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一生懸命なの【photogallery短編】

「由紀さん、先生の話を聞いてる?」
小学3年生の由紀は、また先生から注意された。これで3回目だ。
そして、もちろん、由紀は、先生の話など聞いてはいなかった。
「由紀さん、窓の外に何かあるの?ぼーーーーっとして。ちゃんと話を聞きなさい」
由紀は、ぼーーーーっとしていたわけではない。運動場で体育をしている1年生の様子を見ていたのだ。1年生には弟の和人がいるのだ。どうやらおにごっこをしているらしい。和人は走るのが得意ではない。鬼からねらわれて、走って逃げている。もう少しで捕まりそうだ。というところで、先生から注意を受けた。
そこからは、先生の話を聞いたのだけれど。

「加奈、どうしたの。ぼーーーーっとして」
「ううん」
中学3年生の加奈は、バスに揺られていた。
加奈は、バスと平行に走る遠くの電車を見ていたのだ。あの電車には、お母さんが乗っているかもしれない。そろそろ仕事が終わって帰ってくるころだ。丁度駅で会えるはず。一緒に帰ろう。帰りにいつものスーパーに寄らなきゃな。

「どうしたんです、専務。何かを思いつめた顔をして」
専務の芳雄は、11階のビルの窓から外を眺めていた。
芳雄は、今朝のことを思い出していた。妻のさゆりが突然働きに出たいと言い出したのだ。子どもも大きくなって、家を出ている。結婚してから専業主婦として家のことをしていたが、その前は立派な会社で企画を任されていたのだ。毎日家事をすることに飽きてしまったのだろうか。

「おばあちゃん、かぜ引きますよ」
八重はこたつに入って、テレビを見ていた。テレビを見ていたというわけでもなかった。さっき映った若い俳優のことを考えていたのだ。最近よく見る顔だ。さわやかで優しそうで、それでいて抜けてるところを見せる。昔のおじいちゃんにどこか似ている気がする。名前は何ていうのだろう。

そして、4人は別々の場所で、別々のときに思った。
「一生懸命考えているのよ。そうは見えないだろうけど」

(お礼)mikitanishi3さん、素敵なイラストありがとうございました。そうは見えないけど、フル回転の物語を書いてみました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。スキやコメントをいただけると、また一生懸命になれます。


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