
歳末たすけてください運動
とにかく面倒くさがりで、一度椅子に腰を下ろしたら、どんなに座面とお尻がずれていようが座りなおすのも面倒くさい。
そんな感じなので、何事もコツコツやるのが苦手。今までそれができたのは、ドラクエのレベルアップくらいだ。
そんな私にとって地獄のシーズンがやってきた。
歳末の恒例行事 ”大掃除”
2004年に、森山未來が、世界の中心で、愛をさけんでいたなら、
2024年末、私は、日本の小部屋の片隅で、めんどくせぇ!とさけんでいる。
それでも、この時期を逃すと、その後全く何もしない、という確固たる自信が私にはあるので、毎年重すぎる腰をぶん殴りながら、何とか大掃除とやらを始める。
しかし、今年の私には秘策がある。
12月1日から大掃除を始めて、毎日1か所ずつやれば、
10日で10か所。
狭い我が家、10か所もやれば、大掃除など終わったも同然。
まあ、とはいえ、私のことなので、さぼることも想定して、
2日に1か所としても12月20日。
さらに予備日として10日確保して、12月30日。
ほら、12月31日には終わる予定。
なんだ、余裕ですね。
ということで、30分前に始めた本棚の片付けを一時中断して、
気分転換がてらサイクリング。
近所の古本屋と、最近具合の悪い自転車の鍵交換にサイクルショップへ出掛けることにした。
快晴。
12月の冷たい空気が心地よく、紅葉も綺麗で気持ちが良い。
ペダルを踏む足も軽快に、通い慣れた道をすいすーいと進んでいく。
しばらく行くと、前方の道路上に大きな黒い塊が見えた。
なんだろう? あれ。
いつもはない何かに少しずつ近づいていくと、なんと黒い塊は、自転車ごと道路に転倒しているご老体だった。どうやらバランスを崩して倒れてしまったらしい。
これはいけない、と慌ててかけつけようとしたその時、私とは違う方向から自転車に乗ってきた青年が、ご老体のすぐ近くに自転車を止め、颯爽と地面に降り立った。
「おじさん大丈夫? 自転車おこそっか?」
さ、さわやかすぎる! しかも、その手際のよいこと。
慌てふためいて近づこうとしていた私とは大違いだ。
大事なさそうだと分かったせいか、青年がご老体を起こしながら言った。
「オレ、ここで人助けるの2回目だよ。10年ぶり2度目。」
青年は、さわやかな表情で笑っていた。まるで、甲子園の出場回数を答える高校球児のようにキラキラしていた。ご老体もそれに応えて、球児を応援する祖父のような笑顔でエヘヘと笑っていた。
なんだか、すっごく素敵!!
大事ないなら、不安そうな顔や迷惑そうな態度で対応されるより、笑顔で助けてもらったほうが救われる。彼のさわやかさと、相手を思いやる軽口が、ご老体の心も身体も救った気がした。
歳末たすけあい募金ならぬ、
歳末たすけあい運動。
すてきだわぁ。
ほんわか幸せ気分で現場を後にし、サイクルショップへ向かう。
不具合があった時くらいしか足を運ぶことのないサイクルショップという場所。久しぶりの来訪だし、勝手がわからないので恐る恐る、尋ねる。
「すみません、鍵の付け替えはお願いできますか?」
と、これまたさわやかな店員さんが笑顔で出てきてくれた。
「壊れちゃいました? 油注すと直るかもしれないんで、やってみていいっすか?」
両手にスプレー缶を持ち、手際よく油を注していく店員さん。
みるみるうちに動きが良くなる鍵。
そして、カシャン カシャン と小気味好い音を立てて、鍵が正常に動くようになると、店員さんは私の方を振り返った。
彼は爽やかな笑顔でサムズアップしていた。
ま、まぶしっ! 眩しすぎて見えない! な、なんてさわやかなの!!
「お、お代は?」
と感謝とさわやかさに震えながら訪ねる私に彼は答えた。
「いらないっす。」
ちょっと、なんなの? みんな!
素敵過ぎない?! たすけあいが過ぎてない!?
最近、ニュースやSNSで、世の中に対して絶望的な気持ちになっていたけれど、自分のすぐ近くにはこんなに素敵な人たちがまだまだ沢山いる。
時代遅れかもしれないけど、たすけあいって素敵だなぁ。
助けられた側は嬉しいし、助けた側も気持ちが良い。
こんなに素敵なら、歳末たすけあい運動なんてのがあってもいい気がする。
みんなが少しだけ心の余裕があるタイミングで、少しだけ誰かのことを思いやる、たすけあい運動。
あぁ、私も誰かを助けたい。
なんていい日だ!
ペダルを漕ぐ足の軽快さも止まらない。
そんな素晴らしい気持ちのまま帰宅し、我が家の玄関を開けて足が止まった。
泥棒でも入ったんか?
というくらい本が散乱した我が家。
忘れてた・・・。そうじ途中だった・・・。
私は膝から崩れ落ち、両手を床について、小部屋の片隅で叫んだ。
たすけてくださいー!!
こればっかりは誰も手を差し伸べてはくれないよね。
あれ?今日って何日だっけ?
あ、はい、じゃあ、そろそろ大掃除、がんばりましょう・・・・・。
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