熱の暑さが屋内に入るのを拒むこと。 恐ろしき太陽の猛威に、布を厚く重ねて人工の闇の中で縮こまるしか人に生き延びる術はない。
列車。 細く連結して長い躯、カーブで弛む姿、きっとあれは魂の記憶の底にある龍を真似て作られたんだ。
太陽によって暖められた物体が、太陽が沈んだ後も保っている熱をじわじわと放出する様子。
真夏に異常な暑さが陽炎を灯し、人の命も危ぶまれる状況のこと。 夏は本陣を布きたり、唯攻むるのみ。
夏の夕方から夜にかけて前触れもなく吹いてくる涼しい風。 そこから、さりげなく手助けしてくれる人。
水滴に混じった泥などの汚れがこびりつくこと。
飛沫の水滴が点々と跡を残すこと。
日中、車内に熱がこもっている状態。 熱れは、人いきれと同じ用法。 冬は心地いいけど、夏は地獄。
細かな気泡をたっぷり含んで白く濁った水。 お家のお風呂の蛇口を絞っていくと、空気に掠れる音を立てながら息水が出て、簡易ジャグジーになって気持ちがいいの。
仕舞っていた紐が知らぬ間に自然に結ばれていること。 綾縒るイヤホンのコードは、何時だって厄介なのよね。
調味料が馴染む前の、完成した料理よりも物足りない味。 途中で味見した浮き味に惑わされてつい調味料を多くしてしまって、食べる時に後悔してしまうのです。