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母とお好み焼き、または母とたこ焼き【フォトギャラリー短編】

今日は、母を病院に連れて行った。母は今年87だ。
3年前に自宅で転倒して、股関節と腰骨を骨折し、歩くことが不自由になった。家の中も歩行器で移動する。ゆっくりと、ゆっくりと。

「5日に病院に連れて行って。」
月に1度か2度、母を病院に連れていくことになる。

病院は母の家の近くにあるので、5分とかからない。
その間は、母の愚痴を聞かされる。主に、父の。

「あんなに意地悪だとは思わなかった。」
「もうボケが始まっていると思う。」
「何でもわたしのせいにして涙が止まらない。」
また始まったと思うが、うんうんとうなづいてやる。母も体が不自由で、ストレスもたまるだろう。同じように父もたまっていることだろうけど。

待ち時間の長い病院での診察が終わると、近くのスーパーに買い物に連れていく。母は車から降りることができないので、私がお使いだ。

「今日は何が食べたいの?」
「そうね・・・・」
少し考えて、
「お好み焼きがいいかな。」
母が答えた。
「父さんは?」
「あの人は刺身があればいいから。盛り合わせを買ってきて。」
「はい、はい。」
「あなたも買っていいからね。」

お駄賃のつもりなのだろう。

夕方のスーパーは混雑していた。お目当ての総菜コーナーへ。
お好み焼き、お好み焼き、お好み焼き、、、、。お好み焼き、お好み焼き、お好み焼き、、、、。
、、、ないな。お好み焼きがない。
うーーーーーーん、でも、たこ焼きはある。これでいいや。

と思ったが、駐車場に戻って、眠そうな母に尋ねた。
「お好み焼きはないよ。でも、たこ焼きはあるよ。」

「・・・・・・・・。」
「たこ焼きでいい?」

「・・・・・・・たこ焼きはないかな。焼きそばでいい。」

「・・・・・・・・・」今度は私のしばしの沈黙。

似たようなもんだと思うけど、ちがうんだね。

「焼きそば、買ってきたよ。」
母は、満足そうな顔をしていた。


(終わり)「フォトギャラリー短編」とは、「みんなのフォトギャラリー」の1枚の写真から生まれた短編です。
ippachi888さん、素敵なフォトギャラリーをありがとうございました。


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