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もう一度みたい作品

多分、2014年のことだったと思う。
近くで芸術祭が開催された。トリエンナーレ――三年に一度開催される芸術祭――の最初の年だった。
市全体を使って催されたイベントで、様々な美術館やギャラリー、飲食店が、各々にテーマに沿った展示を行なっていた。
私はこの一大イベントの期間、スタンプカードを握りしめ、あちこちの展示を見て回った。

とある美術館に、その作品はあった。
確か、入口でまずサングラスを渡されたと思う。目を暗闇に慣らすのだ。しばらく待ってから、順番に暗室へと通される。

暗室に足を踏み入れると、広がっていたのは視界いっぱいに広がる、一面の星の海。蓄光塗料で描かれた繊細な点が壁に描かれ、その数々が暗順応した網膜に光を届けてきた。私は星のただ中を歩き、他の観客と並んで床に座った。皆が静かに語らっていた。或いは黙って星を眺めていた。星が集まって仏像のような姿を描いているところがあり、光に満ちた姿は美しかった。

残念ながら写真はない。光があると鑑賞に支障が出るので、スマホを出すのもダメだったような気がする。なのでその作品の光景は、頭の中にだけ残っている。

あの作品をもう一度見たい、のだが、作者名も作品名も書き留めていなかった。また何処かで展示をしているのだろうか。していたとしても、この近くではやっていないだろう。いつかまた、あの星の海を歩きたい。

コーヒーを一杯いただけると喜びます。