ただ今冷戦中⑤弁当でセルフ制裁

ただ今正直過ぎて心の声までダダ漏れさせてしまう夫に苛つき冷戦と休戦をしばらく繰り返している。

夫はとにかく思ったことを無意識のうちに口にしてしまうのかもしれない。

言わない方がいいことを口にしてセルフ制裁のように自分の仕事を増やしていく。

今から30年くらい前、私達がまだ新婚の頃私は夫のお弁当を作っていた。

ある日「今日はおかずが多かった、海苔弁にするならおかずは少なくていい」とクレームを付けてきた。

おかずが少ないと文句言うならまだわかるが、おかずが多いと言われるのは想定外だった。

しかも海苔弁にするのにはひと手間かけているのにだ。

私は海苔ごはんが好きだから当然夫も喜んでくれると思ったのに、まさかのクレーム。

「なんで人に作ってもらってるのに下らない文句言うの？」と私が言うと。

人に意見されることが死ぬほど嫌いな夫は「もういい！明日から自分で作る」と言い放ち、それ以降自分でお弁当を作るようになった。

なんだか馬鹿馬鹿しくなった私は朝早起きをすることもやめた。

やってもやらなくても無神経な一言が返ってくるのだ、だったらやらない方がいい。

それからしばらくして私はパートで働き始めた。

勤め先は家の近所だったのでお昼は実家で済ませていた。

いつものように昼休みに実家に行くと母がいない。

えー私のお昼どうしよう、家に何か残り物あったかな？

自分の家に戻ると何とテーブルの上に夫が作ったお弁当が！

持っていくのを忘れたんだ！

お腹が空いていた私には天からの恵みに見えた。そうだ食べてもいいか聞いてみよう！

その当時私達はまだ携帯を持っていなかったので、夫の職場に電話を掛けた。

「〇〇の家内ですが」と言うと同僚の方が慌てたように「〇〇さんの奥さん？今どこにいるんですか？〇〇さん熱があるから家に帰ったんですよ」

そこで私は理解した、咄嗟に「そうなんですか、私今出先でして、ご迷惑おかけして申し訳ありません」と言って電話を切った。

寝室から「どこに電話してるんだよ〜」といううめき声が聞こえてきた。

そっと寝室を覗き「お弁当が置いてあったから、食べていいのかなって思って会社に電話した。」と言うと。

「玄関に靴があるの気付かなかった？もういい食べろよ」と呆れたように弱々しく呟いた。

「私早退した方がいい？」と聞くと、

「いい　薬も飲んだし寝てるしかないから」と言う。

夫は甘えることが嫌いというか恩を着せられるのか嫌なの人なのだ。

だから何か言うとすぐに、

じゃあいい自分でやる！

となってしまうのだ。

普通に甘えればいいのに、具合わるいのに可哀想な人だなと思ったが彼なりのプライドもあるのだろう。

夫のことも心配だったが、夫が作ったお弁当の中身が楽しみだった。

私のお弁当にケチを付けたのだからさぞかし立派なお弁当なのだろう。

ワクワクしながら蓋を開けると

えっ！？

そこにあったのは日頃私がお弁当用に取り分け冷凍してしておいたおかずと冷食と大量の白米が入っていた。

これじゃ全然おかずがたりない

何しろお弁当箱の8割が白米なのだ、とても食べきれない量の白米は取り分け、私が作り冷凍したおかずと冷食の手間も工夫もないお弁当を食べた。

期待した分ガッカリだった。こんなお弁当で良かったのか？

ほんのちょっと黙っているか、言い方を変えればまだ私がお弁当作っていたのにね。

でもそういう弁当が良かったのね。

手をかけた方が良いのかと思ってました。

そういう意味では私は楽にはなったが、人にケチつけておいてあの完成度とは…そして熱にうなされる夫を置いて何か腑に落ちない気持ちで午後の仕事に向かったのだった。