
大嶋啓之と私(後編)
ツーリング以降、大嶋さんとは大きく絡むことはなく、私は自分の地盤固めに注力していた。
ちょうどアイドル×バンドサウンドが盛んになってきた時期で、ポツポツと制作やライヴサポートの依頼が舞い込んできていた。
私の二大楽曲提供先であるかなでももこやSOMOSOMOとの出会いも、この期間の出来事だ。
私の世界は順風満帆に広がっていると思えた。
ふと気づいた時にはコロナ禍になっていた。
世界は一変し、一気に仕事がなくなった。
私のように、今まさに地盤を築こうとしているポジションのアーティストの多くが、廃業して地元に帰って行った。
大嶋さんからメールが届いたのは、そんな最中、2020年の8月だ。
大嶋さんは個人アルバムの制作中とのことで、1曲レコーディングしてもらえないか、という依頼だった。
即応したのは、言うまでもない。
後に「飛べない鳥のランドスケープ」と名付けられ名盤「epitaph」に収録されることになるこの楽曲のレコーディング依頼が、私へ届いたオファ。
送られてきたデモの段階で、私の興奮度合いはMAX値を突き抜けていた。
消失した語彙力で「はちゃめちゃに格好良いです!!」とお伝えするのが精一杯だったが、その言葉をUnRARで解凍すれば、ここまで書いてきたブログ2本丸々分の早口が溢れ出たはずだ。
8/19にデータが届き、8/23に納品していた。
スケジュールが空き次第速攻で取り掛かったはず。
スケジュールが空いてさえいれば、8/20に送りたかったくらいだ。
嬉しいことにリテイクなしの一発OKだった。
そして。
このタイミングで、私は大嶋さんに一人のギタリストを紹介している。
「ギターも生にした方が良いだろうか」という相談に「した方が良いと思います」と即応していた。
もちろん、大嶋さんの打ち込みクオリティは異次元の域に達していて、そのままでも十分に成立していたのだが、私にはビジョンがあった。
「ここに暁氏のギターが乗ったら、さらに化ける」
そう。
この時紹介したギタリストこそ、今回一緒にステージに立ったギタリスト、暁氏だ。
凄腕ギタリストの知り合いは他にもいるが、大嶋さんの世界観に、暁氏以上にフィットするギタリストを私は知らない。
案の定、彼はこの上なく秀逸な仕事をした。
3割り増しで。
しかも、8/23に紹介して、遅くとも8/26には納品が終わっていたようだった。(そのタイミングで確認のサンプルが届いた)
この、仕事に対する姿勢の類似も、私が彼を信頼する理由の1つだ。
かくして「飛べない鳥のランドスケープ」は完成し、私の仕事は終わった。
はずだった。
が、この曲を録り終わったタイミングで、大嶋さんから「もう1曲お願いするかも」という嬉しい追加オーダ予告を頂き、私という飛べない鳥は、成層圏まで舞い上がった。
まさか2曲も関われるなんて!!!
そうして送られてきたのが「メトロニカが聞こえない」だ。
最初から生演奏想定で書いて下さったこの曲は、恐らく私のイメージも少し影響しているのだろう、ロック色が強めのバラードで、またしてもはちゃめちゃに以下略。
結果、私、ちょっと張り切ってしまった。
以下の返信をお読み頂きたい。
ベース収録ありがとうございます。とても躍動的でかっこいいと思います。
サイトの雰囲気のとおりアルバム全体としては頽廃的な内容ですが、1曲くらいは感情的なものも入れたいと思っているので、こちらのデータで問題なく進めていきたいです。
これは、、、4割くらいやってしまったのかも知れない。
大嶋さんがOKを出して下さったので結果オーライだったが、少し後悔した。
もちろん、大嶋さんに直接確認したわけではないので私の杞憂である可能性もある。
本当に1曲くらいは感情的なものも入れたい、と思っていたのかも知れない。
でも、デモよりかなり派手にやってしまったのは事実だ。
この時の反省を踏まえて、今回のリレコーディングでは、気持ち出力を抑えめにして、より歌に寄り添った演奏を心掛けている。(そして、個人的にはとても満足している)
さて、「epitaph」をお持ちの方は既にご存知であろうが、私の参加楽曲はもう1曲ある。
私のレコーディング人生で最もエキサイティングで、今でも最高傑作と自負する演奏が出来た楽曲。
「水の中の永遠」。
これはもう。
もう。
録り終わった瞬間、死んでもいいと思いました。
もちろん、死ななかったおかげで今回のコンサートに出演が叶ったわけだが。笑
しかもステージでこの曲を演奏しちゃったわけで、その辺はコンサートに関しての記事でたっぷり深掘るので今は流すけれど、とにかく、良い仕事が出来た感覚が凄かった。
ノイズ処理が甘い箇所があって修正が入ったが、それさえ目を瞑れば実質1テイクでOK。
この時の私、神がかっていたなぁ。
こんな感じで、メールのやり取りが残っていたので割と明細に語ってしまったが、「epitaph」という名盤に3曲も関われて、私は幸せだ。
余談だが、暁氏は4曲参加していた。
ちくしょう。笑
その後。
無事にepitaphも発売され、大嶋さんはサクナヒメ関連でご活躍、私もコロナ禍を耐え忍びながら業界にしがみついて生きていたところ。
衝撃的な報告が飛び込んできた。
大嶋さんが事故に遭われた。
目の前が真っ暗になった。
→コンサート編に続く。