不審者に遭遇した話
高校の頃の話だ。
マラソンの練習が嫌いだった。
iPod持ち込み可なら考えるが、何が楽しくて学校の周りをまわらねばいけないのだ。
虫も人も多いしゴールは遠いし散々だ。
先生は生徒に走り方を教えるのではなくただ走らせていた。
教育でもなんでもない。
僕は「ふざけてダラダラ走るよりも普通に走ったほうが早く終わる」と言うことを知っていたのでいつも中盤で一人だった。
人と喋る余裕はないし(友達も少ないし)早く終われとずっと思いながら走っていた。
結局最後までマラソンの授業は好きになれなかった。
というか、マラソンした後にシャワーも浴びずに授業を受けさせるなんてどう考えても狂ってる。
どこが「健全」なのだ不潔極まりない。
この授業で何を教えたいんだ汗の臭さなら3歳から知っている。
そんなふうに辟易としていた私にあるニュースが舞い込んだ。
先生が僕らを座らせて言う。
「最近、マラソンの授業中に不審者がいたという情報があった。変な奴がいても声をかけるな。以上。走れ。」
僕らは胸を躍らせた。
「不審者だって!」「見たい!」「どんなやつだろう!」
当時の僕らのニュースといえば「コロロというグミは乳首と同じ柔らかさらしい」というこの世で最も必要のない情報くらいだった。
義務教育を受けてきたとは到底思えないバカ具合である。
それからというもの、乳首の馬鹿達は不審者との遭遇に期待しながら走った。
いつもより顔を上げたせいかタイムも上がった。
先生の策略という可能性も疑った。
しかし走れど暮らせど不審者は現れなかった。
話題というものはそんなもんで、僕らはあっという間に忘れた。
よく考えたら不審者の何が面白いんだとすら感じていたのかもしれない。
すっかり忘れ、再びマラソンへの憎悪を増していた日の帰り道のことだった。
自転車に乗って下校していると、、
あ!!!!不審者!!!!!!!!
僕は不審者に遭遇した。
ありがたいことに、一目でわかる不審者だった。
ボロボロの自転車にはスピーカーがついており知らない音楽が流れている。
長い金髪のロングヘアー、ゴーグル(のようなもの)。
おそらくガムを噛みながら何か意味不明な言葉を発している。
とてもわかりやすく不審なおじいさんだった。
不審ではあるがおじいさんは突然襲ってくることはなく、僕とただすれ違っただけだった。
あのおじいさんは一体何者だったのだろうか。
この星の住民だったのだろうか。
今思い返してみれば、乳首と同じ柔らかさのグミに一喜一憂する高校生のようがよっぽど不審者である。