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はらぺこキューピッド(7)

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第7話 おじいちゃんのドライカレー

 「今日の晩ご飯は何が食べたい?」
とおばあちゃんに聞かれて渚は、
「おじいちゃんのドライカレーが食べたい!」
これを食べに来たのだと言わんばかりに勢いよく答えた。
「いいわねぇ。じゃあおじいちゃんに頼んでみましょうね。」
おばあちゃんがそう言って台所へ向かったので渚もキューピッドもおばあちゃんのあとを追いかけた。
 おじいちゃんのドライカレーが食べたいと言うと、おじいちゃんは一瞬ポカンとした表情になったが、
「あぁ、あれだね。材料はあったかな?」
と言いながら張り切って台所へ向かっていった。もちろん渚も作り方を覚えようと思っているので、
「わたしにも手伝わせて!」
と言っておじいちゃんについて行った。
 おじいちゃんが最初に用意したのは牛乳とレモン果汁の瓶だった。
「おじいちゃん、ドライカレー作るんだよね?」
ちゃんと伝わっているか急に不安になった渚はおそるおそるおじいちゃんにたずねた。
「もちろんそうだよ。今からドライカレーを作るんだよ。」
どうやらちゃんと伝わっているらしい。
「渚、牛乳を全部この鍋の中に入れて。火をかけるから時々かき混ぜんるんだよ。」
渚は不安を抱えながらも、おじいちゃんから出された指示通りに料理を始めた。
 ぐつぐつと沸騰しないくらいでおじいちゃんは、鍋の中にレモン果汁を投入した。そしてしばらくすると、ザルとペーパータオルを使い鍋の中身をこし始めた。
「おじいちゃん、これ本当にカレーができるの?」
さっきからずっと心配していた渚だったが、また聞いてしまった。
「そうそう。確かにこれだけ見たらカレーを作るように見えないのも無理ないな。これはカレーを作る前段階として、ホエーを作っているんだよ。」
「ホエーって何?」
初めて聞く言葉に渚は、混乱している。
「ホエーって言うのは、ヨーグルトの表面に水分が出てくることがあるだろう。あの液体の正体がホエーだ。カレーを作るときに水の代わりにホエーを使う。ホエーにはたくさんの栄養素が入っているからとっても体に良いカレーが出来上がるんだ。」
おじいちゃんが得意げに教えてくれた。
「ほ、ほえ~。」
隣でキューピッドがおやじギャグを飛ばすものだから、渚はつい笑ってしまった。
おじいちゃんは不思議そうな顔をしながらさらに、と続けた。
「さらにこのホエーを作るときに、こした残りの部分を使ってチーズも作れてしまうという二度美味しい食材なんだよ。」
「ほえぇ~。」
次は思わず渚が言ってしまう。
 ホエーをこすのに2時間ほど待っている間、にんじん、ジャガイモ、玉ねぎなどの材料を切っていく。
 渚は包丁を使うことにまだ慣れていないので、指を切らないようにゆっくりゆっくり、それでも確実に野菜を切っていく。渚の横で、トントントンと心地よいリズムでおじいちゃんが野菜を刻む音が聞こえている。
 その後は、ひき肉を炒めてカレー粉で味をつけておく。
 こし終わったホエーを鍋に戻し入れて、野菜と一緒に煮込む段階にきて渚はやっとカレーを作っているような気分になって来たので一安心していた。
「このカレー粉が美味しいんだ。」
と言っておじいちゃんが業務用と書かれたカレー粉を手に持っている。
「業務用?どこにでも売ってるものじゃないの?」
自宅に帰ってからも作りたいと思っていた渚は心配になりながらおじいちゃんに聞いた。
「確かにどのスーパーにも売っているわけじゃないけど、渚の家の近くにある業務用品がたくさん置いてあるお店にも売っていると思うよ。」
とおじいちゃん。
渚は良かった、と思いながらカレー粉を溶かしていく。
「よし、そのくらいでいいぞ。」
おじいちゃんのOKが出たそのカレーは、一般的なものよりもずいぶんしゃばしゃばしている。コーンスープよりはドロッとしているけれど、シチューやカレーよりはしゃばしゃば。そんな感じだ。
「次はどうするの?」
早く食べたくて渚はおじいちゃんを急かした。
「次はさっき炒めたひき肉をご飯と一緒に炒めよう。もう少しで出来上がりだよ。」
 カレーの香ばしい香りが広がって、渚とキューピットはもうお腹がペコペコになっていた。
渚は卵を2個ボウルに割り入れかき混ぜる。そしておじいちゃんが手早く卵を焼いているのを横でじっと見ていた。
 火が完全に入ってしまわないように菜箸でかき混ぜながら、上手に卵の形を整えていくおじいちゃんはなんだか魔法使いのようだ、と渚は思った。
 焼きあがった卵をご飯の上にのせて包丁で真ん中に切り目を入れて広げていく。その上にホエーで作ったカレーをたっぷりかける。
「よし、これでおじいちゃんのドライカレーが完成だよ。」
「やったー!いい匂いでさっきからお腹ペコペコだよ!」
渚とキューピットは大喜びして食卓についた。
 久しぶりに食べるおじいちゃんのドライカレーは渚が思っていた通りの味がした。ふつうのカレーより少し酸味があるような気がするのは水の代わりにホエーを使っていたからなのだと渚は納得する。
「渚ちゃん!こんなドライカレー初めて食べたよ!卵のとろっと感も堪らないし、ご飯との相性も最高だね!」
興奮しっぱなしのキューピッドは、まるで食レポをしているようだ。
「そうだね、ドライカレーって言うネーミングが正しいかどうかは置いておいて、すごく美味しいね!」
 渚もパクパク食べ進め、あっという間に完食してしまった。
そんな渚を、おじいちゃんもおばあちゃんも目を細め嬉しそうに見ていた。

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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