【年齢のうた】怒髪天 その1●三十でつまらない大人になる?ウソだ!「オトナノススメ」
このところの繁華街の人の多さに参っている青木です。
東京では、渋谷も池袋も新宿も、お台場も六本木も。人が多い! そりゃそうか。
いや、でもね、僕などは、90年代は週末に渋谷がものすごく人が多くて、しかもウェ~イな方々(←当時はなかった表現)がたくさんで、ヘキエキしたものでした。が、それでも! 今の渋谷には、もっと人がいます。なにせ平日の真っ昼間でも歩きづらいほど混んでるもの。あ、あちこち工事しまくってるせいで歩きにくいのもある。よく言われることでは、気軽に座れる場所が少ないせいもある。
国内の人口は減っているのに混雑してるのは、ねえ。そんだけ日本に外から人が入ってきてるんだなぁと思ってます。
で、今週、その渋谷に怒髪天を観に行ってきました。
ワンマンを観たのはひさしぶりでしたね。そしてメンバー脱退後としても初。シミさんの代役というか、サポートのベースは亜無亜危異(アナーキー)の寺岡さんです。
いやぁ、今の怒髪天、いい感じでライヴやってました! これからも楽しみです。
で、今回取り上げるのは、この怒髪天の歌です。彼らの代表曲といえる「オトナノススメ」。
40代で開花したパンク・バンド
怒髪天は北海道出身の4人から成るパンク・バンド。発起人の増子直純が高校時代にスタートさせたバンドで、今年で結成40周年を迎えている。
パンク・バンドとは言うものの紆余曲折あって、彼らはパンク・サウンドばかりをやってるわけではない。そして結成40周年と言っても、間には活動休止の期間もあったりで、40年ずっとという道のりでもない。人生いろいろを体現している彼らである。
それがこの2月のベーシスト解雇騒動により、いろいろの色がさらに増えてしまった。
こちらは最新曲の「ザ・リローデッド」。
MVは3人で映っているが、この曲のレコーディング自体は以前の4人編成の時にやっている。なにせティーザーの段階では4人で映っているのだから。
つまり最初にMVを撮った時には、シミさんの解雇というか脱退が決まっていなかった。さっきのMVは、撮り直したものだという。
という話は、実はヴォーカルの増子直純本人に聞いたこと。最近、僕は彼にインタビューをする機会があって、バンドの近況をあれこれうかがったのである。その記事は近々、とあるメディアに掲載されることになっている。
そんないろいろある怒髪天だが、バンド自体は前向きに進んでいて、現在も全国ツアーを行っているところである。どうか身体に気をつけて、頑張ってほしい。
さて、この怒髪天というバンドは、音楽ファンなら名前ぐらいは目にしたことがあるのではないかと思う。日本のロック好きなら、けっこう知られている存在ではないだろうか。
ただ、彼らのことがそのぐらい認知されたのは、先ほど書いたバンドの40年の歴史でも、その真ん中どころだった。2000年代の後半あたりではないかと思う。
僕個人は、彼らのことは知っていたが、身近に感じるようになったのは2000年代の初めだった。ミッシェル・ガン・エレファントの解散ライヴの夜、打ち上げ会場で増子直純と近い席になったことがあったのである。怒髪天はミッシェルやザ・ピロウズといったバンドと近しい関係にあったのだ。
その前後にも各地のフェスで観たりして、徐々に親近感を抱いていったものだ。
彼らはずっと、地道に活動していた。とくに注目を集めるようになったのは、おそらく全員が40代になった頃……15年ちょっと前ぐらいか。中年になってもパンク・バンドをずっと続けている男たちがいると話題になることがあった。
2000年代後半からは、怒髪天がそういう取り上げられ方をしている一般メディアの報道をちょこちょこ目にしたものだ。もっともそこは「パンク・バンドを長くやっている」という以前に、「そんなに売れていないけど」とか、「とくにヒット曲があるわけじゃないが」みたいな枕も付いていた感がある。
これが2014年の、バンドにとって初の日本武道館公演へとつながっていった。
あの頃は、僕も怒髪天と仕事をすることが何かと多かった。
これは増子兄ィとモンゴル800・清作の対談。
続いて、EGO-WRAPPIN'と。
で、こちらは9mmの菅原くんと。
この頃、メンバーはすでに40代。日本武道館でのコンサートを実現させたのが結成30年の時だったというのは、最遅記録だった。そのぐらいの遅咲きバンドなのである。
彼らがこうした流れに至るまでは、バンドのサウンドをポップに広げ、歌のテーマもわかりやすいものにしていったという経緯がある。
この間に出た曲が、「オトナノススメ」だった。
大人は最高!と叫ぶ「オトナノススメ」
「オトナノススメ」のリリースは、2009年のこと。バンドが結成25周年を迎えていた時だった。
ちなみにこの曲のシングル盤のジャケットは、セックス・ピストルズの「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」を模したもの。そこにはパンク・バンドとしてのアイデンティティが見える。
しかしこうして昔のMVを観ると、当たり前だが、あの4人がまだ同じバンドであることと、それぞれの動きも今より瞬発力があって、40代とはいえ、若かったんだなぁと感じてしまう。時が立つのは早いものだ。
さて、この歌には年齢を唄った箇所がある。1番のサビ前、三十かそこら辺りでつまらない大人になる……なんてウソでデタラメだ!というところだ。
そしてこの言い方には、30歳は大人になる節目の年齢であるという認識が見える。
「オトナノススメ」について、増子が語っているインタビューがあった。
増子「怒髪天はもともと、パンクバンドから始めて。“Don't trust over 30”(※2)、大人を信じるなっていうパンクの常套句があって、俺らも昔はそう思ってて。でもいつの間にか大人になってて、あれ? ちょっと待てよと。自分が思ってたのとぜんぜん違うなと。大人っていう概念自体、ああいう大人になりたくねぇなっていう人がもう、周りにいないし、全然。何に対して反抗してたのかもわからないっていうか。東京に出てきたときの感覚に近いというかね。東京が何ぼのもんじゃい!みたいなね。ただの街だったっていう。何ぼでもなかった。別に俺の敵でもなかったっていうかさ。大人なんてクソくらえっていう、そういうスタイルに憧れてたけど、実際大人になってみた今、本当に、そういう、いわゆる“立派な大人っぽい大人”って周りに一人もいないよね。見たこともない。同い年でもそうだし、上の人でもそうだし。職業柄そうかもしれないけど。ルックスは立派な大人であるけれども、意外とみんな、中身は全然、思ったような大人じゃないよね。結局は、大人・子供関係なしに、それぞれがただ成長していくだけ、ハードが年を重ねていくだけであって、中身は基本変わらないし。“30過ぎたらしっかりする”とかもないし。何にもないよ。……坂さんは、何もないし聞いてもいない(笑)」
坂さんとは、怒髪天のドラマーの坂詰克彦のこと。
ここでも出てきた「Don't trust over 30」という言葉。これについて僕は過去にムーンライダーズ、それにGOING STEADYの回で書いている。
ほかにいくつかのインタビューを見てみたが、この曲に関しては、大人になることをどう思っていたかという話があちこちでされている。ただ、年齢そのものについての話は出ていない。まあ、それは「オトナノススメ」がそういう曲だからだろう。
ただ、30歳という年齢がひとつの線引きになっているであろうことは、曲を聴けばわかる。
ファンならご存じだと思うが、増子は基本的に古風な人で、彼らの作品でも、生きることや愛することに加え、男であることや酒を飲むことについて唄っている。今どきのバンドやアーティストでは、なかなか見ない作風だ。
だからこんなふうに、年齢を意識し、大人になっている自分を歌にすることも深く納得する。
「オトナノススメ」は、大ヒットしたわけではないが、この2009年頃の彼らの魅力をポップに打ち出した曲となり、怒髪天の代表曲のひとつとなった。
バンドにとって特別なタイミングでは必ず演奏される曲になっている。
一見おっかなそうだが、実は人情味にあふれ、人間くささに満ちた怒髪天の世界。ぜひ触れてみてほしい。
(怒髪天 その2に続く)