口がきけない私 〜保育園編②〜
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保育園には行きたくはなかったが、行かなければいけないのではとも思っていた。
私は誰とも口をきくことはなかったが、何となく関わってくる子はいた。
子供の世界では口をきこうがきかなかろうが、あまり関係無いのかもしれない。
何となくコミュニケーションは取れるものだ。
私はラジオ体操が嫌いだった。
頑張ることや張り切ることが恥ずかしかったので、ひとり下を向いて拒否していた。
すると私の後ろの女の子が腕を掴み世話を焼いた。
それはもっと恥ずかしいことだった、別にやり方がわからない訳ではない、誤解されているようだったので次の日からラジオ体操をやるようになった。
張り切って行進することも恥ずかしかった。
しかし張り切って腕を振らないといつまでもやらされるので、それが嫌で腕を振った。
悪目立ちしないように頑張ったが、声だけは出せなかった。
ある日女の子と二人あやとりをしていたら、ジャイアンのような男の子がそれに割って入ってきた。
ジャイアンの乱暴な糸の取り方のせいで、あやとりはみるみるうちに見たこともない形になっていった。
それを元に戻すのは不可能ではないかと思ったが、私はジャイアンが怖くて何も言えなかった。
「どうにかしなきゃ」
その一心で復旧作業にあたったところ、なんとか元に戻すことができた。
ジャイアンはそれに感動し、私はその日じゅう付き合わされ何度もあやとりをやるハメになった。
そしてその夜熱を出し、しばらく保育園を休んだ
暫くぶりに通園した日、「また付き合わされたらどうしよう」と思っていたが、どうやらジャイアンはあやとりには飽きたようで声をかけてくることはなかった。
ある日先生に呼ばれた。内容は覚えていないが、頷いたりするだけで済むような内容だった。
しかし問題なのはその後で、「じゃあ次は〇〇ちゃんを呼んできで」と言われたのだ。
私は黙って頷き〇〇ちゃんの前まで行った。
お絵かきに夢中だった〇〇ちゃんは私に気づかない。
ただ、「先生が呼んでるよ」そう言えばいいだけなのに、どうしても声が出ない。
私は諦めて自分の席に戻った。
「こんなことも出来ないのか」
そう思われただろう、何をすればいいのかはわかっている。
だけど声が、声が出ないのだ。
先生と目が合って私は目を伏せた。
あの時、先生は私のことを試したのかもしれない。
それからしばらく経った日のこと、先生からクラス全員に対し「もうそろそろお遊戯会があります」という報告があった。
また張り切って恥ずかしい踊りをするのかと思っていたが、あろうことか、先生は私を主役に抜擢した。
私はパニックになった。
どうして?ありえない・・・!
このクラスで誰よりも何も出来ないと思われてる私が、何故主役に・・・?
私ひとりがみんなと違う踊りをする・・・
その状況を想像しただけで耐えきれなくなり、その場を逃げ出してしまった。
逃げるといっても行き場所はない。
すぐに同じクラスの女の子が私を捕まえた。
「どうしたの?」
目のクリクリした可愛い子だった。
私は喋らないが、その子とはよく一緒に遊んでいた。
これはちゃんと言わないとダメかもしれない・・・
この子だったら声が出そうな気がした。
「あの役はやりたくない」
そう絞り出した。
その子はちょっとビックリしたようだったが、「じゃあ私が代わってあげようか?」と言ってくれた。
その時私はつくづく思ったのだ。
主役はこんなふうに可愛くて優しい子がやるものなのだ。
その他大勢になって安心した私は、特別張り切ることもなく、でも主役を引き立てるように踊った。
それから卒園するまで、その子とだけはお喋りすることができたのだった。
その頃私が思っていたのは、「みっともなく目立ちたくない」ということだけだった。
色んな人を見ながら、よくこんな恥ずかしいことが出来るなと思った。
こんなこと私は絶対したくない。
目立たないようにしていれば恥をかくこともない。
だから大人しくしている。
人見知りともいえるのかもしれないが、異常に自尊心が高かったのではないかと思う。
家の中という小さな聖域では、私は特別な子でいられる。
でも私は知ってしまった。
大きくなればなるほど、いつまでも安全な場所に居続けることはできないということを。
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