つくった人を感じたい〜ロングライフデザインを考える
ナガオカケンメイさんのnoteを読んで、その思想に共感し、腹落ちしたことがあったので、ここに記しておきたいと思います。
D&DEPARTMENT
ナガオカケンメイさんは、D&DEPARTMENTの創業者であり、デザイナーであり、ロングライフデザインの提唱者です。
わたしが初めてD&DEPARTMENTに出会ったのは、20年以上も前のこと。
世田谷区奥沢にあるD&DEPARTMENT TOKYOは、2000年オープンの1号店だそうだから、わりとすぐの頃に訪ねたのでしょう。
おそらく雑誌かなにかに紹介されていて、馴染みのないエリアになんとか一人でたどり着いた記憶があります。
いま店舗の写真を見て思うのは、当時はこんなに商品が並んでなかった、ということ。とても広い倉庫のような空間は、雑貨屋でも家具屋でもなく、ただ厳選されたモノたちが、整然と、余白を持って並んでいる印象でした。
そこに並ぶモノは見るからにセンスが良いものもあれば、これが? と思うものも正直ありました。おそらく、たわしとかホウキとかそういうモノで、当時のわたしにとってはカルチャーショックでした。それらの良いところ、デザイン性の何たるかも、理解できていなかったでしょう。
でも、貫いている「なにか」は伝わったか、あるいは印象に残っていて、歳を重ねると徐々に、ああそういうことかと気づくようになりました。こういう価値観があるのだと、あとで思えば「ロングライフデザイン」に出会った日でした。
ロングライフデザインに学ぶ
いまもD&DEPARTMENTのサイトのトップには「ながくつづく良いデザインを使おう」とコピーが掲げられています。
ナガオカさんが提唱し活動をつづける「ロングライフデザイン」とは、デザインを取り巻く環境とともにあるんですよね。その10ヶ条に見て取れます。
ロングライフデザインの定義は、とても深く頷けて、モノ選びの際につねに脇に置いておきたいものです。
つくった人が感じられない①
わたしはいま、とても物入りで、新旧のモノたちの検討と購入が続いています。そのなかで、良さそうだけど、どうも買うに至らない…とか、買ったけどちょっと違和感かも…ということがありました。
ひとつは、テーブルのサイズオーダーやカスタマイズが売りの、今どきのデキる感じの家具、インテリアを展開するお店です。
一度インスタをフォローしサイトを訪れたら、各所で広告表示されつづける仕組みが行き届いています。最初の印象からずっとスタイリッシュさに抜け目なしです。
実物を見てみたいなと調べたところ、都内にショールームがあるけれど、基本はネット通販のみの展開です。直販モデルに徹して、売値を比較的抑えられていることも分かりました。
ショールームは予約制で、だいぶ先の日でないと空いていませんでしたが、便利なシステムでサクッと予約して、後日ショールームを訪ねてみました。
予約制はコロナのせいか、戦略なのか、とにかくその時間帯は一組しか入れません。インスタで見たおしゃれ家具たちがきれいに並んだショールームでしたが、店員さんも若くて小洒落ている! 「なんでも聞いてください」とは言うものの、当然無駄なセールストークもありません。
コンセプトは分かるし、行き届いているのだけど……ネットで見た印象とさして変わらないまま、帰ることとなりました。
つくった人が感じられない②
もう一つは、わたしが先日まで塗ってた壁の、地方の塗材のメーカーさん。
こちらも、おしゃれさをアピールしてインスタを展開、女性でも楽にDIYで塗れちゃうという魅せ方が上手。見事にできるかも! と思っちゃったわけです。
とはいえ安くない買い物なので慎重に、カラーサンプルを取り寄せたり、下処理について尋ねたり、道具を用意するために電話やメールで何度かやり取りをしました。
その相手は、あきらかに塗材を作ってる人でも、左官のプロでもなさそうな、元気のいい若い女子たちでした。もともとB to Bで商売しているため、元気な営業さんが大事なのかもしれません。
ただこちらは素人なので、毎回要領を得ないやり取りになってしまうのが、地味にストレスでした。一生懸命さも、まあ伝わるわけですが……商品のコンセプトはしっかりしていたので、窓口対応においての違和感だけが残ってしまいました。
つくった人の気配でいい
先のナガオカさんのnoteでは、大量生産でもつくった人が見える例として、家電の「Dyson」が挙げられていました。
なるほど、ダイソン製品からは、作り手の「気配」が感じられるといいます。たしかに、わたしもダイソンさんには、多少のことは許しちゃってる……。
10ヶ条にもあった、作り手に「ものづくり」への愛があること(=作る)と、思いを伝える強い意志があること(=販売)がしっかりと揃っていますよね。
かつての「HONDA」や「SONY」もそうであったと。それを応援するのもロングライフデザイン的とおっしゃいます。
わたしの2つの経験でも、良いモノをつくろうという人は、絶対になかの、奥の方にいるはずなのです。でも、いざ近づいてみると「気配」が消えてしまっていた……応援したいのに、できない感じ。これがすごく残念に思ったんですね。
このことを夫に話したところ、新興のベンチャーや地方企業ほど「人」にお金をかけれてないんじゃね? と至極まっとうなご意見が。
なるほど、顧客対応の人件費や教育費にまわらず、現場を若手に任せてしまう構造もあるのかもしれません。
それもブランディングで、ターゲットから外れていただけ、といえばそれまでだし、商品が売れていればそれで良いかもしれません。
ただ、ロングライフデザイン的な視点をもって納得できたことで、歳を重ねるごと、自分もロングライフデザインの審美眼を養いたいな、と思ったのでした。