フィンランドの旅(6)
もうヘルシンキで過ごせる時間も残りわずかなので、6日目の朝はお土産を買う時間にした。
ヘルシンキ中央駅近くにある「Ruohonjuuri Mansku」というオーガニック専門店で、チョコレートや紅茶などを買った。
「グーディオ」(Goodio)というブランドのミントチョコがとりわけおいしかった。
それから、カンピセンター内のKスーパーでもバラで配る用のお土産を買った。1ユーロちょっとで買えるFazerのチョコレートがとても良かった。フィンランドを代表するお菓子メーカーで、いろんな種類のチョコがある。個人的には「FAZERINA」というオレンジ風味のチョコレートが好きだった。
同じくカンピセンター内の「ROUND」で、気になっていたヴィーガンのドーナツを食べた。
オレンジチョコクランベリーとレッドヴェルヴェット。ヴィーガンだから、卵も牛乳も使っていない。見た目はメチャクチャ甘そうだけど、意外とそこまでではなく、人気なのもうなづけるおいしさだった。大満足である。ひとつ800円する以外は。。。
エスプラナーディ通りのイッタラとアラビアのお店も訪ねた。高いけど、素敵だった。
ヘルシンキ大聖堂のすぐ隣にある「フィンランド国立図書館」もチラ見。絵になる空間。
*****
「最後にあと一回、どのサウナへ行こうか?」
と、昨日から思案していた。
ヘルシンキ最古の公衆サウナ「コティハルユ・サウナ」やおしゃれでバルト海に飛び込める「ロウリュ」、それに宿のサウナとだいぶ満喫したけれど、せっかくフィンランドへ来たのだから、あと1回くらい本場のサウナを味わいたい。
コティハルユ・サウナの薪ストーブと白樺の香りがとても良かったから、最後にもう一度行くのもアリだと思った。しかし、月曜日は休みだったので断念。
そしたら、宿からも近い「アッラス・シー・プール」にするか、と思った。ここも人気のサウナである。
しかし、何度も歩いて見慣れた景色になっていたから、どこか他にもっと惹かれるサウナがあればなあ、と思っていた。
そんな矢先のことである。
滞在5日目の朝、ひとりで宿の簡易サウナを楽しんでいたら、日本人と思しき男性が入ってきた。ぼくは日本人以外のアジア系男性のふりをしようとして、「Hi」と「ロウリュ、OK?」しか言わなかったんだけど、立ちあがろうとしたときに無意識に「よいしょ」と言ってしまい、「日本の方ですか?」「あ、はい」とバレてしまった。
どうやら彼もひとりでサウナ旅をしているらしい。
「どこのサウナがいちばん良かったですか?」
「クーシャルヴィーですね」
「クーシャルヴィー? どこにあるんですか?」
「ヘルシンキ中央駅からバスで1時間くらいです」
「かなりディープそうですね」
「ええ」
そのとき、ぼくは「あ!」と思い出した。
昨年11月にフィンランド行きが決まった頃、友人のいとちゃんに、おすすめのサウナを尋ねたことがあった。彼もまた数年前、フィンランドへサウナ旅をし、ぼくに憧れを植え付けたのだ。
そのときもらったメッセージを読み直した。
「湖にダイブできるところなら、いちばんおすすめなのがクーシャルヴィー」
やっぱり!いとちゃんが言ってたクーシャルヴィーだ!
「ヘルシンキからバスで行くとこなんだけど、ここは絶対行った方がいい!フィンランドでも珍しいスモークサウナで、国立公園内にある静かな湖にダイブできるから最高の体験になると思う!」
せっかくアドバイスをもらっていたのに、地図で見たらかなり遠かったため、当初は「ここまでは行かなくてもいいかな」と思ってしまい、あまり記憶に留めていなかった。
しかし、この奇妙な偶然の一致は見逃せなかった。偶然出会った日本人も、いとちゃんも、揃って「クーシャルヴィーがいちばん」と言っているのである。
さらに、初日にお世話になったプロサッカー選手の田中亜土夢さんにも尋ねてみると、「僕の大好きKuusijärvi!楽しんでください♪」と返信があった。
これは、行くしかない。最後に訪ねるならクーシャルヴィーしかない。
いとちゃんが送ってくれた参考記事には、訪れた人による興味深い感想が書いてあった。
「そしてメインのスモークサウナへ。一見かわいげのある素朴な小屋に見えるが、中身は凶暴。室温計は目を疑う130℃表示。中は真っ暗で黒い煤が舞っているのがわずかに見える。とにかく尋常じゃない熱さ」
ドキドキしてくる。
観光に使える最終日、ヘルシンキ中央駅からバスを乗り継ぎ、1時間ちょっとで最寄りのバス停に着いた。そこから大雪の中を歩いていき、ようやく着いた。
クーシャルヴィーという湖がある国立公園だ。その湖畔に、日本には存在せず、フィンランド国内でも珍しい「スモークサウナ」がある。
こんなに寒いなか、水着姿の男女が歩き、さらには湖で泳いでいるではないか。この光景に早速テンションが上がった。早くぼくも溶け込みたい。
まず「カフェ・クーシャルヴィー」の受付で13ユーロを支払い、隣の脱衣所で水着に着替える。別の扉から出ると、シャワーと電気サウナがある。いきなり外へ出ると寒いので、まず電気サウナで身体を温めた。これは日本にある普通のサウナとほぼ変わらない。ただし現地の人たちのロウリュは容赦ない。
身体が温まり、水とバスタオルとスマホを持って外に出た。そしていよいよスモークサウナへ向かう。湖畔にはいくつか建物があったが、頻繁に人が出入りしていて、ものすごい煙が吹き出している場所があった。きっとあそこだろう。
スモークサウナというのは、2000年以上も前からある原始的なサウナなのだそう。
Forbesの記事によれば、「煙突のないサウナ小屋の中でサウナストーンを載せた薪ストーブに何時間にもわたり、絶えず薪をくべ続け、室内に煙が充満し充分に熱くなったところで部屋のドアを細く開け、そして煙を出しきってようやくサウナに入れるという、とてつもなく時間と労力の要るサウナ」とある。
このクーシャルヴィー・サウナが13〜14時スタートなのはこのためで、朝6時頃から準備してようやくこの時間に人を入れられるようになるそうだ。
扉を開けると、独特の薫りが鼻をついた。真っ暗な空間には、たくさんの人でひしめきあっていた。最大15〜20人くらいだろうか。現地の言葉に交じって、日本語も聞こえる。どうやら若い女性の2人組がいるようだ。
地元のおじさんが慣れた手つきでロウリュすると、激アツになった。スモーキーな薫りが充満する。
「うおおおお!」と叫びたくなるような熱さ。およそ115℃。耳が痛い! 思わず手で覆う。しかし今度は覆った手の甲が痛い。悶絶するような熱さだが、身体は不思議と心地良い。
日本人女性たちも、キャーキャー言いながら楽しそうだ。
「ヤバい、もう無理!出る!」
「私あと1分、耐える」
しばらくして茹でダコ状態になり、外へ出る。そして水風呂、ではなく、ハシゴを降りてクーシャルヴィー湖に浸ることに。
水温はマイナス1℃。メチャクチャ冷たい。しかし身体が茹で上がっていたため、無事入れた。
1分も浸かれば今度は冷たさで限界になるが、上がると爽快な気分で外気浴ができた。
・・・素晴らしい。なんて気持ちが良いのだろう。
身体を激しく熱し、激しく冷やす。このダイナミックな落差は、日本では味わえない。最高である。
日本人女性たちと話す。彼女たちは北極圏のロヴァニエミで2泊してからヘルシンキに3泊という旅行だそう。ここへ来るくらいだから、案の定各地でサウナを訪れていて、全部で5箇所くらい。それでも「ここがいちばん良かった」と言っていた。
ぼくも同感である。コティハルユ・サウナも素晴らしかったが、ここも最高だ。それぞれに良さがある。
サウナは裸で入るのが絶対いいだろうと思っていたけど、水着を着て男女一緒に入るのも楽しい。地元の人たちが男女で言葉を交わす様子も風情がある。
日本で言えば、山奥にある昔ながらの混浴温泉のようだ。たとえば青森の酸ヶ湯温泉のような。秘湯とまでは言わないけれど、「古湯」という感じ。それだけこのサウナにはフィンランドの文化や歴史が凝縮しているように感じた。
日本のサウナとは、完全に文化が違う。一度この本場のサウナを経験してしまうと、幸か不幸か、もう知らなかった頃の自分には戻れない。これから日本でサウナに入るたび、「何かが違う」と恋焦がれてしまうかもしれない。物足りなさを感じてしまう気がしている。
事実いとちゃんからも、「東京にある都会のサウナにはない、自然との一体感がたまらないよね。今すぐにでも行きたい笑」とメッセージが届いた。
ぼくは決して「サウナー」と言うほどのサウナ愛好家ではない。「銭湯やホテルに付いていれば入る」程度のサウナ好きである。
しかしそのレベルのサウナ好きであっても、フィンランドのサウナは、一度は体験する価値が「大いに」あるものだった。楽しいし、「これが本場なのか」と感動する。
こんな寒いなかで、湖を泳ぐなんて信じられなかったが、実際に経験して、その気持ち良さがわかった。冬のフィンランド。忘れられない体験になった。
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